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お狐様の恋愛事情  作者: 橙矢雛都
第1章 出会いと再会と気づき
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小話7 姉と弟の晩ソーダ会

宣言した投稿日時から大幅に遅れてしまい、申し訳ありませんでした。


短めですが、小話その7です。

姉弟の会話がメインになります。







~*~



「あ゛ぁ~… 疲れた……」

「ちょっと何? 今のおじさんみたいな声」



夜。

穂香はお風呂上がりの孝平に苦笑しながら、隣に座った弟に話しかける。

うだるような暑さがなくなり、ようやくすごしやすくなってきたこの頃。穂香と孝平は、以前約束した晩酌、ならぬ晩ソーダをしようとしていた。


この日の為に穂香は手間を惜しまず準備をした。

ただのソーダではつまらないので、自作のシロップをソーダで割ってみたり。孝平も姉の作るものに嫌いなものはあまりなかった。

仲の良い姉弟である。



「てゆーか、姉ちゃん何か変わった?」

「へ? どこが?」

「なんていうかなぁ… 雰囲気? 姉ちゃんであって姉ちゃんじゃないみたいな」

「何よそれ…」



軽く返す穂香だが、孝平の言葉に内心ドキリとした。

孝平も()()()人間。霊力の違いが分かっていてもおかしくない。

穂香は色々あって、今はまだ人間だが神寄りの存在になってしまっていた。元々、魂の質がそういうものなのに加え、仮ではあるが天狐の狐神である文月丸の姫巫となったのだ。

霊力の質が変わってしまっている。それを孝平はなんとなく感じていた。


弟とはいえ、詳しく話すことはできない。

何故ならば文月丸から「気をつけたほうがいい」と忠告を受けているから。

穂香としては大切な弟を疑いたくはない。

けれど自分に言えない“何か”があるのなら、気づかれない程度には疑わなければならない。



「まぁ、色々あったかな。でも大丈夫だよ。一応、解決したし」

「俺の知らない所で…」

「そりゃあ知られないようにしたし」

「姉ちゃんはいつもそうだよなぁ」



孝平は不満そうにそう漏らす。

自分が関わったところで何もできなかったかもしれないと自覚しているが、それでもだった。

いつもそう。厄介ごとに自ら首を突っ込むくせに、自分には相談のその字もない。

後で聞かされるこっちの身にもなってほしいと、孝平は毎回思う。



「…ごめんね」

「いいよ、姉ちゃんは言っても変わらないって知ってるから半分諦めてるし。…でもさ、心配なんだよな。姉ちゃんすぐ無理するから」

「頼らないってこと? それでいったら孝平こそどうなの? 孝平も無理するじゃん。孝平から言い出すこと、あんまりない気がするんだけど」



孝平も穂香と似たようなタイプで、内に秘めるタイプだった。

そもそも突っ込んでいくような性格ではないので、穂香よりはいくらかマシだが、勉強や進路以外で相談を受けたことがないことを穂香は気にかけていた。

特に、孝平も妖が見えると知ってからは尚更。見えていたのなら恐怖した時もあっただろうにと。


孝平が何も話さないので少しの沈黙が流れる。

グラスの中の氷がカランと鳴る。孝平の瞳の奥が微かに揺れた。



「俺は姉ちゃんみたいに首を突っ込みにいくタイプでも、巻き込まれるタイプでもないんで。できるのなら回避するね」

「できるものなら私だってそうしたいよ」

「うん…… まぁ、でも… 今回に関しては、俺は何もできなかったと思うから… 雪宮先輩とは違って、俺はただ見えるだけだし。姉ちゃんが無事ならそれでいいや」

「孝平……」



悲しげに、寂しそうに孝平はそう呟く。

孝平の気持ちが分からないでもない穂香。今でこそ術を覚えてきている穂香だが、元は孝平と同じく『見えるだけ』だったのだ。

見えるということは、霊力がそれなりにあるということ。

見える孝平の霊力がどれ程なのかは分からないけれど、孝平だってやれば覚えられるはずで。穂香と同様に孝平は頭が良いので。


穂香は少し迷った。教えるか、否か。

何かあっても対処できるように簡単な術を教えてもいい気がするし、けれど警戒をしなければいけない今の段階で教えてもいいものなのか。

穂香は自分だけの判断で決めることはできなかった。

文月丸が気にしている事柄で。しかもネロもそれが理由で孝平になつこうとしない。

ネロは最初から孝平を警戒していたのだと、穂香は最近になって気づいたのだ。孝平が触れようとすると逃げるように飛んでいたのは警戒していたからなのだと。


何もハッキリしていない現状で、余計な期待を持たせるものではない。

そう思って、少し可哀想な気もしたが孝平にはもう少しの間そのままでいてもらうことにした。



「話は変わるけどさ、姉ちゃん」

「ん?」

「いつの間に彼氏できたの?」



穂香は今まさに飲もうとしていたものを思いっきり噴き出してしまった。

だってそんな質問を孝平がしてくると思っていなかったのだ。けれど、よくよく考えれば文月丸を連れてあの商店街に行った時点で知られるようなもの。

隠していたわけではないが、話そうとも思っていなかった。

…いや、相手が相手なので少しは隠そうという気持ちがあったかもしれない。



「きゅ、急に何…!?」

「方々から聞かれる俺の身にもなってくれよ。姉ちゃん友達少ないけど人気はあるんだよ?」

「貶してるのか褒めてるのかどっちよ」

「……で、いつから? どんな人? 何してる人?」



孝平は止まる間もなく、息継ぎ無しで質問を重ねる。

姉が好きな孝平としては、そんな浮いた話などなかった姉に、突然ふって沸いた話に動揺を隠すので精一杯だった。

動揺の代わりに、圧が若干強めではあるのだが。


穂香は穂香で答えづらそうに言葉を濁す。

妖が見えて、存在を知っているとはいえ簡単には言えないしどこまで言っていいのかも分からない。

孝平に対しては、極力嘘はつきたくないのにでもどう言ったらいいのか分からない。

どう言うか、それだけに重点をおいて穂香は考えをめぐらせた。



「この夏からだよ。ちょっと気難しいけど、でも優しい人なの。何してるかは…少し説明しづらいからまた今度ね」

「……なんか、納得しかねる説明だけど… でもまぁ、姉ちゃん、人を見る目はあるし、姉ちゃんが選んだ人なら大丈夫なんだろうな」



心配はするし、嫉妬もするが… 基本的には姉を信頼している。

その言葉に穂香は心がとても温かくなった。嬉しかった。

だから、何があっても助けよう、守ろうという思いが強くなる。大切な弟なのだ。


ふと、何かを感じた。

それはほんの一瞬のことで、一瞬すぎて感じたかすらも疑いたくなるレベルの気配。

それでも、なんともいえない違和感が穂香の中にあった。

両親は仕事で疲れはてているので先に寝た。だからここにいるのは穂香と孝平。そしてネロと白雪。

感じた気配はネロのものでも白雪のものでもない。両親が起きてきている様子もない。



「(孝、平……?)」



確信はない。なんとなく、そう思っただけ。

今話している孝平からは何も感じられない。だから気のせいだと思うことにした。

そう、思いたかった。






~*~



「じゃあおやすみ、姉ちゃん」

「うん、おやすみ」



あの後も他愛もない話をして、夜も遅くなってきたので晩ソーダ会はおひらきに。

共に2階に上がり、それぞれの部屋の前で穂香はそう言った。

孝平が自室にと入り、扉を閉める。その閉まった扉を、穂香は少しの間見つめていた。











「待ってくれよ、姉ちゃんは何ともないんだろ?」

『――! ――――?』

「…でも……」

『―――――?』

「よくない。…分かった、よろしく頼む」



その部屋に、孝平と話す存在の姿はなかった。




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