■第103話 飛竜騎士
その日の夜、勇者の来訪を歓迎する祝宴が華やかに幕を開けた。
ルグレシアの国王陛下をはじめ、多くの貴族や騎士たちが集まり会場は大いに賑わっていた。私たちは挨拶を交わしたり、豪華な料理を食べたりしながらパーティを楽しんでいたのだが――。
いつものようにアリスのお姫さまモードが限界を迎えたので、私たちはそれぞれ部屋に案内され休むことになった。
そして翌日――。
朝食を済ませると、アリスがミレーヌにグリフォン討伐を申し出たのだが――。
すると、ミレーヌは少し申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「その、今朝報告がありまして。グリフォンはすでに討伐されたようなのです」
「えっ、もしや飛竜騎士団が討伐に向かわれたのですか?」
「いえ、そうではなく……たまたま通りかかった帝国の騎士の方々が討伐してくださったようで」
「あっ!」
私とアリスが顔を見合わせる。
「それってやっぱりセルジュ団長たちかな?」
「ええ、そうでしょうね……はぁ、空を飛ぶ魔獣と戦ってみたかったですわ」
少し拗ねたように呟きながら、アリスが軽くため息をつく。
討伐を申し出たのはやっぱりそんな理由だったのか。
ほんとに戦うのが好きなんだな。
「残念ながら石像のようなものはまだ発見されていませんが、引き続き捜索は行っています」
「なら私たちがアトレイユに行って探してみましょうか?」
もし石像があるなら、クロとセレナがいれば発見できる可能性は高いと思う。
二人とも魔獣だから、おかしな魔力の流れにも気づけるかもしれない。
「しかし、諸国訪問の最中にそのようなことをお願いするわけには」
「いえ、これも勇者の務めですわ。クレアが言ったように、よろしければ私たちにお任せください」
アリスがそう告げるとミレーヌは静かに頷いた。
「では、申し訳ありませんがお願いいたします。アトレイユへ向かう際には、飛竜騎士を何名か同行させます。何かわかりましたら、ご連絡をお願いします」
「ええ、わかりましたわ」
こうして私たちは、アトレイユへ向かうことになったのだが。
とはいえすぐという訳にはいかず、明日の朝出発することになった。
あまりにも滞在が短すぎると、帝国がルグレシアを軽んじていると思われかねない――というアリスの判断である。
それに、魔王国からここまで結構な駆け足で来たので、たまにはゆっくり休むのもいいだろう。
そんな話をしていると――。
「せっかくですし、飛竜騎士団の訓練を見学してみませんか?」
ミレーヌがそう提案した瞬間。
「それはいいですわね!」
アリスが勢いよく立ち上がった。
「せっかく飛竜の国に来たのですもの。ぜひ見てみたいですわ!」
どうやら、休むという選択肢は最初からなかったらしい。
そんなわけで、私たちは飛竜騎士団の訓練場へ向かった。
訓練場に入ると、そこにはたくさんの飛竜と騎士たちがいた。
大きな翼を広げた飛竜が、騎士たちと一緒に訓練をしている。
さすが飛竜の国だ。迫力がすごい。
そして、ふと目を向けると――。
ここにも立派な石像が建っていた。
騎士を背に乗せた飛竜の石像だ。
「うわぁ、立派な石像ですね」
「ええ、あれは我が国の英雄アルヴェインと飛竜セレスの像です」
「へぇー……んっ?」
その名前どこかで……。
あっ、思い出した。前にアリスから聞いた邪竜を討伐した物語に出てくる騎士か! 実際にはクロにボコボコにされたんだけど、ここでは英雄なんだ。
真実は……話さない方がいいな。
隣では、アリスがなんとも言えない微妙な表情になっていた。
たぶん私と同じことを考えてるな。
「まっ、まぁその話は置いておいて。少し飛竜に乗せてはいただけませんか?」
「では、騎士団の者に相談して参りますので少しお待ちください」
一礼して、ミレーヌは騎士団の団長らしき人物の元へ向かった。
しばらくすると、何やら話を終えたミレーヌが戻ってくる。
その後ろには、一匹の立派な飛竜がいた。
「この子は大人しい性格だそうなので、おそらくアリスレート殿下を乗せても問題ないとのことです」
「まぁ、嬉しいですわ」
ミレーヌの言葉を聞いてアリスは目を輝かせると、さっそく飛竜の元へ駆け寄った。
「よろしくお願いしますわね」
そう言って飛竜の首を優しく撫でる。
飛竜は嫌がる様子もなく、アリスに顔を近づけた。
「ふふっ、可愛いですわ」
そしてアリスは騎士に手を借りることもなく、飛竜の背中へ飛び乗った。
「おお……なんかかっこいいね!」
アリスが飛竜の背に跨る姿は、思っていた以上に様になっていた。
まるで本物の飛竜騎士みたいだ。
「では、行きますわよ」
アリスが声をあげると飛竜は翼を広げ空へ舞い上がる。
「さすがアリスレート殿下です、初めてなのにお一人で飛べるなんてすごいですね」
ミレーヌが空を見上げ、感嘆の表情を浮かべる。
実際にはクロに乗って何度か飛んでるから初めてではないんだけどね。
「うふふっ、すごいですわ」
上空でアリスは、子供のように嬉しそうな笑顔を浮かべていた。
「なんだか楽しそうだね」
私がそう呟くと。
「ではクレアさまも乗ってみますか?」
ミレーヌの言葉を聞いて、私は気持ちよさそうに飛んでいるアリスに目を向ける。
どうしよう?
でも、確かにちょっと乗ってみたいな。
そう思っていたら、後ろからなにやら異様な気配を感じ振り返る。
すると――クロがジトッとした目で私を見ていた。
「あっ、いや、私はいいです」
うん……なんだろう。
何も言われていない。
なのに、なぜか乗ってはいけない気がした。




