↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
111/149

■第109話 一週間風呂に入っていない者たち

 ノエルは私を見つめながら一瞬固まっていたが、やがてポツリと呟く。


「……彼女が?」


「ええ、そのクレアがですわ」


「いやいやいや、待ってくれ。四大魔獣を従えたというのは……あの四大魔獣だろう?」


 アリスが無言で頷く。


「えっ……本当に?」


 ルーナとモニカも静かに頷いた。

 まぁ、そりゃ普通は信じられないよね。

 でも、これって私のことも説明しなきゃいけない流れかな?

 いや、とりあえずクロたちのことだけでいいか。


「はい、本当ですよ。私が黒龍を、ルーナさんが白羊を従魔にしてます」


「本当に従えているのかい? それで、黒龍と白羊はどこに?」


 すると、クロとセレナが小さく手を挙げた。


「我が黒龍である」


「あの、ボクが白羊です」


「へっ……?」


 ノエルの視線が、二人の足先から頭までゆっくりと移動する。

 目の前にいるのは、どう見ても普通の女の子だ。

 しばらくして、ノエルは困惑しながらも小さく頷いた。


「正直……信じられないが、確かにこの二人からはかなり強力な魔力を感じる」


 私はクロとセレナを従魔にした経緯を説明した。


「なるほど、クレア殿は本当に凄いんだね。君は一体何者なんだい?」


「えっ、いや、それは……」


 私が説明に困っていると、アリスが口を開いた。


「ノエル殿下。クレアの事ですが……絶対に他言しないと誓えますか?」


「えっ?」


 ノエルの表情が変わる。

 アリスの真剣な顔を見て、しばらく考えたあと、静かに目を閉じた。


「うん、もちろんだ。極彩の魔道姫セシリアさまの御名にかけて誓おう」


 セシリアというのは、例のごとく使徒さまの妻の一人だ。

 そして、ここ魔法国家ルミナスの王女だったらしい。


 ……まったく。


 使徒さまはどれだけ各国のお姫さまを嫁にしてるんだよ。

 うらやましい……。


「わかりました、ではお話しします」


 私が、三百年前に魔神を倒した吸血鬼であること。

 祠の封印を解いてアリスに捕獲されたこと。

 そして、これまでの経緯を一つずつ話した。


「なるほど……魔神を倒したのは実は君だったのか」


 どうやらこの国でも魔神は勇者たちが倒したことになってるらしい。

 そして、倒したのは私ではなく私になる前の私なんだけど。

 うん……ちょっとややこしいね。


「はい、なんかそうみたいです」


「……なんか?」


 ノエルが首を傾げる。


「どうにも他人事みたいな言い方だね」


「まぁ、中身は別人ですから」


「なるほど。しかし、転生か……それは実に興味深いね」


 そういえばこの世界って私と使徒さま以外の転生者とかはいなかったのかな?


「その、他に転生したような人はいないんでしょうか?」


「使徒さまが別の世界から来たという話は聞いているが、他には聞いたことない」


 やっぱり、私と使徒さまだけなのか。


「話を戻すが、君なら魔神が復活しても倒せるんじゃないのかい?」


「……いえ、それはちょっと分からないですね」


 フィオナに聞いた話では、以前の私でもかなり苦戦したそうだし。

 今の私が勝てる保証なんてない。


「できれば魔神の復活そのものを阻止したいんです。ノエル殿下、協力していただけませんか?」


「ふむ」


 ノエルは目を閉じ、しばらく考え込む。

 やがて、ゆっくりと笑みを浮かべた。


「もちろん、協力は惜しまないよ。何より……自分の作品におかしな改良を加えられているのが許せないからね」


 ノエルが右手を差し出す。

 私はその手を握り、握手を交わした。

 うん、柔らかい手でした。


 あっ……じゃなくて。


 ちゃんと味方になってくれてよかったです。

 そんな私たちを見てアリスが小さく息を吐く。


「ノエル殿下が敵でなくて安心しましたわ」


「えっ、もしかして私……信用されてなかったのかい?」


「あっ、邪教徒が使った魔道具が、殿下がお作りになったものでしたので。おほほほっ」


「まぁ、たしかにそれはしょうがないね。では、もう少し邪教徒についての話をしようか」


「ええ、そうですわね」


 アリスとノエルが話を始めようとしたその時。

 レノアがスッと手を上げた。


「ん? どうしたんだいレノア君」


「いや、あの……」


 レノアは少し申し訳なさそうな表情で周囲を見回す。


「話し合いはいいのですが、その……帝国の人間である私が言うのもなんなのですが」


「うん、なにかな?」


「アリスレート殿下がお見えなのに……このままでよろしいのでしょうか?」


「ん?」


「いえ、おもてなしとか……」


 それを聞いてノエルの表情が固まる。

 そして――。


「ああっ! そうだったー!」


 声をあげ勢いよく立ち上がる。


「すまないアリスレート殿下。少し待っててくれたまえ」


 それだけ言い残すと、ノエルは部屋を飛び出していった。


 ……忘れてたんだな。

 皇女さまの歓迎を。

 ほんとに魔道具のことしか頭にないんだな、この人。


 数分後。


 ――ドタドタドタッ!

 騒がしい足音とともに扉が開いた。


「うん、大丈夫だ。陛下や使用人たちが、すでに歓迎の準備をしていたよ!」


「そっ、そうですか」


 アリスが少し微妙な顔をしていたが、ここでもパーティとかあるのかな?


「ささやかではあるが今夜は、陛下や兄上たちとの晩餐の用意もしてあるらしい」


 国王さまや王子さまとってこと?

 それって私も行かないと駄目なんだろうか?

 チラッとアリスに視線を向けると、静かに頷いた。

 これは諦めろってことなんだろうか?


 そう思っていたら。


「もちろん、ここにいる全員でだよ」


「えっ、もしかして。私もですか?」


 ティアが戸惑いながら一歩後ずさる。


「そうだよ、君も帝国からの客人だからね」


「うぅ、でも……」


 ティアが露骨に嫌そうな顔をする。

 まぁ、気持ちは分かる。


「ティアさん、大丈夫だよ。私たちもいるから」


「はぁ、わかりました」


 私が声を掛けると、ティアが諦めたように頷いた。


「さて、では晩餐までは少し時間があるし。どうしようかな?」


 するとレノアが再び手を挙げた。


「あの、でしたらノエル殿下とティアはお風呂に入ってはいかがでしょうか?」


「「えっ」」


 二人の声が見事に重なった。


「お風呂か。そういえばしばらく入ってなかったね」


「はい。私たちがこちらに来てからお二人とも一度も入ってませんよね?」


「えっ?」


 アリスが若干引いていた。


「その、お二人ともどのくらい入っていないのですか?」


「うーん……一週間くらいかな?」


 ノエルが顎に手を当てて考える。

 ……真剣に思い出そうとしている。

 いや、そんな真剣な顔でする話じゃないと思うんだけど。


「私も、帝国を出る前に入ったきりなので同じくらいですね……」


 ティアも少し恥ずかしそうにそう言った。


「ええ……なぜ私たちを待ってる間に入らなかったんですの?」


「何度か声は掛けたのですが、お二人とも研究に夢中でしたから」


「はぁ、ノエル殿下。全員で入れるお風呂はありますか?」


 アリスが呆れたようにため息をつき、問いかける。


「ああ、お城に魔道温泉があるよ」


 温泉!

 その言葉につい反応してしまった。


「魔道温泉? それって温泉ですか?」


「ああ。天然の温泉ではないけどね。魔石や刻印を使って、温泉と同じような効果のお湯にしているんだ」


「それは興味深いですね」


 私がそう言うと、アリスが苦笑する。


「クレアが興味深いのは別の事でしょう?」


「いやいや、そんなことはないよ。私は純粋に温泉を楽しみたいわけであって……」


「はいはい、わかりましたわよ」


 ……もしかして、また顔に出てた?

 いや、そんなはずはない。

 私は本当に温泉を楽しみたいだけだ。


 たぶん。


 きっと。


 おそらく。


 アリスがゆっくりと立ち上がる。


「ではノエル殿下。私たちをその温泉に案内していただけますか?」


「うん、もちろんだよ。ではみんなでゆっくり温泉に入ろう!」


 こうして、私たちは。

 魔道温泉という未知の場所へ向かうのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。