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■第116話 獣人

 そして私たちは、セシリアの街へと繰り出した。


 ケモミミはどこだ?

 私は街に出てからずっとキョロキョロと辺りを見回している。

 右を見て、左を見る。そして後ろを振り返る。

 しかし、今のところケモミミの姿は見えない。


「クレアさん、ちゃんと前を見ないと危ないですよ」


 ルーナに注意されてしまった。


「あっ、すみません」


 というか、魔法の国というだけあってかローブ姿でフードを被った人も多い。

 この中から探すのはかなり大変かも。

 そんなことを考えていたら。


「さて、まずはどこへ行こうか?」


 ノエルが振り返る。

 するとティアが勢いよく手を挙げた。


「はい、魔道具屋さんがいいと思います!」


「えぇ……ケモミミ探しじゃないの?」


「ケモミミってなんですの?」


 アリスが呆れたように言った。


「そんなに獣人に会ってみたいんですの?」


「うん。めちゃくちゃ会ってみたい」


「即答ですのね……」


「まぁ、そのうち見つかるよ。……あっ!」


 そんな話をしていた矢先、近くに魔道具屋を見つけた。


「あそこにあるけど。まぁ、ちょうどいいし少し見て行くかい?」


 するとティアが目を輝かせる。


「はい、是非行きましょう!」


「うん、まぁいいけど」


 私がそう呟くとティアが駆け出し、ノエルも後に続いた。


「では早速行きましょー!」


「ふふっ、ここはどんな魔道具があるのかな?」


「ちょっと、お二人とも。そんなに慌てないでください」


 レノアもそんな二人を追いかけて店に入る。


 店内に入ると、様々な魔道具が並んでいた。

 ふと見ると、ティアがある魔道具の前で立ち尽くしていた。


「ティアさん、どうしたの?」


「あっ、いえ。これ欲しいんですけど、ちょっと高くて」


 ふと見ると、水桶のような魔道具が置かれていた。

 これが前に言ってた洗濯用の魔道具なのかな?

 チラッと、値札を見ると。


「えっ、大銀貨三枚!」


 確かに高い。日本円に換算すると、大体三万円くらいだ。

 異世界だから相場はわからないけど、気軽に購入できるものじゃないな。

 そう思っていたらモニカが私の隣に立ち、魔道具を見る。


「これは、洗濯用の魔道具ですか。便利そうですね」


 モニカはそう言うと振り返りアリスに声を掛ける。


「アリスさま、この魔道具を皇城で使いたいのですが購入してよろしいでしょうか?」


「ええ、かまいませんわよ。そんなに便利な物なのでしたら、三つくらい買って行ってはどうです?」


「そうですね、クレアさま。この魔道具、マジックバッグに入りますか?」


「えっ、うん、入ると思うけど」


 すると、モニカが店主の所に向かう。


「すみません、あの洗濯用の魔道具を三台ください」


 えっ、本当に三つも買っちゃうの?


「えっ、三台? わかりました。ちょっと待ってくださいね」


 店主が慌てて商品を用意する。


「あっ!」


 その姿を見て、私は思わず声を上げた。

 店主は魔道具屋には似つかわしくない筋骨隆々な中年男性だ。

 そして、その頭にはぴょんと犬のような耳が生えていた。


「あら、店主さんは犬獣人なのですわね」


「ええ、そうですが、それがなにか?」


「いえ、こちらのクレアが獣人に会いたがっていましたので」


 店主と話しながらアリスが私を手で指し示す。


「あっ、どうも……」


「なんだい? 獣人がそんなに珍しいのかい?」


 店主は私を見て、少し照れ臭そうに笑っていた。


「良かったですわね。クレア」


 アリスも笑顔でそう言った。


 ……だけど。


 私は心の中で叫んだ。

 いや、これおっさんじゃん!

 私が求めていたのはケモミミ美少女なんですけど?

 筋肉ムキムキの犬耳おじさんなんてどこに需要があるんだよ!


 そんな失礼なことを心の中で考えながら、私たちは店を後にした。

 ふと見ると、ティアが嬉しそうな顔をしていた。

 さっきモニカが買った洗濯用魔道具はティアも使わせてもらえるらしい。

 乾燥機も作ってたし、これから皇城での洗濯はかなり楽になることだろう。


 ……あれ?


 私たちの目的って洗濯事情の改善だっけ?

 私が首を傾げていたら、クロが立ち止まった。


 クロの視線を追うと、そこには一軒のお店があった。

 看板にはシンプルに『肉』とだけ書かれている。

 おそらく肉料理のお店なのだろう。


「クロちゃん、あのお店が気になる?」


「うむ、いい匂いがする」


「じゃあちょっとあのお店に入ってみようか?」


「そうですわね、ちょうどお昼の時間ですし」


 そうして、みんなでお昼にすることにした。

 店内に入ると、お昼時ではあるが意外とすいていた。

 私たちはテーブルに着き、メニューを見る。


 このお店は、現代で言うところの焼肉屋さんに近いのかな。

 ただ、自分たちで焼くわけではない。

 厨房で調理された肉や野菜をパンに挟んで食べるみたいだ。


「なんだか変わったお料理ですわね」


「そうかい? ルミナスでは一般的な料理なんだよ。じゃあ私が注文しておこう」


 ノエルが店員さんに声を掛ける。


「注文いいだろうか?」


「あっ、はーい」


 透き通るような声と共にやってきたのは、十代後半くらいの可愛らしい女の子だった。


「ああっ!」


 思わず立ち上がった。

 彼女の頭には、可愛いネコミミが生えていたのだ。

 おお! 本物のケモミミきたーーー!


 これだよ! 私が求めていたのはこれなんだ!


「クレア、何をしていますの?」


「あっ」


 しまった、嬉しさのあまり我を忘れていた。

 ふと見ると、ネコミミ少女が困ったような顔をしていた。


「えっと、あのー、ご注文は?」


「すまないね。えーと、これとこれと――」


 ノエルが慣れた様子で注文していた。

 その間も私の視線はピコピコ動くネコミミにくぎ付けになっていた。


 ああ……触ってみたい。


「かしこまりました、では少々お待ちください」


 ネコミミ少女が一礼して立ち去ろうとしていた。


「あっ、ちょっと!」


 我慢できずに思わず呼び止めてしまった。


「はい? なにか?」


「あの……その耳、触っていいですか?」


 気付けば私は席から立ち上がっていた。

 手をワキワキさせながら近付く、その姿は完全に不審者であった。


「はい……?」


 ネコミミ少女が頬を引きつらせながら一歩後ずさる。


「クレア、失礼でしょう!」


 アリスの声で正気に戻った。


「あっ、しまった。つい欲望が抑えられなくて……」


「連れが失礼しました。注文は以上ですので」


 アリスが丁寧に頭を下げる。


「は、はい……」


 ネコミミ少女は警戒した様子で頷くと、そそくさと厨房へ逃げていった。


「あぁ……」


 私のケモミミが逃げていく……。


「残念でしたわね」


 アリスが呆れたようにため息をついた。


「クレアさん、駄目ですよ。猫獣人はよほど親しい相手以外に耳は触らせないんですよ」


 ルーナが説明してくれた。


「えっ、そんなに重要な場所なんですか?」


「はい。猫獣人にとって耳はとても大切な場所なんです」


「なるほど……」


 ……そういうことなら仕方ないか。

 うん、たしかに無理やりは良くないよね。

 とりあえず今は眺めるだけで我慢だ。


 しばらく待っていると、料理が運ばれてきた。

 テーブルの上に肉や野菜が盛られた皿と、パンが並んだ。

 どうやら肉と野菜を自分の好きなように挟んで食べるようだ。


「では私がお勧めを作ってあげよう」


「あっ、それは助かります」


 食べ方が良く分からないから実際に作ってもらえるのはありがたい。


「あの、セレナには野菜だけでお願いします」


 ルーナが小さく手を上げる。


「おっと、セレナ殿は肉は食べないんだったね」


「うん、食べられないわけじゃないんだけどあまり好きじゃないんだ」


 セレナがそう言うと、クロが目を輝かせる。


「では余った肉は我が頂こう」


「はははっ、じゃあクロ殿にはお肉たっぷりにするよ」


「うむ!」


 ノエルが用意してくれた焼肉サンドは、瑞々しい野菜と炭火で焼かれたお肉がよく合っていてとても美味しかった。


 こうして私たちは楽しく昼食を取り、その後も少し街を散策してからお城に戻った。

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