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■第108話 四大魔獣を従える者

 アリスはため息をつきながら部屋を見回す。


「お二人とも、まさか調査もせずずっとこんな魔道具を作っていたんですの?」


「いえいえ。ちゃんと調査もしましたよ」


 ティアが慌てて両手を振る。


「そうですの?」


「もちろんだとも。まさか私とティアが調査を放り投げて魔道具開発に勤しんでいたとでも思うのかい?」


「……その割には、ずいぶん楽しそうでしたけど」


 アリスが少し呆れたようにそう言った。


「し、失礼だな、そんなわけないだろう!」


 ノエルが抗議しながらも、目を泳がせていた。

 確かにこの状況ではそう思われても仕方ないのでは?

 でも、ちゃんと調査もしてくれてたようなのでちょっと安心した。


「では、まずは座ってくれたまえ。調査の報告をしよう」


 ノエルに促され、私たちはテーブルを囲む。

 使用人がお茶を入れて一礼すると、部屋から出ていった。


 そして、ノエルから調査結果を聞く。

 魔道具の欠片が何者かによって改良されていたこと。

 その男が、他にも魔道具を購入していたこと。

 さらに、店主に玄黄について尋ねていたこと。

 一通り話し終えると、ノエルは袋から石像を取り出した。


「これと同じものをもう一つ買って行ったらしい」


「それは!」


 アリスが思わず目を見開く。


「モニカ、あれを出してください」


「はい」


 モニカがバッグから鉱山で見つけた石像を取り出す。

 これまでの経緯も説明すると、ノエルは二つの石像を並べ、しげしげと眺めた。


「ほう……やはりこう改良したんだね」


 ティアも傍に来て石像を手に取る。


「やっぱり予想通りですね。反転の刻印と、かなり強力な呪術が込められています」


「どういうことですの?」


 二人の話が理解できず首を傾げるアリスを見て、ノエルが二つの石像を並べる。


「こちらが私が作った元の石像だ。これは魔獣除けの魔道具なんだが」


「もう一つの方は魔獣を呼び寄せていたようですわよ?」


「うん。こちらには反転の刻印と呪術が施されている。そのせいで、本来とは正反対の効果になっているんだ」


「なるほど、そういうことですの……」


 アリスが目を閉じ考え込む。


「では、まだ見つかっていないもう一つも、同じように改良されているんでしょうか?」


「さぁ、それはわからないね」


 ノエルが真剣な表情になる。


「ただ……問題はこの魔道具に込められていた呪術でね」


「呪術?」


「ああ、これはあくまで私の仮説なんだが――この魔道具にはレベル9の呪術が込められていた」


「ええ、それは聞いていますわ」


「では、これに効果を強化する特殊な改良を施したうえで、さらにレベル10の呪術を込めたら……どうなると思う?」


「レベル10? どうなるというんですの?」


 アリスが眉を寄せる。


「結論から言うと、四大魔獣すら呼び寄せられる!」


「えっ?」


「つまり――その邪教徒たちは、これを使って玄黄を呼び出そうとしている可能性がある」


 話を聞いて、私は思わず息を呑む。

 魔道具店で買ったもの。

 玄黄の目撃情報。

 スライムを従える魔道具。

 そして、魔獣を呼び寄せるよう改造された石像。


 それらを繋ぎ合わせて、ここまで推理したんだ。

 やっぱり、この王女さますごいな。


「まぁ、可能性があると言うだけで、実際に作れる者がいるかはわからないけどね」


 ノエルがお茶を一口飲む。

 

「……そうですわね」


 アリスが少しだけ表情を緩める。


「ただ、相手に相当な魔道具の知識を持つ者と、呪術を扱える者がいることは間違いない。そこは警戒した方がいいだろうね」


 一瞬沈黙が流れる。


 ……確かに。

 敵は思っていた以上に厄介な連中らしい。


「あっ、そういえば首輪も見てもらった方がいいんじゃないかな?」


 私はグリフォンが嵌められていた首輪の事を思い出した。


「ほう、それは隷従の首輪かな? 珍しいね」


 差し出された首輪を手に取り、ノエルが虫眼鏡でじっくり眺める。


「……うん。これも改良されてるね」


「えっこれもですか?」


「ああ。本来は人間を対象にした隷従の首輪なんだが、これは魔獣にも効果を発揮するように改造されている」


「そうなんですか……」


 あのグリフォンは、すでにテイムされていた。

 わざわざこんな首輪を付ける必要なんてないはずだ。

 実際、トロールロードは首輪なんてしてなかった。


「でも、なんで従魔にこんなの付けたんでしょうか?」


「おそらくだが――効果を試したんじゃないかな?」


「試した?」


「ああ、話を聞いた限り。私には、魔獣を操ったりしていること自体が何かのテストのように思えてしまうんだ」


「つまり、玄黄や他の四大魔獣を操る練習をしてるってことですか?」


「うん、私にはそう見えるね」


 ノエルが目を伏せ頷く。


「アリスレート殿下たちを襲ったのはついでに邪魔者を消せれば儲けものとでも思ったんじゃないかな」


「ですが、玄黄を操るなんて本当に可能なんですの?」


 アリスが思わず立ち上がる。


「いや、正直難しいだろうね」


 ノエルは首を横に振る。


「少なくとも、これまで四大魔獣を操った者なんて誰もいないからね」


 すると、アリスがふと私に視線を向ける。

 いや、なんでこっち見るの?

 私は別にクロやセレナを操ってるわけじゃないよ?


「はぁ……あの。ノエル殿下」


 アリスは深いため息をつき、ゆっくりと椅子に座り直した。


「ん? どうしたんだい?」


「今から話すことは他言無用でお願いしますわ」


 あっ、クロたちのこと話すのかな?

 いずれ公表するつもりだったんだけど。


 オスカー司教が白羊を探しているようだったので、今は情報を与えないよう公表を先延ばしにしているのだ。まぁ、協力してもらうなら、ノエルにも話しておいたほうがいいのかな。


「うん、わかった。約束しよう」


 ノエルが真剣な顔で頷く。

 そして。

 アリスが私に視線を向ける。


「実は――四大魔獣を従えた者が、ここにいますわ」


 そう言って、アリスが私を指差した。


「えっ?」


 ノエルが固まった。

 そして私も固まった。


 ……その紹介だと、悪いやつみたいじゃない?

 私、悪い吸血鬼じゃないよ……?

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