■第121話 予期せぬ出会い
その後、私たちはシルフィードを目指して森の中の街道を進んでいた。
先頭には銀狼がさっそうと歩いている。
普通なら四大魔獣が一緒に歩いてるのは異常な光景なんだろうけど、騎士たちは落ち着いた様子で銀狼の後を進む。
まぁ、すでにクロやセレナもいるので今更なのだろう。
慣れって本当に怖いね。
道中何度か魔獣が現れたが、すべて銀狼が倒した。
そして食材になる魔獣はエルネアたちが手際よく解体していく。
銀狼はその様子を嬉しそうに尻尾を振りながら眺めていた。
解体したお肉は冷却保存用の皮袋に包んで私のマジックバッグへ収納する。
正直クロの分食材も心もとなかったのでありがたいんだけど……。
「でも、これ絶対に自分用に狩ってるんだよね?」
「まぁ、いいだろう。それで私たちの傍にいてくれるなら都合もいい」
「それもそうか」
「食事くらいでしたら、わたくしや騎士の皆さんでどうにかなると思いますよ」
「うん、ごめんねモニカ」
ほんとにモニカにはお世話になりっぱなしだなぁ。
帝国に帰ったら何かお礼しないと。
そんなことを考えていたら、ゆっくりと馬車が止まった。
「あれ? 何かあったのかな?」
思わず慌てて気配察知を発動して周囲の様子を伺う。
すると、前方から複数の反応が近付いてくる。
魔獣じゃない、これは人かな?
「おおっ!」
窓から身を乗り出した私は思わず声を上げた。
馬に乗った集団がこちらへ向かってきている。
剣を持つものや背に弓を担いでいるもの、そしてなにより私が目を見張ったのはその耳だ。
尖った耳。間違いない、あれはエルフだ!
ついに来た。エルフの国の住人だ。
ファンタジー好きとしてはテンションが上がらないわけがない。
……でも男ばかりだな、いや、みんなイケメンだけど。
そうじゃないんだ。
私が求めているのはもっとこう――美少女的な何かである。
などと思っていたら、一人の少女が前に出て、馬を降りた。
十二、三歳と言ったところだろうか、肩まで伸びた金色の髪に長い耳。
白と淡い若葉色のドレスを纏った、森の妖精をそのまま形にしたような愛らしい少女だった。
おおっ、美少女来たー!
頭には白銀の小さなティアラを乗せている。
もしかしてエルフのお姫さまなんだろうか?
少女は銀狼の元へ行き、声を掛ける。
「銀狼殿、突然いなくなったので心配しましたよ」
「なんだ、吾輩を探しておったのか? アデルよ」
二人がそんな会話をしているところに、エルネアが馬を降り歩み寄る。
「あの、失礼ですがあなた方は?」
「あっ、もしやアリスレート殿下ご一行でしょうか?」
「はい、私は護衛隊長のエルネアと申します」
「申し遅れました、私はシルフィードの王女、アデル・シルフィードと申します」
アデルはスカートの裾を持ち上げ優雅に一礼した。
やっぱりお姫さまだったのか。
でもその挨拶って、もっと裾の長いスカートでやるものじゃないのかな?
彼女が着ているのは膝が見える丈の短いドレスだ。
いや、別にいやらしい目で見てるわけじゃないよ?
……本当だよ?
「なっ、これは失礼いたしました。少々お待ちください」
そう言ってエルネアは慌てて私たちの馬車に駆け寄る。
状況を見ていたアリスとルーナも馬車を降りる。
アデルの前まで歩いて行くと、アリスが優雅に一礼した。
「ところで、アデル殿下はなぜこのような場所まで?」
「はい、銀狼殿が急にいなくなったと聞き探しに来たのです」
アデルが視線を向けると、銀狼がスッと目を反らした。
「でも、そのおかげでアリスレート殿下にお会いできました。来てよかったです。せっかくですので私たちがご案内します」
「あら、それは助かりますわ。ではアデル殿下は私たちの馬車へどうぞ」
「はい、ではせっかくのお誘いですのでお言葉に甘えさせていただきます」
そうしてアデルも私たちの馬車に乗ることになった。ただ、広い馬車ではあるが七人乗るのは流石に厳しいのでクロには小竜の姿になってもらった。黒龍と白羊を従魔にした件はすでに帝国から公表されているのでもう隠す必要もない。
すると、アデルがクロを見て驚いていた。
「えっ、その方はいったい?」
「あっ、この子が黒龍のクロちゃんです。それと、こちらが白羊のセレナです」
私が手で指し示すと、セレナがぺこりと頭を下げる。
普通ならここで腰を抜かしてもおかしくない。
しかし――。
「まぁ!」
アデルは感心したようにクロとセレナを見比べた。
「黒龍と白羊がこんな可愛らしい姿になるんですね」
もっと驚くかと思ったらなぜか目を輝かせていた。
怖がるどころか完全に愛玩動物を見る目である。
クロなんて本来は世界最強クラスの魔獣なんだけど。
まぁ、今は羽の生えた小さな黒トカゲみたいな姿だし仕方ないか。
うん、たしかに可愛いよね。
調子に乗りそうだから本人には絶対言わないけど。
しかしやっと念願のエルフの美少女と出会えたんだ。
これはぜひ仲良くなっておきたい。
そう思っていたら。
私も気になっていたことを、アリスが代わりに聞いてくれた。
「ところで、アデル殿下はおいくつですの?」
「十八歳です」
「「「えっ?」」」
私とアリス、ルーナの声が綺麗に揃った。
全然見えないんですけど……まさかの合法ロリだったとは。
異世界は奥が深いね。
「あっ、申し訳ありません。少しお若く見えたもので」
「ええ、私やルーナさまより二つ年上でしたのね」
「ふふっ、そうですよね。私ってエルフの中でもちょっと幼く見えるんですよ」
アデルはちょっと困ったように笑った。
その後も、皆で他愛もない話をしていたら、遠くに大きな木が見えた。
「うわぁ、なにあれ? すごく大きいね」
「あれは、神樹ですよ」
アデルが誇らしげに微笑む。
「神樹?」
「はい。樹齢は数万年とも言われています。シルフィードをずっと見守ってくださっているんですよ」
数万年!?
私は思わず窓に張り付く。
凄いスケールだな、さすが異世界だ。
遠くから見ているのに、まるですぐ目の前にあるような錯覚に陥ってしまうほどだった。あの木の下に、エルフの国があるんだ。
私はしばらく言葉を忘れ、神樹に目を奪われてしまった。




