■第123話 昔の私を知る女王
私は一度、落ち着いて考える。
ラピスが以前の私を知っているのだとしたら、話を聞いておくべきだろうか?
……いや、その前に一つ気になることがある。
というか、この人って何歳なんだろう?
「あの、ラピス陛下はおいくつなんでしょうか?」
つい、まったく関係ないことを聞いてしまった。
すると、ラピスは軽くため息を付いた。
「あなた、三百年前も初対面で同じ質問をしていましたが、まさか記憶を失っているんですか?」
三百年前にもこんな失礼なこと聞いてたのか私!
しかも初対面で!
いや、待って。
それは私じゃないんだけど!?
しかし、以前のクレアと私ってもしかして結構思考が似てるのかな?
そんなことを考えながらチラッと視線を向けると、アリスは静かに頷いた。
これは話して大丈夫ってことだな。
「えっと、説明が難しいんですが中身は別人なんです」
そう答えると、ラピスは不思議そうに私を見つめた。
「別人? どういうことでしょうか?」
首を傾げるラピスにアリスが声を掛ける。
「あのラピス陛下、今から話すことは他言無用でお願いいたしますわ」
アリスの真剣な表情を見て、ラピスは頷く。
「ええ、約束しましょう」
「ありがとうございます。実は――」
アリスが代わりに今までの経緯を説明してくれた。
多分、私が話すと余計なことまで言ってしまうからだろう。
うん、私の事をよくわかってらっしゃる。
アリスの説明を聞き終わると、ラピスの表情が一変した。
「それでは、全くの他人がクレア殿の体に入っていると?」
「はい、そうなりますわ」
「それは、あまりにも危険なのでは?」
先ほどまで柔らかかった視線が私へ向く。
まぁ、これは一国の女王として当然の反応だろうね。
最強の吸血鬼の体に、どこの誰ともわからない人間が入ってるんだから。
警戒しない方がおかしいよね。
私はスカーフを外し、首輪を見せる。
「この首輪がある限り、私はアリスさまに逆らえませんよ」
まぁ、これ本当は私には効果ないんだけどね。
でもこういう時には役に立つ。
「それは……隷従の首輪」
ラピスは少し戸惑っていた。
「ラピス陛下、クレアが信頼できる人物であることはこの私、アリスレート・ラフローグが保証しますわ」
「はい、たとえ首輪がなかったとしてもクレアさんは私たちを裏切ったりしません」
だが、アリスとルーナの真剣な表情を見て、静かに息を吐く。
「わかりました。お二人がそこまで言うのでしたら信じましょう」
どうやら、ひとまず納得してもらえたようだ。
私はホッと胸を撫で下ろし、スカーフをもう一度付けようとしたのだが。
いや、これもういいかな。
スカーフを綺麗にたたんでマジックバッグに収納した。
「あの、ところでラピス陛下は昔の私のことを知ってるんですか?」
「ええ、しかし封印されたというのは初耳ですね。私は行方不明になったと聞いていたんですが」
それもフィオナたちが私を隠すために流した情報なんだろうか?
魔王国では魔神と相打ちになって死んだことになってたし。
口伝で広めたから情報が微妙に変わっちゃったのかな?
まぁ、そこらへんはまたフィオナやアルテシアに聞けばいいか。
それより私が気になるのはもっと前の話だ。
「その、陛下は三百年前の私とどこで会ったんでしょうか?」
「この城で、ですよ。勇者殿と聖女カルミア殿、そしてフィオナ殿と一緒に来られました」
「あっ、魔神討伐の時ですか? もしかしてシルフィードも協力してたんですか?」
「はい、我々は主に邪教徒の動向を探っていました」
「邪教徒の?」
えっ、玄黄だけじゃなく邪教徒のこともそんなに前から調査してたの?
もしかして、ラピスは邪教徒についても詳しいのかな?
以前の自分の事も気になるけど今はそっちの話の方が重要だ。
「私たちも今、邪教徒たちを追ってるんです。知ってることがあれば教えて頂けませんか?」
思わず身を乗り出してしまった。
「そうですね」
ラピスは一度言葉を切る。
「お話するのは構いませんが少し長い話になりますので後日にしませんか?」
「えっ?」
「六百年前の話から始めなければなりませんので」
「あっ、それは確かに長くなりそうですね」
「それに皆さまもお疲れでしょう」
ラピスがそう言うとアリスが静かに頷いた。
「それもそうですわね」
「この後、ささやかではありますがアリスレート殿下の歓迎会を予定しております。それまで客室でお寛ぎください」
邪教徒の話は気になるけど、しょうがないか。
ラピス陛下も色んな話を聞いたし、少し情報を整理したいんだろう。
長旅でみんなも疲れてるだろうし、お言葉に甘えて休ませてもらおう。
しかし、歓迎会か。
エルフの国の料理、ちょっと楽しみだな。
あれ?
もしかして私も銀狼のこと言えないんじゃ……?
「では、私がご案内しますので」
アデルが立ち上がった。
「ええ、よろしくお願いしますわ。ではラピス陛下また後程」
アリスが一礼して、私たちは部屋を後にした。
ちなみに銀狼はなぜかついてこなかった。




