■第101話 ミレーヌとの会談
ミレーヌに案内され、私たちは王城の客室へ向かった。白を基調とした廊下には、竜を模した装飾や歴代の飛竜騎士たちの肖像画が飾られている。
「やっぱり、この国はどこを見ても飛竜なんだね」
「ええ、それだけ飛竜がこの国にとって大切な存在ということなのですよ」
私が城内をキョロキョロ見回しながら呟くと、ミレーヌが微笑みながら答える。
やがて客室へ案内されると、そこにはすでにお茶の用意がされていた。
「長旅でお疲れでしょう。少し休まれてから、改めてお話を伺えればと思います」
「お気遣いありがとうございます」
アリスがお礼を述べると、ミレーヌは穏やかに微笑む。
「いえ。アリスレート殿下の訪問を歓迎するのは当然のことです」
「そう言っていただけると嬉しいですわ」
アリスは少しだけ表情を緩め、ソファーに腰を下ろす。
その後、私たちはお茶を飲みながらしばらく休憩することになった。
「セレナ、大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫だよ」
少し疲れたような表情をしていたセレナにルーナが声を掛け、背中にそっと手を添える。慣れない旅で疲れたのだろうか?
「おやつ食べますか? 牧草クッキーまだありますよ」
「うん、ありがとう」
ルーナたちのそんなやり取りを聞いてクロが私に視線を向けた。
「主よ、我もおやつが食べたいぞ」
「あっ、モニカ、何かあるかな?」
「はい、イオの街を出発する前に厨房をお借りして作った焼き菓子がございます」
モニカがバッグから布に包まれたバスケットを取り出す。
蓋を開けると洋酒のような甘い香りがふわりと漂ってくる。
思わず中をのぞくと、きつね色に焼き上げられた美味しそうなパウンドケーキが並んでいた。
「うわぁ、いい香りだね」
「たくさんありますので皆さまでどうぞ」
「うむ、これもなかなかうまそうだ」
クロがどこからかナイフとフォークを取り出した。
いや、パウンドケーキだよ?
なんでそんな高級レストランみたいな食べ方なの?
っていうか、いつも持ち歩いてるのそれ?
私はモニカに視線を向ける。
モニカは満足そうな表情で頷いていた。
これもモニカのメイド教育なのか?
いや、たぶん違うと思う……違うと信じよう。
私は現実から目を逸らし、パウンドケーキを食べることにした。
お茶とお菓子を楽しみ一息ついたところで扉がノックされた。
「皆さま、おくつろぎのところ失礼いたします」
扉が開くと、そこにいたのはミレーヌだった。
「ミレーヌ殿下、どうなされたのですか?」
アリスが問いかける。
「いえ、先ほどイオの街からの伝令が来まして」
ミレーヌはそう言うと、私へ視線を向けた。
「鉱山で謎の魔獣の遺体が見つかったそうです」
「あっ!」
思わず声が出てしまった。
「あら、クレアさまはなにかご存じなのでしょうか?」
「えっ、いや……その」
しまった、トロールロード倒してそのままだった。
私が思わずアリスの方を見ると、アリスは小さくため息をついた。
「はぁ……ミレーヌ殿下、まずはお掛けください。詳しくご説明いたしますわ」
昨日遭遇したゴブリンの群れやトロールロード。
そして、魔獣を引き寄せていた石像について説明した。
「なるほど……魔獣を呼び寄せる石像ですか。それで鉱山に魔獣が……」
ミレーヌが視線を落とし、考え込む。
「ルグレシア王国周辺でも、最近になって魔獣の活動が活発になっております」
「やっぱり、この国でもですか?」
私が尋ねると、ミレーヌは頷いた。
「はい。特に数週間前から、通常ならその場所にいるはずがない魔獣が確認されています」
「それって……もしかして鉱山以外にも魔獣が大量発生してる場所があるんですか?」
私は思わず声をあげた。
「いえ、大量発生という訳ではないのですが。もしや、そのような石像が他の場所にも?」
ミレーヌは顎に手を当て、思案する。
「それにも邪教徒が関係している可能性がありますわね」
「あの、その邪教徒というのは?」
アリスの言葉にミレーヌが首を傾げる。
「そうですわね、ご説明しますがこれは帝国でも機密になっています。他言無用でお願いいたしますわ」
「はい」
アリスはこれまでに判明している邪教徒の情報を、一つひとつミレーヌへ説明し始めた。
「そのような者たちが……わかりました。ルグレシアでも秘密裏に調査いたします」
「ええ、ぜひルグレシア王国のお力もお借りしたいですわ」
アリスが穏やかな笑みを浮かべ、右手を差し出す。
「はい、ともに邪教徒の脅威に立ち向かいましょう」
ミレーヌは力強く頷き、その手を握り返した。
「もちろん聖公国も協力しますよ」
ルーナも穏やかな笑みを浮かべ、二人と順に握手を交わす。
「ありがとうございます、聖女ルーナさま」
三人は互いに頷き合い、それぞれの決意を確かめ合った。
もちろんこれは正式な三国の協定とかではないんだけど、その光景を見て私はなんだかとても頼もしく思えた。
そしてその後も話し合いは続いた。
「それで、その本来いるはずのない魔獣が目撃されたのは、どちらでしょうか?」
私が問いかけると、ミレーヌがこの国周辺の地図を広げる。
「王都の東にあるアトレイユという街の近くでグリフォンが目撃されています」
アリスはその地図をのぞき込み、違和感に気づく。
「確かに……山岳地帯に住むグリフォンがこんな平野に現れるのはおかしいですわね」
「すぐに周囲にそのような石像がないか調査させます」
ミレーヌが立ち上がり扉に向かって歩く。
「それでは、勇者さま歓迎の祝宴までどうぞごゆっくりお寛ぎ下さい」
そう告げると一礼して退室した。
「あっ、やっぱりこの国でもパーティあるんだね」
「まぁ、本来は私の竜者就任の顔見せだからな」
そんな話をしながらも、アリスが地図をずっと見ていた。
「アリス、どうしたの?」
「いや、このアトレイユって街。ちょうどルミナスへ向かう途中なんだよな」
それを聞いて、私も地図へ目を向ける。
「ほんとだ。じゃあ、ルミナスへ向かう途中でちょっと周囲を調べていこうか」
「そうだな、せっかくだしグリフォンも討伐しておこう」
「えっ、討伐しちゃうの?」
「ああ、少しは勇者としての仕事もしといたほうがいいだろ」
そう言ってアリスはニヤッと笑った。
アリスがこういう表情を浮かべるときは、大体ろくなことを考えていないんだけど。それでも、不思議と嫌な気はしなかった。
どうやら私は、こんな表情を浮かべるアリスのことも好ましく思っているらしい。




