■第128話 ファルシア王国
ラピスとの話を終え、私たちは客室に戻っていた。
私はお茶を飲みながらラピスから聞いた話を頭の中で整理していた。
すると、ルーナの様子がおかしいことに気づいた。
なんだか少し元気がない。
どうしたのかと思い声を掛けてみる。
「ねぇ、ルーナさん。どうかした?」
「あっ、いえ。先ほどのお話を思い出していました」
「えっ?」
「魔族に滅ぼされた国があったと」
「あっ!」
そうか、だから教団内部にも魔族の血を引くルーナを認めない人たちがいたのか。
「ルーナさんが気に病むことじゃないよ」
私はそう言って、ルーナに微笑みかける。
「今は魔族と人族が仲良く暮らしてるんだから」
「クレアさん……ありがとうございます」
ルーナが顔を上げ、微笑んだ。
よし。少し元気になったみたいだ。
そう思った、その時。
――ピピッ、ピピッ。
「うわっ! びっくりした……マギフォンか」
私は慌ててマジックバッグからマギフォンを取り出す。
「あっ、帝国からだね」
――ピッ。
「はい、クレアです」
『クレア殿ですか、ジルベールです』
その声を聴いてアリスが身を乗り出した。
「ジルベール宰相ですの? ちょうど良かったですわ」
『アリスレート殿下? どうなさいました?』
「先ほど聞いたファルシア王国という名、聞き覚えがあるんですの」
そうして、アリスはラピスから聞いた話をジルベールに説明した。
『なるほど、それが邪教徒の成り立ちでしたか』
「ええ、確か帝国領内にファルシアという地域がありましたわよね?」
『はい。そこが旧ファルシア王国のあった場所とされています。ただ……』
ジルベールが一度言葉を切る。
『文献によると、ファルシア王国はあまり評判のよい国ではなかったようです』
「どういうことですの?」
『王族が圧政を敷いていたらしく、内乱が起きる寸前だったようです。魔王国が滅ぼさなくても、いずれ帝国に併合されていたのではないかと』
「そうでしたの……」
「あの、その国の民たちはどうなったのでしょうか?」
『ファルシア王国から逃れた難民は、帝国や聖公国が受け入れたと聞いています』
「そうですか」
ルーナが少し安心したような顔をした。
少なくとも、圧政に苦しみ続けるよりは良かったのかもしれない。
そう思うと、私も少しだけ肩の力が抜けた。
「そういえばジルベール宰相。要件は何だったんでしょうか?」
『そうでした。ティア殿とレノアが無事に帰国しましたので、そのご報告をと思いまして』
「あっ! ティアさんたち無事に帰国出来たんだ。よかった」
セルジュ団長が付いてるとはいえ、実はちょっと心配だったんだよね。
『それからもう一点報告なのですが……』
「えっ?」
『魔の森で魔獣が異常発生しているとの情報が入りました』
「えっ……魔獣が? それってまさか」
『おそらく邪教徒側が我々の捜索に気づき、妨害しようとしているのでしょう』
「大丈夫なんですか? 私たち戻った方がいいんじゃ?」
『いえ、それが向こうの狙いである可能性もありますのでこの件はこちらで対応します』
「はぁ、対応ですか……」
それを聞いてなぜかアリスが頭を抱えていた。
「えっ? どうしたの?」
アリスは黙って首を振る。
「それで陛下はどうなさっているのです?」
『いえ、それはもう……やる気になっております』
「はぁ……やっぱり」
『今も訓練場で騎士たちと鍛錬をしています』
あっ、そうだ! 帝国にはあの人がいたんだ。
聖剣はアリスに譲ったけど、レベル五百超えの勇者――皇帝オルクスが。
……騎士の皆さん、魔獣が来る前に倒れなきゃいいんだけど。
『こちらは我々にお任せを。それでは何か情報が入りましたらご連絡ください』
「はい、わかりましたわ」
そうしてジルベールとの通話を終了した。
「まぁ、帝国は大丈夫そうだね」
「ああ。陛下だけじゃなく、ばあさんもいるしな」
この部屋には私たちしかいないので、アリスも素に戻った。
とりあえずイルス山脈を見に行く件を話しておくか。
「ねぇ、アリス」
「ダメだぞ!」
なぜか話す前に拒否されてしまった。
「まだ何も言ってないんだけど?」
「どうせまた玄黄を探しに行きたいとか言うんだろ?」
「えっ? なんで分かったの?」
「顔に書いてある」
なんだと……そんな馬鹿な。
私は無表情のつもりだったのに。
「いや、夜中にクロちゃんとちょっと見てくるだけだよ?」
「もし見つけたらどうするんだ?」
「あっ、それは……」
いや、正直見つけたら即倒そうと思ったんだけど。
……でも、それを言ったら絶対に止められるよね?
どうしよう。
私が言葉に詰まっていると、アリスが目を閉じて少し考える。
「どうしてもっていうなら……私も行く」
「へっ? いや、でもアリスは飛べないでしょ?」
「クロに乗って行けばいいだろ」
「それじゃ大騒ぎに……あれ? でも、公表してるからいいのか?」
「だろ? ラピス陛下に許可取ればわざわざ夜中に行かなくても堂々と調査に行けるだろ」
アリスがニヤリと笑う。
「うーん、たしかに」
完全に正論だ、返す言葉が思いつかない。
「よし、じゃあちょっとラピス陛下の所に行ってくる。モニカ!」
「はい」
――バタンッ。
扉が閉まった。
行ってしまった……。
「では私たちはお留守番ですね」
私が呆然としていると、ルーナがそう言って苦笑する。
さっきまで沈んでいたルーナの顔には、もう明るさが戻っていた。
「うん、ごめんねルーナさん」
「ふふっ、いいんですよ。アリスはああいう子ですから」
そう言って笑ったあと、ルーナは少しだけ真剣な表情になった。
「でも、もし玄黄を見つけたら必ず私を呼びに来てくださいね」
そうか。ルーナだって、この件は他人事じゃないよね。
聖女として、誰よりも魔神の復活を阻止したいと思ってるはずだ。
それに、玄黄を倒すにはルーナの神聖魔法が必要になるかもしれない。
「うん、わかった。約束します」
「ありがとう、クレアさん」
ルーナは明るい笑顔を浮かべた。
……さて。
アリスが許可を取ってくれたら、いよいよ玄黄探しだ。
今度こそ、見つかるといいんだけど。




