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■第120話 朝ごはん

 翌朝。

 騎士たちの話し声で目を覚ました私は、大きく伸びをした。

 馬車の窓から外を見ると――なにやら騎士たちが慌ただしく動き回っている。

 火を起こし、肉を切り、鍋をかき混ぜる。


「なんか朝から忙しそうだなぁ」


 朝食の準備だろうか。

 私は首を傾げながら馬車から降り、エルネアに声を掛けた。


「おはようございます、エルネアさん」


「あっ、クレア殿。よく眠れましたか?」


「ええ、まぁ。ところでこれは朝食の準備ですか?」


「はい……まぁ朝食の準備ではあるのですが」


 エルネアが微妙な表情で視線を逸らす。

 つられて私もそちらを見ると、そこには銀狼がいた。

 昨夜と同じようにテーブルの脇で調理の様子を眺めている。


 あれ?


 これってもしかして朝ごはん待ってるの?

 私はテーブルに向かい、席に着いた。


「あの、銀狼さん。おはようございます」


「うむ」


 ……返事だけは威厳があるんだけど。でも完全に朝ごはん待ちの大型犬である。


「その~、まだお帰りにならないんでしょうか?」


「なんだ、吾輩に帰ってほしいのか?」


 銀狼がジロッと睨む。


「違います違います! 決してそういう訳ではないんですけどね」


 私は慌てて首を振る。


「ふん、心配するな。ちゃんと礼はする」


「えっ、お礼?」


「うむ、吾輩は受けた恩は必ず返す。貴様らをエルフの国まで案内してやる」


 そう言って銀狼は胸を張る。


「はぁ……」


「ついでに朝飯も馳走になろう」


「それが本命ですよね?」


 思わずツッコんでしまった。

 すると、銀狼はそっと目を逸らした。


 うーん。


 森の中とはいえ、街道を進めばエルフの国にはたどり着けるんだけど、まぁせっかくだしそれもいいか。ロイヤル・ブラッドホーンのお肉もまだ残ってるし。


 ……いや、待て。


 邪教徒が銀狼を諦めていない可能性もある。

 だったら、銀狼がしばらく私たちと行動するのは悪くないかもしれない。


 エルフの国にいる間、玄黄を除く四大魔獣が三匹とも私たちの傍にいることになる。邪教徒が接触してきても、すぐ気付けるはずだ。その間に他の国には邪教徒の調査と玄黄の捜索を進めてもらえばいい。


 うん、案外都合がいいのかもしれない。

 そんなことを考えていると、テントの方からアリスたちがやって来た。


「あら、クレア。早いですわね」


「おはようアリス。ルーナさんもよく眠れた?」


「ええ、こういう場所で宿泊するのも新鮮でいいものですね」


 ルーナが少し楽しそうに微笑む。

 まぁ、キャンプみたいで私もちょっと楽しいけどね。


 アリスたちが席に着くと、モニカは調理しているエルネアたちの所へ向かった。

 たぶん私たちの朝食を作ってくれるんだろう。

 ふと見ると、アリスが銀狼に視線を向けていた。


「あっ、銀狼さんがエルフの国まで案内してくれるんだって」


「そうですの?」


「うん、それでちょっと相談があるんだけど――」


 私は邪教徒対策も兼ねて一緒に行動してもらう案を説明した。

 するとアリスはすぐに賛同した。


「なるほど、確かに良い案ですわね」


 だが、ルーナは少し申し訳なさそうな表情を浮かべる。


「でも、良いのでしょうか? 捜索をすべて他の国にお願いして……」


「大丈夫だよ」


「えっ?」


「邪教徒も玄黄もどこにいるのかわからないんだし、この広い大陸の中、私たちだけで探すのは無理だよ。だからみんなに協力してもらおう」


「ええ、その通りですわ」


 私の言葉にアリスも大きく頷いた。


「私たちの役目は邪教徒を止めること。そして玄黄を見つけ出して倒すことですわ」


 妙に気合が入っているな。

 もしかしたら、アリス。玄黄と戦ってみたいのか?


「玄黄ですか……たしかにクレアさんなら倒せるかもしれませんね」


「えっ、うん。まぁそうだね」


 玄黄か。


 物理も魔法も効かないらしいけど、ここにいる三匹の四大魔獣と同格ならたぶん勝てるだろう。実は私なりに戦い方も少し考えてはいるんだよ。


 たとえば毒なんかのデバフを与えてじわじわ倒すとか、魔法で凍らせるとか。

 あるいはエナジードレインで生命力を吸い尽くすとかね。


 ……いや、でもそれで本当に勝てるかはわからないか。


 ラピス女王なら、玄黄の弱点とか知ってたりしないかな?

 そんなことを考えていたら、銀狼が興味深そうにこちらを見た。


「ほう、貴様。そんなに強いのか?」


 あっ、この流れは……嫌な予感しかしない。


「いや、それほどでもないんじゃないかなぁと……」


 どう誤魔化そうか考えていたら、クロが口を挟んだ。


「うむ、主は我ら三匹が同時に挑んでも勝てんぞ」


 ちょっと、余計なこと言わないでー!


「うん、ボクもそう思う」


 おいおい、セレナまでー!

 ああ、どうしよう。これ絶対手合わせとかって流れだよね?


「それ程か? ならば――」


 銀狼の瞳がじっと私を見据え、立ち上がろうとした、その時。


 ――コトッ。


 そんな音を立てて、銀狼の前にお皿が置かれた。そこには、お肉にトマト、ピーマンなどを加えた色鮮やかな炒め物がたっぷりと盛られていた。


「お待たせいたしました、朝食でございます」


 モニカが優雅に一礼する。

 銀狼の視線が私から料理へ瞬時に移動した。


「おおっ! なんだこれは。こんなものは初めて見たぞ」


「お肉にトマトなどを合わせ、香辛料で味付けした炒め物でございます」


「ほう、それは楽しみだな!」


 そのまま銀狼は料理にかぶりついた。


「これは! 肉だけでも美味いのに、この赤い実を合わせるとさらに美味い!」


 尻尾をブンブン振って大喜びで料理を食べていた。


「では、みなさまの朝食もお持ちしますね」


「うん、ありがとうモニカ」


 私は心の底からモニカにお礼を言った。

 危うく朝食前に四大魔獣との模擬戦が始まるところだった。


 やはりモニカは有能だ。もしかしたら世界を救うのは私やアリス、ルーナではなく、モニカなのかもしれない。

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 たくさんの応援、本当にありがとうございます。

 引き続き書いていきますので、これからもどうぞよろしくお願いいたします。

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