■第131話 熱いですわ!
森から黒煙が上がっているのが見えた瞬間、私とアリスはクロに乗って全速力で現場へ向かった。そして森の上空に差しかかった時。炎をまとった巨大な三つ首の魔獣と、誰かが戦っているのが見えた。
「あれって、ルーナさんたちじゃ?」
思わず私はクロの背から飛び降り、そのまま飛翔魔法で急降下した。
「――《アイスランス》」
なんとなくみんながヤバそうな雰囲気だったので魔法で攻撃してみた。
そして、落下の速度を利用してそのまま魔獣の首を切りつける。
――ザシュッ!
魔獣の首が一つ宙を舞った。
「クレアさん!」
着地するとルーナの声が聞こえたので、振り返る。
「ふぅ。みんな無事?」
「ええ、全員無事です」
ルーナの返事を聞いて胸をなで下ろす。
よかった。
本当によかった。
……いや、よく見たら全然よくないな。
目の前にいるの、めちゃくちゃヤバそうな魔獣じゃん。
首一つ切り落としたのになんか平然としてるし。
アイスランスで貫いた部分も回復している。
「ねぇ……ところで、あれ何?」
私は魔獣を指さしルーナに尋ねる。
「わかりません、フレア・ケルベロスと言う名前でレベルは360です」
「なるほど」
ケルベロスか、フレアってことはたぶん見た目通り火属性だな。
ってかケルベロスって首切り落としても再生するんだっけ?
しかし、今のところ切り落とした首は再生する様子はない。
ふむ、魔法で攻撃した傷は回復してるからこれは神剣の効果なんだろうか?
だったら神剣で切ればいいんだろうけど、一つ問題がある。
あの魔獣……めっちゃ熱い!
とりあえず火を何とかしなきゃね。
「じゃあ、まずは周りの火を消そうか。みんなちょっと下がってね」
「えっ?」
「《ウォータージェット》」
――ザバァァァァッ!
滝のような水が溢れだし、燃え広がる炎を一気に飲み込んでいく。
周囲の火はだいたい消えたが、フレア・ケルベロスは牙をむいて唸っている。
「グルルルル……」
うん、めっちゃ睨まれてるよ……私。
首切り落とされて怒っちゃったかな?
しかし、警戒しているのかすぐには襲い掛かってこない。
その時。
「グオォォォォー!」
――ドォォォン!
突然、咆哮と共に横から強烈な衝撃が叩き込まれた。
フレア・ケルベロスの巨体が吹き飛ぶ。
「ちょっとクレア、派手にやりすぎですわよ」
見上げると、クロに乗ったアリスがこちらへ向かってきていた。
さっきの攻撃はクロのブレスだろう。
いや、それも十分派手なのでは?
しかし、フレア・ケルベロスはすぐに体勢を立て直した。
やっぱりこれ、水以外は効きが悪いみたいだな。
「アリス、あれ水属性でしか倒せないのかな?」
「さぁ、見たことない魔獣なのでわかりませんわ」
アリスはそう言いながらクロの背から飛び降りる。
「でもクレアが首を切り落とせたんですから、剣でも倒せるでしょう」
そう言ってアリスが聖剣を握る。
「でもあれ結構熱いよ?」
「ふふっ、大丈夫ですわ《ディヴァイン・オーラ》」
アリスの体が淡い光に包まれた。
「えっ? 何そのスキル?」
「ふふっ、勇者になったことで得たスキルの一つですわ!」
アリスがフレア・ケルベロスに向かって駆ける。
おそらく身体強化系のスキルなんだろうけど、熱も防げるのか?
「グオォー!」
炎の爪がアリスに襲い掛かる、だがアリスはそれを躱し首に聖剣を振り下ろす。
「はぁぁぁっ!」
――ズバァン!
「ギャァァァー!」
フレア・ケルベロスの首が宙を舞った。
「おおっ、凄いねアリス」
私が感心していると、なぜかアリスはプルプルと震えていた。
「ん? どうしたの?」
「あっついですわぁーーー!」
そのままゴロゴロ地面を転がっていた。
「ああ、だから言ったのに。――《ヒール》」
「あら、治りましたわ」
スッと起き上がった。
「さて、これで首はあと一つ……あれ?」
そう思っていたら。
「……あっ」
首を失ったはずの断面から、赤黒い炎が噴き出した。
アリスが切り落とした首がゆっくりと再生していく。
「グルルル……」
二つの頭が私をじっと睨みつける。
「えぇ、こんな熱い思いしたのに、私の攻撃無駄でしたの?」
アリスがぼやきながら聖剣を鞘に納め、私に視線を向ける。
「クレア、任せましたわ!」
「あっ、はい」
さて、どうしようか?
私は火傷してもすぐ直るしさっきみたいに神剣で切るか?
どう攻めるか考えていたら、フレア・ケルベロスが大きく口を開く。
「クレアさん。また炎が来ます」
ルーナが叫んだ。
「うん、ルーナさんはみんなを守って」
「はい!」
私はフレア・ケルベロスの元へ駆ける。
「《アイスランス》」
――ドォン!
巨大な氷槍が地面から突き出す。
「グガッ!」
二つの頭の口をまとめて貫いた。
よし、これなら炎も吐けないし動けないはず。
私は飛び上がり、フレア・ケルベロスの首に神剣を振り下ろした。
「せいっ!」
――ズバァッ!
「グギャァァァッ!」
二つ目の首が宙を舞う。
「あっついなぁ……でも、これで残りは一つ」
アリスが転がる気持ちもちょっとわかった。
だけどここで止まるわけにはいかない。
着地と同時に振り返り、最後の首へ神剣を振り抜く。
「これで、終わり!」
――ザシュッ!
フレア・ケルベロスの最後の首が宙を舞った。
――ズドォン。
音を立てて巨体が地面へ崩れ落ちる。
すると全身を覆っていた炎が徐々に弱まり、やがて完全に消え去った。
「……倒せた?」
私はきょろきょろと周囲を見回し、気配察知を発動する。
近くに邪教徒がいるかもしれないと思ったからだ。
しかし、感知できる範囲内にそれらしい気配はない。
「クレアさん、お怪我はありませんか?」
ルーナが少し心配そうに歩み寄る。
「うん、大丈夫だよ」
超回復スキルのおかげで今日も私は元気です。
「でもこの魔獣は何なんだろうね」
「ええ、炎を纏った魔獣なんて聞いたことないですわ」
アリスは倒れたフレア・ケルベロスの傍に歩いて行く。
「うわっ、まだ熱いですわね」
「うん、まだ近寄らない方がいいよ。それよりまだ火が残ってるから消火しないと……」
そう思っていたら、モニカが水魔法で消火活動をしていた。
この場はみんなに任せて大丈夫かな。
「これも邪教徒の仕業かも知れないから、私ちょっと周囲を確認してくるよ」
もしそうなら、まだ近くにいる可能性がある。
飛翔魔法でふわっと空へと舞い上がる。
「クロちゃんもここでみんなを守ってて」
「うむ、わかった」
「あっ、クレア。すぐ戻るんですのよ?」
「わかってるよ、何か見つけたら知らせるから」
そう言い残し、森の上空へ飛び立った。
私にはこの魔獣が自然発生なんて、どうしても思えなかった。




