表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お狐様の恋愛事情  作者: 橙矢雛都
第1章 出会いと再会と気づき
31/48

27.今度こそ

今回は1人と1匹のお話です。





~*~




ちりりん


どこかの家の、風鈴の音と重なって鳴る鈴の音。

その鈴を付けた白猫はある少年と対面していた。まだ暑いのに、1人と1匹の周囲は何故か涼しげだった。



「――…やはり、あなたでしたか」

「どういう意味かしら?」

「いえ、深い意味はありませんよ」



涼しげというより、もはや冷気。寒さを感じる錯覚を起こすほどの。

殺気にも似た怒りの視線を白猫は少年に向けていた。少年はそんな視線も意に介さず、どこか懐かしむように目を細める。

少年にとってその白猫は、かつての友であり、相棒。対等な存在だった。



「久しぶりですね。朱珠(すず)。…今は、ゆきちゃんでしたっけ?」

「…朱珠でいいわ。どうしてでしょうね。何百年、何千年たとうと、前と名が変わろうと、あなたからは朱珠と呼ばれたい。そう思うの」

「元気そうでよかった… それと、今回の穂香さんの件、手伝ってくれたみたいで… ありがとうございました」



その言葉に朱珠はピクリと反応する。

やはり分かっていた。分かっていてこの少年は傍観していた。…いや、傍観せざるを得なかった。

少年も力を貸してくれていればもっと楽に、もっと安全に事を進められたのに。…と思わないでもない朱珠だったが、少年の考えも理解しているので何も言わなかった。

彼が出られなかったからこそ、朱珠は自分が動いたのだけれど。

それでもけっこうギリギリの状況だっただけに、少し恨めしく思う感情を全面に出していた。

その感情を向けられている当の本人は気にもしていない。けっこう図太かった。



「無事に終わって、本当によかった… いや、終わったけど、始まったのかな…」

「あなたがいつ、穂香ちゃんたちに接触するつもりなのか知らないけど…」

「1年… うーん… 半年は先の予定ですよ。状況にもよりますけど」

「まぁ、そうでしょうね」



終わったと言っても、それは穂香たちが抱えるいくつものの問題の内の1つにすぎなかった。

問題の大きさにもよるけれど、いつでも助けられるようにと少年は準備を進めている。

あの時のように、何もできない自分はもういない。

自分の気持ちに添うことのできる力がある。もうあんな悔しい思いはしなくていいのだ。

少年は自分の手をじっと見る。

目を閉じると浮かぶのは、大好きで、最も尊敬している師の姿。

まだ小さかった自分の手を握りしめながら、微笑んでいるその顔。



「穂香さんには… 文月丸様には、今度こそ幸せになってもらいたいです」

「…それが、あなたの願い?」



少年は、聞かれた問いに笑みで返す。その笑みだけで朱珠は全てを悟った。

友人が、何をどうするつもりなのか。

自分がどうするべきなのかも。



「まったく… 言い出したら聞かないのは相変わらずなのね」

「ごめん、朱珠には迷惑をかけてばかりで…」

「謝るのなら千年前の時に謝ってほしかったわね」

「う……」

「冗談よ…」



呆れたように笑う朱珠を前に、少年はやっと肩の力が抜けた気がした。

師である穂実から受け継いだのは技術だけじゃなく、1人で全てを背負い込もうとしてしまうその気質もだった。

だから、今度は自分がという少年の思いも否定はしないけれど、朱珠は心配してしまう。


無理はしないでほしいのにと。

頼ってほしいと。



「…ねぇ、あなたは今、1人じゃないわよね?」



その朱珠の問いかけに少年は答えなかった。

現状そのままを話せば怒られてしまうことは分かっていたからだ。

けれど沈黙することは、肯定の意を表すことと同じ。隠そうとしたところでバレている。

少年は、親しき相手には嘘をつけない性格だった。



「…そこも昔と変わらないのね。人の為に動けて、人にも妖にも信頼されて… でも人の友達はいない」

「そんなハッキリ言わなくても…」

「事実でしょう? …でも、今世は大丈夫じゃないかしら。“あなた”を理解してくれる“人”はいる。そんな気がするの。今度こそ、大丈夫よ」

「………」

「…清、あなたも幸せになっていいのよ?」



中学生の子供がしている会話にしては“幸せ”というたった一言に重みがありすぎた。

たかがで終わらせられないその言葉は、少年にとってある意味、楔のようなもの。

呪縛、と言ってもいいかもしれない。

もっとも貰う側ではなく、与える側としてだが。

一連の事柄は、この少年の価値観を大きく歪ませもしていた。


少年が、微笑んだ。

かつての穂実のような儚い笑み。向けられた朱珠の方が、何故か心が痛くなった気がした。



「朱珠、僕は幸せだったよ。あんな状況下でも、ちゃんと幸せを感じられた。それは、守ってくれた穂実様のおかげであり、友として傍にいてくれた朱珠のおかげであり、こんな僕を愛してくれた青葉のおかげ。それは確かなんです。でも、朱珠の言うとおり、心の底から幸せを感じられていたかと言われると… 分からない、けれど…」



少年は言葉を一旦切り、すっと目を閉じる。

さぁっと風が吹いて風鈴の音が聞こえる。近所の子供たちの遊ぶ声も聞こえる。

少年は自分がかつての自分だと自覚した時からずっと考えていた。

この時代に再び生を受けた意味を。



「大きな心残りが果たされた。これからは今を生きる上での心残りを作ってしまわないように、やれることはやるつもりです」

「まったく… そうね、今のあなたはまだ14歳だものね。まだ、先があるのよね」

「これでも学校と家では普通の中学生なんですよ?」



1人と1匹。顔を見合わせ、思わず笑う。

そうだ。まだ、未来があると思いを馳せる。

過去を懐かしみ、未来を楽しみにしながら少年と朱珠は「またいつか」と別れの言葉を紡ぐ。

少年は母親に呼ばれ、部屋を出ていった。

朱珠は少年を見送ってから、その部屋を後にしたのだった。




―――ちりりん




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ