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■第104話 隷従の首輪、再び

 魔王国の霧の谷。

 オスカーは数人の部下と共に白羊の捜索をしていた。


「まだ見つからないのかね?」


「はい、くまなく探しているのですが何分この霧が濃いので……」


 深い霧に覆われた谷。

 視界は悪く、少し先にいる仲間の姿すら霞んで見える。

 そんな中、後方から黒いローブの男が近づいてきた。


「捜索はどうですかな、オスカー司教」


「見つかりませんな、もしやもうここにはいないのか?」


 オスカーは霧の向こうを見つめながら、そう呟いた。


「白羊が移動した、という情報は入っていませんがね」


「しかし、これだけ探して姿どころか気配もないんですよ?」


「ふむ、なるほど。ところで一つご報告があります」


「なにかね?」


「私の従魔であるトロールロードとグリフォンと繋がりが消えました。何者かに倒されたようです」


「なんですと! まさか、勇者に!」


「ええ、グリフォンには勇者を襲わせたのですが、返り討ちに遭ったのでしょうね。まさか、あのトロールロードまで倒されるとは思いませんでしたが」


「クッ、小娘だと思って侮っていましたね」


 オスカーは苦々しげに顔を歪める。


「どうされますか?」


「あの魔道具は準備できているのかね?」


「ええ、改良は出来ているそうです」


「そうか……」


 オスカーはしばらく考え込む。


「勇者をどうにかしたいところですが、黒龍が付いているのでは、うかつに手は出せません」


「では、どうするおつもりで?」


「白羊捜索は一旦打ち切る。なんとしてでも玄黄を見つけ出すのです」


「ええ、それがあのお方の望みです。それに、我らの悲願を叶えるためには、玄黄は絶対に必要な存在ですからね」


 二人はそれ以上言葉を交わすことなく、深い霧の中へと歩き出した。

 その姿は、やがて霧の向こうへ消えていった。



 一方その頃。

 ルグレシアの王都では。


 私たちはアトレイユへ向かうため、ルグレシアの王都を出発することになった。


「それでは皆さん、お気をつけて」


 見送りに来てくれたミレーヌが、私たちに声を掛ける。


「ありがとうございます。石像について何かわかったら、すぐに連絡しますわ」


「ええ、よろしくお願いします」


 私たちの前には、数人の飛竜騎士たちが並んでいる。

 今回の捜索には、彼らが案内役として同行してくれることになった。


 私たちは馬車に乗り、街道を進む。その上空では飛竜騎士たちが旋回しながら、アトレイユへの道を先導してくれていた。


「飛竜に護衛してもらえるなんてなんか凄いね」


 私が呟くとアリスも頷いた。


「ああ、昨日は飛竜に乗って空も飛べたし、来てよかったな」


 アリスが満足げに呟く。


「ふん、あのような飛竜より我の方が早いのだぞ」


 クロはまだ不満な様子だった。


「ははっ、大丈夫だよ。私はクロちゃんにしか乗らないからね」


 思わずそんな風に取り繕ったが、クロはジッと私を見る。


「昨日乗りたそうにしていなかったか?」


「そっ、そんなことはないよー。あっ、モニカ。なにかおやつないかな?」


 とりあえずおやつをあげて機嫌を取ることにした。


 そして、数時間後。

 アトレイユの街が見えてきた。


「どうしよう、まずは街の周囲を調べてみる?」


「そうだな、グリフォンが現れたってとこに行ってみよう」


 そうして私たちは、その場所へ向かった。

 現場はまだ片付けられていないようで、グリフォンの死体が残されていた。


 到着すると、飛竜騎士たちも地上へ降りてくる。

 私たちも馬車を降りて、辺りを見回した。


「どう、クロちゃん。なにか感じる?」


「いや、特におかしな気配はないぞ」


「セレナも?」


「うん、ボクもなにも感じないよ……あれ?」


 何かに気づいたように、セレナが一匹のグリフォンの死体に向かって歩いて行く。


「ねぇ、クロ。これって」


「うむ、こやつは誰かの従魔だったようだな」


 クロとセレナが注目したのは、群れの中でも一際大きな個体だった。

 群れのボスだったのだろうか?

 私も近くで確認してみる。


 すると――。


「えっ?」


 グリフォンの首に、黒い首輪が嵌められていた。それはどこかで見たことのある……いや、見たことあるどころか私の首にも嵌められている。


「アリス、この首輪って」


「ええ、隷従の首輪ですわね」


 アリスが首輪をじっくり眺めながら呟く。


「この首輪は遥か昔に作られたもので、現在はほとんど残っておりません。強力すぎるため、使用も禁止されているはずですわ」


「えっ、アリス……そんなに危ないのを私に嵌めたの?」


「あっ、いえ。あの時はクレアを危険な吸血鬼かと思ってましたので……おほほほ」


 笑ってごまかそうとしていた。

 まぁ、でもよく考えたら、いきなり正体不明の吸血鬼が現れたんだし。

 仕方ないと言えなくもないか。

 それにこれ、私には効果ないし……。


「まぁ、そういうことなら……」


「ええ、そういうことですわ! 済んだことを気にしても仕方ありませんわ。さぁ、調査を続けますわよ」


「う、うん」


「あの、クレアさん。外しましょうか?」


 ルーナが気を使ってそう言ってくれた。


「いや、とりあえず私はいいですよ。それよりこのグリフォンだけど」


 改めて全員の視線がグリフォンに向かう。


「クロちゃん、このグリフォンが誰かにテイムされてたってこと?」


「うむ。こやつが群れを率いていたのだろう。誰かに操られ、人を襲わせていたようだな」


 これもあの黒ローブの男の仕業なんだろうか?


「でもなんでこんな場所に?」


 私が首を傾げていると、アリスが声を掛けてきた。


「私たちを襲おうとしたのではないかしら?」


「えっ、でも襲われたのはティアさんたちじゃ?」


「帝国騎士が護衛についていたから間違えたのかもしれませんわよ?」


「なるほど……それはあり得るか」


 魔の森でも襲われたし、邪教徒はよほどアリスの存在が邪魔なんだな。

 でも私がいる限りアリスは絶対に守ってみせるよ。


 その後も周囲を調べたが、どうやら辺りに魔道具のようなものが仕掛けられている形跡はない。


 ひとまず首輪だけルーナに外してもらい回収したのだが、今回の調査ではこれ以上の手掛かりは見つからなかった。


 私たちはそのままアトレイユの街へ入り、その日は領主の屋敷で休むことになった。


 ちなみに――。

 ルーナがグリフォンの首輪を外したのを見て、私はちょっとだけ安心した。

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