■第113話 通信手段
「その資料を、少し詳しく見せていただけますか?」
私は資料を受け取り、じっくりと目を通す。
「グリフォンにもこの首輪を嵌めてたけど、なんでわざわざ人間用のものを使おうと思ったんだろ?」
私が呟くと、エミールが説明してくれる。
「この首輪は、人間の奴隷用に作られたものです。魔獣の精神に干渉して操るには効果が弱い。ですが、そこを強化すれば魔獣も操れると考えたのではないでしょうか?」
「なるほど。じゃあ、これは失敗作なんでしょうか?」
私はグリフォンから回収した首輪を取り出した。
「ちょっと見せてもらっていいですか?」
「あっ、はい」
エミールが首輪を眺めていると、ノエルが声を掛ける。
「どうだい兄上。魔獣用に改良されているだろう?」
「そうだね、資料に書いてある改良と同じだね。でも、これは失敗と言うより試作品かな」
「それで、これを改良したのはそのレステアさんってことなんですかね?」
私が問いかけると、エミールは首輪をテーブルに置いた。
「まだ断定はできませんが、可能性は高いでしょうね」
やっぱりか。
これは他の資料もしっかり確認した方がいいな。
「他の資料も見せていただけますか?」
「構いませんよ」
「私にも見せてくれ」
ノエルと二人で資料に目を通す。
しかし、他にはノエルの魔道具に関する資料は見つからなかった。
「はぁ、やっぱりレステアさんが魔道具を改良したっていう証拠は見つからないですね」
思わずため息が出てしまう。
「うむ、ルミナスでも引き続き調査を進めよう」
静かに話を聞いていたアルベールが口を開いた。
「しかし、まずは優先すべきことを決めねばならんな」
「それでしたら、やはり玄黄ではないでしょうか?」
アリスがそう言った。
私も同じ意見だった。
邪教徒が玄黄を探しているのは間違いない。
だったら、私たちが先に見つけないと。
「そうだな。ではルミナスは玄黄の捜索を優先しよう」
「ええ、お願いいたしますわ」
アリスが頭を下げる。
「じゃあ、僕は引き続きレステアのことを調べておくよ」
私の方を見てエミールが笑顔を浮かべる。
「はい、よろしくお願いします」
私たちはそれぞれに一礼し、部屋を後にした。
しかし、なぜかノエルを先頭に、みんな当然のようについて歩いている。
……あれ?
これはどこに向かってるの?
そう思っていると、ノエルが振り返った。
「みんなに休んでもらう部屋は用意してあるんだが」
そう言って、ノエルが少しだけ笑う。
「せっかくだし、私の部屋でもう少し話さないかい?」
「ええ、別にかまいませんが」
アリスが承諾する。
そして、離宮にあるノエルの工房に到着した。
部屋に入りそれぞれ椅子に座る。
「それで、なんのお話ですの?」
「そうだね、君たちはまだしばらく諸国訪問の旅を続けるんだろう?」
「そうですわね」
「だったら、いざという時のために連絡手段が必要だと思わないかい?」
通信手段?
それってまさか携帯電話みたいな魔道具を作ったのか?
「そのようなものが作れるんですの?」
「実はかなり前から研究を続けてたんだよ」
そこで立ち上がり、棚から何かを持ってきた。
再び椅子に座るとテーブルの上に二つの懐中時計のようなものを置いた。
「これは?」
「こちらが親機、そしてこっちが子機だ」
「はぁ?」
アリスが首を傾げる。
ノエルの話を聞いても他のみんなはピンと来てないようだけど、私にはなんとなくわかる。もしかして、これはトランシーバーのようなものなのか?
「それ、もしかして離れた相手と会話ができるんですか?」
私は思わず身を乗り出した。
「うん、良く分かったね。クレア殿の言う通りだ。ただこれはまだ未完成なんだ」
「未完成?」
「そう、魔石が入っていないんだ。だからクレア殿に協力してもらえないかと思ってね」
「もちろん協力しますよ。何をすればいいでしょうか?」
迷わずそう答えた。
これがあれば各国の連携がもっと取りやすくなる。
「君の魔力を借りたい」
「魔力ですか?」
「ああ、これは切り分けた魔石それぞれに、まったく同じ魔力波形を同時に焼き付ける必要があるんだ」
えっと、どういうことだ?
周波数を合わせる、みたいな感じかな?
「同じ波形、ですか?」
「うん。それぞれの魔石を親機と子機に登録すれば、子機から親機へ、そして親機から子機へ通話できるようになる」
「あっ、はい」
少し難しい話だけど、要するに――。
この魔道具同士で、離れた場所にいる相手と話ができるということだ。
うん、それさえ分かってればきっと大丈夫だ!
「ただ魔石の錬成の際に膨大な魔力と緻密な魔力操作が必要になる。そういった事情で今まで完成しなかったんだ。だけど君の魔力ならまず大丈夫だ」
「なるほど、子機を複数作ることは可能ですか?」
「もちろん。ただ、一つの魔石を切り分けて使うから、数には限界があるけどね。まぁ、それでも子機は五個くらい作れると思うよ」
帝国、魔王国、聖公国、ルグレシア、ルミナス。
うん、五個もあれば十分だ。
「では今夜のうちに子機の準備をしておくから、作業は明日しよう」
「はい、わかりました」
明日か、なんだか楽しみだな。
「でもこんなの作っちゃうってやっぱりノエル殿下凄いですね」
私がそう言うと。
ノエルがなぜか少し気まずそうな顔をした。
「いや、これは私の発案じゃないんだ」
「えっ? では誰が?」
「古い文献に書いてあったんだ。使徒さまがセシリアさまを通して、ルミナスに製作を依頼したそうなんだけどね」
「使徒さまが……?」
「ああ。ただ、当時は完成させることができなかったそうだ」
また……使徒さま。
これは本当に、ただの偶然なんだろうか?




