■第125話 合法ですよ
歓迎会が終わり、私たちは用意された客室へ戻ってきた。
しかしまだ寝るには少し早い。
というわけで、みんなでお茶を飲みながらのんびりしていた。
「いやぁ~、シルフィードの料理も美味しかったね」
「そうですわね。シルフィードらしい素敵なお料理でしたわ」
「あれ? でもアリスとクロは野菜ほとんどセレナにあげてなかった?」
「うっ、見てましたの?」
「好きな者が食べればよいのだ」
「そっ、そうですわ! 食材を無駄にしないためですわ」
「開き直ったよ」
「まぁまぁ、ボクは嬉しかったよ。二人ともありがとうね」
セレナがにっこり笑う。
うん、天使や。
天使がおる……。
思わず両手を合わせて拝んでしまった。
私たちがそんな和やかな時間を過ごしていると、アデルがふと思い出したように立ち上がった。
「そうだ、皆さん。お風呂に行きませんか?」
「えっ、お風呂?」
思わず前のめりになってしまった。
「あら、それは嬉しいですわ。昨日は野営でお風呂に入れませんでしたから」
「そうですね。せっかくですので、お言葉に甘えさせていただきましょう」
アリスとルーナも立ち上がる。
そして私たちはアデルの案内で浴場へ向かった。
城の廊下を歩きながら、私は前を歩くアデルを見つめる。
見た目は十二、三歳だ。
こんな少女と一緒にお風呂とか大丈夫なんだろうか?
……逮捕されない?
いや、待て。落ち着け私。
幼い外見ではあるが、アデルは十八歳だ。
つまりは合法!
大丈夫だ、きっと女神さまも許してくれる。
……たぶん。
いったい誰に向かって言い訳しているんだろう?
私がそんなアホなことを考えながら歩いていると、アデルが扉の前で立ち止まる。
「こちらがお風呂です」
扉を開けると、ほのかに硫黄の匂いが漂ってくる。
「えっ、これってもしかして温泉?」
「はい、私たちエルフのお風呂と言えばこれなんですよ」
「へぇー、なんか凄い楽しみ」
ワクワクしながら脱衣場で服を脱ぎ、浴場へ足を踏み入れる。
すると。
湯船の周囲は白木の柵で囲まれ、その向こうには藤の花によく似た紫色の花が咲き誇っている。垂れ下がった花房が夜風に揺れるたび、甘い香りが漂っていた。湯気の向こうには神樹の枝葉も見え、まるで森の中の秘湯に迷い込んだような光景だった。
「凄い……まるで森の中に温泉があるみたいだ」
「ええ、あのような幻想的な花は初めて見ましたわ」
私の隣でアリスも花に見惚れていた。
「あれは月花という木ですよ。この国にしかない植物なんです」
アデルが少し自慢げに胸を張る。
そして名残惜しく景色から視線を外し、私たちは洗い場へ向かった。
いつものようにモニカがアリスの体を洗い、アリスがクロを洗う。
そしてルーナはセレナの髪を洗っていた。
私の隣では、アデルが泡だらけになりながら自分の髪を洗っている。
ちょっとシャンプーつけ過ぎじゃない?
うーん……見ちゃダメなんだろうけどついつい見てしまう。
いや、別に体を見てるわけじゃないよ?
あくまで泡が気になっただけだからね?
しかし、お姫さまなのに侍女に洗って貰うとかじゃないんだな。
そう思って声を掛けた。
「あの、アデル殿下はいつもお一人でお風呂に入ってるんですか?」
「えっ? そうですね。小さい頃は侍女たちと一緒でしたが、最近は一人で入ってます」
そう言ってアデルは周りを見回す。
「でもこんな風に皆で入るの楽しいですね」
屈託のない笑顔を私に向ける。
「うっ! そっ、そうですね」
無垢な笑顔を向けられると、なんだか自分が悪いことをしている気分になる。
私は大きく首を振った。
「その……私って年の近い友達がいないので、皆さんとお友達になれたらなぁって思ってるんですが」
アデルが少し恥ずかしそうに笑う。
「はぅ!」
私は思わず変な声を出してしまった。
天使なの?
さっきセレナを天使認定したばかりなのに、天使が増えた。
もしかしてここは天国なんだろうか?
「も、もちろんです。私でよければ喜んで!」
「本当ですか?」
アデルの顔がぱっと明るくなる。
「あら、でしたら私もアデル殿下とお友達になりたいですわ」
「ええ、私もぜひ」
アリスとルーナも笑顔で頷く。
「ありがとうございます! では、これからは皆さんお友達ですね!」
アデルは嬉しそうに両手を合わせた。
「ええ、よろしくお願いしますわ」
「ふふっ、よろしくお願いします」
私たちはそれぞれ手を差し伸べ、握手を交わした。
そして全員が体を洗い終わると湯船へ向かった。
足先からゆっくりとお湯に入り、肩まで浸かる。
「はぁ~! これは最高だねぇ」
両手を伸ばし大きく伸びをする。
ふと見るとアデルがアリスと話していた。
「私、強くなりたいんです。なのでアリスレート殿下に剣術教えてもらえるの楽しみにしてます」
「ええ、でもそれでしたら私よりクレアに教わった方がいいかもしれませんわよ?」
「えっ、私?」
「私よりクレアの方が強いですからね」
いや、私はスペックが高いだけだから技術はアリスの方が上なんじゃないか?
そう思っていたら、アデルが私をジッと見ていた。
「クレア殿はそんなにお強いんですか?」
「えっと……いえ、それほどではないかと」
「強いですわよ。私より遥かに」
「おおー、ではクレア殿も私に剣術教えて頂けませんか」
どうしよう、そんな曇りなき眼で見つめられたら断れないよ。
「まぁ、少しくらいなら」
「本当ですか、ありがとうございます」
私がそう答えると、アデルが嬉しそうに私にぎゅっと抱き着いてきた。
「おおう! あのアデル殿下!」
突然抱き着かれて、思わず慌ててしまう。
しかし。
ああ、柔らかい体が密着して……ふわっとシャンプーのいい香りが。
いやいや、喜んでる場合じゃない。
私は必死に理性を総動員し、そっとアデルの肩に手を置き、距離を取った。
「あっ、すみません。嬉しくてつい」
アデルが照れ臭そうに笑う。
「い、いえ……別にいいんですけど」
私はちらりとアリスを見る。
……なんだろう。ものすごく嫌な予感がする。
「ふふっ。よかったですわね、クレア」
アリスはにこにこと笑っている。
……その笑顔が怖いんですけど。
「これは、私も少し稽古をつけて頂こうかしら」
笑顔のままアリスは指をポキポキ鳴らしていた。
その目を見ると……温泉に入ってるはずなのに、なぜか背筋が冷たくなった。




