■第114話 協力
その後、私たちはそれぞれ部屋に案内され、休むことになった。
使徒さまが考えた物ってのがちょっと気にはなるけど。
それが完成すれば、協力してくれる各国とも、今まで以上に綿密な連携が取れるようになる。
明日が楽しみだ。
そんなことを考えながら、私はベッドに横になった。
しかし……レノアとモニカは凄かったな。
ふと、お風呂での光景が頭をよぎる。
ノエルの体を洗っているときも、二人とも動くたびに重力を完全に無視していた。そして、泡にまみれたノエルもなかなかのもので……。
うっ……いかんいかん。私は慌てて頭を振る。
う~ん……。
こんなことをしてる場合じゃないんだろうけど。
私はゆっくりと部屋の中をくるりと見回した。
そして、明かりを消し、頭からシーツを被った。
まぁ、その。
……一回だけね。
そうして、その夜はそれなりによく眠れました。
そして翌朝。
私たちは朝食を済ませるとノエルの工房を訪れた。
「おはよう、よく眠れたかな?」
「あっ、はい。……おかげさまで」
何のおかげかは、もちろん言わない。
目を反らしながら室内に入ると、すでに準備は整っていた。
床には一枚の大きな紙が敷かれていた。
その中央には巨大な魔法陣が描かれ、上下にも魔法陣がある。
そして、その中央には拳ほどの青い魔石が置かれていた。
「では早速始めよう。クレア殿、こちらへ」
「はい」
「クレア殿は、そちらの魔法陣から魔力を注いでくれたまえ。すまないがアリスレート殿下、それにルーナ殿も少し手伝ってもらえるかな」
「ええ、いいですわよ」
「私も喜んでお手伝いいたします」
私が上の方の魔法陣に手を置く。
反対側ではノエル、アリス、ルーナが下の魔法陣に触れる。
「クレア殿が注いだ魔力を、私が操作する。アリスレート殿下とルーナ殿には、その補助をお願いしたい」
「補助ですか?」
「どのようにすればいいのでしょうか?」
アリスとルーナが不安そうな表情を浮かべる。
「二人で魔力の流れを整えてくれればいい。細かい調整はこちらでやるから大丈夫だよ」
「要するに、クレアが流す魔力が均一に流れるようにすればいいのですわよね?」
「ああ、その通りだ」
私にはいまいちよく分からない。
でも、アリスとルーナは今の説明で理解できたようだ。
「では、クレア殿。魔力を流してくれたまえ」
「あっ、どのくらい流せばいいんでしょうか?」
「そうだね。最初は中くらいで、後から全力で頼むよ」
「……はい」
中くらいってどのくらいだ?
えーと、とりあえず、これくらいかな。
首を傾げながら魔力を流す。
すると、魔法陣が青白く光った。
「二人とも、この魔力が均等に魔石へ流れるように制御してくれ」
「わかりましたわ」
「はい!」
二人が返事をすると、魔石も光を放つ。
「おお! これは順調ってことですか?」
「うん、そうだね。ではそろそろ、魔力を増やしてくれ」
「了解です!」
私は全力で魔力を込める。
すると魔法陣の光が増した。
そして――。
青白かった光が、真っ赤に染まった。
「あれ?」
これ、なんか危険そうな色なんだけど、大丈夫なんだろうか?
なんか、魔法陣が『もう限界です』って言ってない?
そう思っていたら、ノエルが声を上げた。
「ちょっ、魔力が多すぎるよ! これでは制御が……」
「ええっ。これ私どうすればいいですか?」
私が慌てて魔力を弱めようとした、その時。
アリスとルーナの表情が変わった。
「大丈夫ですわ、そのまま続けて」
「はい、私とアリスでなんとか制御します」
二人が魔力を集中させる。
すると――。
真っ赤だった魔法陣が、再び青白い光へ戻っていく。
「おお……!」
ノエルが目を見開いた。
「すごい! 二人とも、ものすごい魔力制御能力だね!」
さすが勇者と聖女だ。
私はただ魔力を垂れ流しているだけなのに。
「よし、これならいける!」
ノエルが目を閉じ、集中する。
しばらくすると、魔石が強い光を放った。
「よし、もういいよ」
その言葉を聞いて私は魔力を流すのを止め、思わず息を吐く。
「はぁ、これで完成ですか?」
「うん、成功だよ!」
「おお、これで離れた相手と話ができるんですね!」
そう言いながら周りを見ると。
アリスとルーナが床にへたり込んでいた。
「あれ、二人ともどうしたの? 大丈夫?」
「ええ、大丈夫ですわよ。クレアはあれだけの魔力を流して平気ですの?」
アリスが息を切らしながら顔を上げる。
「えっ、私?」
思わず自分の体を確認する。
しかし、特に疲れてもいないしどこにも異常はない。
「うん、別に問題ないかな。たぶん吸血鬼だからじゃないかな?」
「吸血鬼にそんな特性あるんですの?」
アリスが呆れた顔で私を見る。
「吸血鬼というよりクレアさんの特性なのでしょうね」
ルーナも微妙な表情で呟く。
……なんか、二人ともひどくない?
人を化け物みたいに。
見た目はこんな美少女なのに。
「さて、最後の仕上げだ。ティア、頼むよ」
「はい、お任せください」
ティアがナイフのようなものを手にして一歩前に出た。
「あれ? まだなにかやることがあるんですか?」
「ああ、魔石を切り分けるんだよ」
「あっ、そういえばそんな話をしてましたね」
「この作業は私よりティアの方がうまいから任せたんだよ」
「ふふっ。魔石の切断はフィオナさまのお手伝いでよくやってましたからね」
ティアが自信満々に胸を張る。
「へぇ。ちなみに、その手に持っているのは?」
「これはですね。魔石を切断する魔道具。その名も『魔石カッター』です!」
「……なんか、そのまんまだね」
「いや、シンプルでいいじゃないですか!」
ティアは少し不満げにそう言いながら、魔石にカッターを向ける。
すると、ティアの目が赤く光る。
「えっ?」
私が驚いているとノエルが説明してくれる。
「あれはティアのスキル、《均等切断》だよ。物を寸分の狂いもなく切り分けられる」
「へぇ、ティアさん。そんなスキル持ってたんだ」
ちょっと地味だけど、便利そうなスキルだ。
そんなことを考えていたら。
ティアがこちらを見る。
「……今、地味なスキルって思いました?」
「いえいえ、思ってませんよ」
思わず大げさに首と手を振って否定した。
しかし、私ってそんなに顔に出てるんだろうか?
「……まったく」
頬を膨らませながらもティアが魔石にカッターを押し当てる。
すると、硬そうな魔石がまるで豆腐のようにスッと切れていく。
そしてあっという間に、綺麗に六等分された。
「はい、出来ましたよ」
ティアが満面の笑みで振り返る。
「うわぁ、すごいね。こんな綺麗に切り分けられるんだ」
「ふふっ、そうでしょう!」
うん、これは本当にすごいスキルだ。
ケーキとか切り分ける時に、みんなで平等に分けられる。
「クレアさん、なにか失礼なこと考えてませんか?」
「いえ、考えてません!」
……なぜバレた?
私とティアがそんなやり取りをしていたら。
「まぁまぁ、いいじゃないか。では、この魔石をそれぞれの機器に嵌めて――」
ノエルが作業を進める。
「よし、これで完成だ!」
「おおー!」
ついに通信魔道具が完成した。
「これで本当に通話できるんですか?」
「うん、試してみるかい」
「はい、ぜひ!」
その後、ノエルに使い方を簡単に説明してもらった。
ノエルは子機を持って部屋から出ていく。
少し待っていると。
ピピッ、ピピッっと機械的な音が鳴った。
「えっと、ここを押すんだよね」
画面に表示されたボタンをピッと押す。
……なんだろう。
ファンタジーな世界なのに、操作感が妙に現代的なんだけど。
まあ、元日本人の使徒さまが考えたんだから仕方ないか。
『あー、聞こえるかな?』
魔道具からノエルの声が聞こえた。
「おお、凄い。ちゃんと聞こえてますよ」
『よし、成功だね。それじゃあ戻るよ』
ドタドタと騒がしい足音と共に、勢いよく扉が開く。
そしてノエルが私の手を握る。
「やったよ、クレア殿! 君のおかげで、六百年完成しなかった魔道具が――ついに完成したよ!」
「あっ、はい。私も嬉しいです」
ノエルは私の両手を握りブンブン振り回す。
「もっと喜びたまえ! これはとんでもない偉業なんだよ」
ノエルの顔は、今まで見たことがないほど輝いていた。
「あはは、そっ、そうですね。わーい。うれしいなー」
「なんでちょっと棒読みなんだい?」
こうして、六百年もの間、完成しなかった通信魔道具は――。
妙にテンションの高い王女さまと、魔力を垂れ流した私と、床にへたり込んだ勇者と聖女と、魔石を豆腐のように切ったメイドのおかげで。
ついに完成したのだった。




