■第126話 アリスVSクレア
翌日。
私たちは朝食を済ませると、お城の訓練場へとやって来ていた。
本当はラピスの話を聞きに行きたかったのだが、午前中は忙しいらしい。
昨日の話の続きができるのは、午後からになるそうだ。
そこで時間ができたため、昨日約束した通り、アデルの剣術の稽古をすることになった。
「では、アデル殿下。まずはどの程度の実力なのかを見せて頂きますわ」
そう言ってアリスは木剣を構える。
「えっ、いきなり模擬戦なの?」
こういうのって普通、素振りとかから始めるのものなのでは?
「この方が手っ取り早いんですわ。さっ、構えてください」
「はっ、はい!」
アデルが真剣な表情で木剣を構える。
あれ? なんか思ったより様になってるな。
そう思っていたら――。
「では、行きます!」
アデルが地面を蹴った。
そのまま一気に距離を詰め、アリスへ斬りかかる。
――カンッ。
「きゃっ!」
だが、アリスは軽く木剣を添えただけだった。
アデルの一撃はあっさり軌道を逸らされ、そのまま勢い余って転んでしまう。
「なかなか筋はいいですわよ」
「本当ですか?」
「ええ。さぁ、続けますわよ」
「はい!」
アデルは立ち上がると、再び木剣を構えた。
その後も、アデルは何度もアリスへと切りかかっていく。
私はその様子をずっと見ていた。
本人は才能がないと言っていたけど、全然そんなことはない。
むしろ――。
「……結構、強いじゃん」
思わず声が漏れる。
アデルの動きは素人のものじゃない。
剣筋もしっかりしているし、足運びにも無駄が少ない。
少なくとも、その辺の騎士なら十分相手にできるだろう。
だけどこれは相手が悪すぎる。
アリスは、もはや別次元だった。
アデルの攻撃を受け流し、ほんの僅かな隙を突いて木剣を当てる。
まるで剣術の教科書に『こう動け』と書かれているような、無駄のない動きだ。
「はぁ……はぁ……」
何度目かの攻撃を防がれ、アデルが息を切らす。
「ではこのくらいにしておきましょうか」
「えっ、でも私まだやれますよ」
「無理はいけませんわ。そうですわね……」
アリスは目を閉じて考える。
そして。
「レベルの高い剣技を見て学ぶというのはどうでしょう?」
「「えっ」」
私とアデルの声が重なった。
嫌な予感がする。
ものすごく嫌な予感がする。
そして、その予感は的中した。
「さぁ、クレア。今度は逃がしませんよ!」
アリスがまっすぐ私を見つめる。
マジですか……えっ? 私、ここで死ぬの?
ふと見ると、アデルがキラキラした目で私を見ていた。
「うっ!」
やめて。そんな期待した眼差しで見ないで。
私がどうやって切り抜けようか思考を巡らせていると。
「みなさん、危ないですから少し離れてください」
ルーナが周りの人に避難指示を出していた。
「私が結界を張りますので、お二人とも全力で戦って大丈夫ですよー」
ルーナが笑顔で手を振っていた。
いや、善意でやってるんだろうけど……なんで逃走経路を封鎖してるの?
「ふふっ、ありがとうルーナさま」
アリスがニヤッと笑う。
「さぁ、構えなさい。クレア」
「うぅー、どうしてもやるの?」
「あたりまえでしょう」
「私……アリスに怪我させたくないんだけど」
その言葉を聞いて、剣を握るアリスの手がピクリと動いた。
「クレア、本気で来なさい」
さっきまでの笑顔が消え、木剣をまっすぐ私に向ける。
「あっ、はい」
しまった、ちょっと言葉を間違えちゃったな。
これは覚悟を決めるしかないか、そう思った瞬間。
「《身体強化》《剣神》」
アリスがスキルを発動する。
「えっ?」
次の瞬間、アリスの木剣が目の前に現れた。
最小限の動きで最短距離を描く一太刀。
それが剣神だ。
まさか初手からこれをぶつけてくるとは思わなかった。
――ガキンッ。
鈍い音が響き、私は木剣で何とか受け止めた。
今のアリスのレベルは三百ちょいだ。
なのでステータスは私が圧倒的に上だが、剣神は女神さまから与えられた加護。
その加護を持つアリスは単純に剣術だけなら私より遥かに上だ。
カン! カン! カンッ!
その後もアリスの激しい剣戟が続く。
右からの斬撃。
それを受け流した瞬間、今度は左。
さらに一歩踏み込み、下から木剣が迫ってくる。
「くっ!」
私は必死に木剣を振るい、それらを防いでいく。
やっぱりアリスの剣は速い。
しかも、ただ速いだけじゃなく一撃一撃が重い。
それに動きにまったく無駄がない。
私が力任せに防いでいるのに対して、アリスは技術だけで私を追い詰めている。
「どうしましたの、クレア!」
「ちょっ、ちょっと待って!」
「待ちませんわ!」
「ですよねー!」
――カンッ!
強烈な一撃を受け止める。
「凄い……」
後ろからアデルの声が聞こえる。
「これが……お二人の剣術……」
そんな感心した声を聞いている余裕なんてない。
アリスが再び踏み込んでくる。
「そこですわ!」
鋭い突きが襲い掛かってくる。
私は身体を捻ってかわし、そのまま木剣を振り下ろすが――。
「甘いですわ!」
アリスは身体を半歩ずらして避ける。
そして、その勢いを利用して私の懐へ入り込んできた。
「しまっ――」
木剣が私の胴へ迫る。
「貰いましたわ!」
私は咄嗟に身体を反らした。
木剣が服を掠める。
「危なっ!」
アリス、ちょっと本気すぎない?
「まだ終わってませんわよ!」
「ええっ!?」
アリスがさらに上段から木剣を振り下ろす。
私も反射的に木剣を振るう。
――ガキンッ!
再び木剣同士がぶつかった。
「「えっ?」」
激しい衝突に耐えきれず、互いの木剣が同時に砕け散った。
「……ははっ、凄いねアリス」
「ふふっ……クレアこそ」
砕けた木剣を見つめながら、私たちは思わず笑ってしまった。
「す、凄い……」
アデルが呆然としながら呟いた。
いや、私はほとんど力任せだったんだけどね。
しかしこれ、参考になったんだろうか?
アリスの剣技は見て真似出来るようなものではないと思うんだけど。
「お二人とも本当に凄いです。私もお二人みたいに強くなれるでしょうか?」
「ふふっ、努力すればなれますわよ」
「はい! 私、頑張ります!」
そう言ってアデルは木剣を握り直した。
「では基本から始めましょう。まずは素振りを百回ですわ」
「ひゃ、百回ですか!?」
「ええ。さっ、構えてください」
「はっ、はい」
そうして、アデルは元気よく木剣を振っていた。
うん……素直でいい子だなぁ。
この子なら、きっと強くなれるだろう。
そんな気がした。
でもよかった……私、生きてた!




