■第107話 合流
翌朝。
私たちは領主や街の人々に見送られながら王都へと出発した。
そして、馬車で街道を進むこと数時間。
やがて、幻想的なルミナスの王都が見えてきた。
「わぁ……あの城壁の周りの白い光は結界なのかな?」
「魔獣を寄せ付けない多層防御結界ですね。街中に張り巡らせた魔導回路で維持していると聞いています」
モニカが窓から見える城壁へ目を向けながら教えてくれた。
「へぇー、さすが魔法国家。スケールが違うね」
正直、魔道回路とかはよく分からないけど、たぶん凄い技術なんだろう。
そんな雑な感想を抱いているうちに、馬車は城門へ到着した。
やはりこの国でもたくさんの騎士や街の人たちが出迎えてくれていた。
そして――。
街へ入った瞬間、盛大な歓声が上がった。
さらに空から、キラキラと輝く光の雫が降り注いでくる。
「わぁ……綺麗だなぁ」
空から降ってくる光の雫が、私たちの周りで弾ける。
「これも魔法なの?」
「はい。王都では重要な客人を迎える際に使われる歓迎魔法だそうです」
「へぇー……」
私は空を見上げる。
光の雫は地面に落ちることなく、ふわりと消えていく。
「なんだか、夢の中みたいな光景だね」
そんな光景に見とれていると、馬車がゆっくりと速度を落とした。
「あれ? もう止まるの?」
「どうやら、誰かが待っているようですね」
モニカが窓の外に目を向ける。
「なっ……」
モニカの顔から、すっと笑みが消えた。
「んっ、モニカどうしたの?」
私が尋ねても、モニカは答えない。
すると――。
一人の女性が馬車にゆっくりと歩み寄って来る。
紫の長い髪をサラサラとなびかせた、ちょっと大人っぽい女性だ。
「お待ちしておりました、アリスレート殿下」
女性は馬車の前で丁寧に一礼した。
「あら、レノアさまも来ていらっしゃったのですか?」
アリスが少し驚いたように話しかける。
「はい、ティアさんのサポートとして来ていたのですが……」
なぜか困ったように言い淀んだ。
「とりあえず、馬車へどうぞ。お城に到着するまでの間に報告をお聞きしますわ」
「では、お言葉に甘えて」
レノアは馬車に乗ると、なぜか私の方を見る。
「あなたがクレアさんですね」
「えっ? あ、はい」
「初めましてレノア・フィオリアでございます」
……ん?
フィオリア?
それって、たしか――。
「いつも妹がお世話になっております」
あっ、やっぱりか!
私は思わずモニカに視線を移す。
「なぜこんなところにいるんですか、お姉さま……」
「さっきも言ったでしょ。ティアのサポートよ」
そう言いながらレノアはモニカに近寄る。
「そんな事より……ちゃんとお姉ちゃんって呼びなさーい!」
レノアが勢いよくモニカに抱き着いた。
「ちょ、お姉さま。離れてください!」
二人が抱き合っている光景に私は思わず目を見開いた。
むにっ。
むにむにっ。
……そんな音が私の耳に確かに聞こえた。
レノアはモニカと同じくらいの大きさだ。
なにが?
いや、なんというか……そう、スライムだ!
巨大なスライム同士が互いにむにむにと押し付けあっている。
……もしかして、これが玄黄なのか?
……いや、違う。
落ち着け私、これは胸だ!
でも、もしこれが玄黄なら――。
……なんということだ。
こんなの、絶対に勝てない。
もしあの間に挟まれでもしたら、私は天に拳を突き上げ昇天してしまうだろう。
「……クレアさん?」
「はっ!」
ルーナの声で我に返った。
いかんいかん。私は何を考えていたんだ。
「あの、レノアさま。そのくらいで」
アリスが苦笑しながらそっとレノアの肩に手を置く。
「あっ、そうでした。失礼、久しぶりに妹に会えたので嬉しくてつい」
レノアがモニカから離れる。
「……ふぅ」
モニカは明らかに疲れた顔をしていた。
私はそんな二人から、そっと視線を逸らした。
いや、別に残念とか思ってないよ……。
「それで、ティアさんは今どうしてるのでしょうか?」
アリスが尋ねると、レノアは真剣な表情になる。
「その……魔道具の研究をしています」
私はその言葉に少し違和感を覚えた。
「研究? 調査じゃなくて?」
「なんといいますか、ノエル殿下と意気投合してしまいまして……」
「意気投合ですか? それでお二人は今どこに?」
アリスが首を傾げる。
「王城にあるノエル殿下の工房です。まぁ、実際に見て頂いた方が早いかと……」
「はぁ? まぁそうですわね」
詳しい話は王城に着いてからということになり、馬車は大通りを進んだ。
そして王城の正門に着くと、大勢の使用人や貴族が出迎えてくれた。
その中には見知った顔もあった。
「殿下、お待ちしておりましたぞ」
馬車を降りた私たちの元に、帝国騎士たちを従え、セルジュ団長が歩み寄ってくる。そして、アリスの前で膝をついた。
「セルジュ団長、ティアさんの護衛ご苦労様です」
「はっ!」
「ティアさんはまだ数日滞在する予定ですので、もう少し待機お願いしますわ」
「承知しました。では我々も、しばらくのんびりさせていただきますよ」
そう言ってセルジュは笑顔を浮かべた。
セルジュたちと別れ、私たちは王城の中に入る。
使用人に案内され歩いていると、少し離れた離宮のような場所に案内された。
コンコンっとノックをする。
しかし、返事はない。
「失礼、入りますよー!」
レノアがそのまま扉を開ける。
すると中から少し興奮したような声が聞こえた。
「ノエル殿下、ここには火の魔石もつけましょう! そうすれば暖かい風が出ます!」
「なるほど! そうすればより時間を短縮できるね」
なんとなく嫌な予感がしたが。
そんな会話を聞きながら私たちは部屋に入る。
「お二人とも、アリスレート殿下がお見えですよ!」
「「あっ!」」
ティアとノエルが同時にこちらを振り返った。
「ああ! アリスさま。お待ちしてましたー!」
ティアが慌てて頭を下げる。
「おや、アリスレート殿下。ようこそルミナスへ」
「いえ、あの。お二人は何をなさっていたんですか?」
「おお、そうだ、聞いてくれたまえ! ティアの素晴らしい発想で、とんでもない魔道具が完成しそうなんだ!」
「とんでもない?」
邪教徒に対抗する魔道具か?
あるいは、玄黄を探すための探知機とか。
もしかすると、敵の魔道具を無力化するような装置かもしれない。
そんな期待を胸に、私は二人の前に置かれたものを見る。
そこにあったのは――蓋の付いた、大きな箱だった。
「あの、それはいったいなんでしょうか?」
私はおそるおそる聞いてみた。
「これはティアが洗濯用の魔道具を見て思いついたんだ」
「はぁ」
「この箱の中に回転するドラムが入っている」
「うん」
……なんとなくオチが見えた気がするが、一応最後まで聞いてみよう。
「そしてそのドラムを回転させながら暖かい風を送ると……なんと、洗濯物を素早く乾燥させることができる!」
私は目の前の魔道具を見つめる。
「いや、それただの乾燥機じゃん!」
思わず、突っ込んでしまった。
「そう! 乾燥機ですよ!」
「いや、なんで二人して乾燥機を開発してるの!?」
ティアがきょとんとした顔で首を傾げる。
「えっ、洗濯物が早く乾くんですよ?」
「いや、それはたしかに便利だけど……」
私はチラッとレノアを見る。
レノアは静かに頭を下げた。
「すみません、止められませんでした」
「あっ……」
うん、なんとなく理解した。
私たちはどうやら、とんでもない研究者コンビを誕生させてしまったらしい。




