■第118話 楽しい夕食
それからしばらく森の入口で待っていると、遠くの木々が大きく揺れた。
ズシン、ズシンと地面を揺らす足音と共に、銀狼が戻ってくる。
そして――。
「ほれ」
――ドォォン!
私たちの前に巨大な魔獣が投げ出された。
「えっ、なにこれ?」
「うむ、ロイヤル・ブラッドホーンだな」
「以前、私が倒したブラッドホーンの上位種ですわ」
クロとアリスが説明してくれたが、魔の森に魔獣狩りに行ったときに出たでっかい牛の魔獣の上位版か。
「獲ってきてやったぞ」
「あっ、ありがとうございます。でも本当に貰っちゃっていいんですか?」
「ん? ああ、そうだな」
そう答えた銀狼は、なぜかその場から動こうとしない。
むしろチラチラとロイヤル・ブラッドホーンの方を見ている。
そして私を見る。
再び魔獣に目を向ける。
また私を見る。
……あれ?
これはもしかして。
「あの、よかったら一緒に食べます?」
「おおっ! よいのか?」
銀狼の耳とシッポがぴんっと立った。
さっきまでの威厳はどこへ行った。
やっぱり私たちに調理してもらいたかったんだなこれは。
しかし、四大魔獣ってみんな食べ物に弱いんだな。
世界の頂点に立つ魔獣たちの弱点が食欲で大丈夫なんだろうか。
「えっと、エルネアさん。これ解体お願いできますか」
「はい、わかりました」
エルネアが数人の騎士と解体作業を始める。
すると銀狼はその光景を、行儀よくお座りをして眺めていた。
あれ? わんこかな?
「クレア、ちょっと」
アリスが小声で話しかけてきた。
「どうしますの?」
「えっ、なにが?」
「銀狼ですわ、従魔にしますの?」
「いや、それは……」
私は銀狼に目を向ける。
大きな体だ。たぶんクロと同じくらい食べるだろう。
こんなの従魔にしたら私はきっと破産してしまう。
いや、今もクロの食費とか払ってないけど。でもこれ以上アリスのお世話になっていたら帝国の財政が破綻してしまうかもしれない。そんなことを考えていたら、クロがトコトコと歩いて銀狼に近づく。
「銀狼よ」
「んっ? なんだ黒龍よ」
「我は今はクロという名を与えられている。あそこにいる白羊はセレナだ」
セレナが前に出て一礼する。
クロは面識があるようだが、セレナは初対面のようだ。
「ふむ、白羊までもが人に従っているのか」
「うむ、貴様はどうする?」
「どうとは?」
「主に従えば旨いものが食えるぞ」
「何!」
銀狼の顔が勢いよくこちらを向いた。
やめて。
そんな期待に満ちた目で見ないで。
大食い魔獣もう一匹飼うとか無理ですよ。
慌てる私をよそに、銀狼は目を伏せ考える。
「いや、吾輩はエルフを守らねばならん。従魔にはなれん」
そう言って首を振った。
「ふむ、それが貴様の役目か」
「うむ」
二匹はそれだけ言うと黙った。
なんだかちょっとかっこいいな。
さっきまでご飯の話してたのに。
それからしばらく待っていると、解体が終わり食事の準備が始まった。
石を積み上げ焚火を起こし、その上に鉄板を置く。
少し離れた場所でも大きな鍋でスープを作っている。
そして、分厚く切られた肉を鉄板の上に並べる。
ジュゥゥゥッ!
脂が弾ける音と共に香ばしい匂いが広がった。
「うーん、いい匂いだね」
「みなさまはこちらで座ってお待ちください。出来ましたらお運びしますので」
簡易のテーブルと椅子が設置されていた。
「はい、ありがとうございますエルネアさん」
私たちが席に着くと銀狼もテーブルの横に座った。
「あの、銀狼さんはいつも何食べてるんですか?」
ちょっと興味があったので聞いてみた。
「普段は森で魔獣を狩って食べているぞ」
「エルフさんはご飯作ってくれないんですか?」
「いや、たまに作ってくれる。だが毎日吾輩の分を作ると、エルフたちが先に飢えてしまうからな」
なるほど、やっぱりかなりの大食いなようだ。
そんな話をしていたら肉とスープが運ばれてきた。
「わぁ、これは食べ応えがありそうだね」
お皿の上には分厚いステーキが乗せられていた。
「セレナ殿にはこちらを」
エルネアが山盛りのサラダを持ってきた。
「ありがとう、美味しそうだね」
「ふふっ、よかったわね。セレナ」
セレナの嬉しそうな顔を見てルーナも笑顔を浮かべる。
「銀狼殿にはこちらを」
大皿に大量のステーキが乗せられていた。
「おお、これはよい匂いだ!」
勢いよく肉にかぶりついた。
「うむ、うまい!」
満足そうに尻尾をぶんぶん振りながら肉を食べていた。
うん、めちゃくちゃ喜んでるな。
なんかもう森の守護神ではなく大型犬である。
クロの前にも大皿が置かれた。
「うむ、いただきます!」
クロもナイフとフォークを使って上品に食べ始める。
相変わらず食事の作法だけは妙にしっかりしている。
たぶん私より綺麗な食べ方だ。
私も肉を切り分け口に運ぶ。
「うーん、口の中でとろけるような柔らかさ。まるで霜降り和牛みたい」
いや、前世でもそんな高級なお肉食べたことないんだけど。
でもたぶんこんな感じだと思う。
こうして私たちは。四大魔獣の一角であり、エルフの守護神でもある銀狼と共に、楽しい夕食の時間を過ごしたのであった。




