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お狐様の恋愛事情  作者: 橙矢雛都
第1章 出会いと再会と気づき
29/48

25.天狐の狐神2 ~文月丸から穂香へ~




~*~



それはまだ暑い夏の、とある日だった。



「…で、何です? それ」

「………」



たまたま文月丸に会いに来た黒羽。

黒羽は、いつになくそわそわしている文月丸の様子が気になった。

声をかけても返事はなく、握った拳を見てはため息をつく。



「…以前はどのように渡したのか覚えておらん……」

「何が… あれ、その結晶石って…」

「前に穂香にやったのはゴタゴタで割れたらしくてな。新しく、渡そうと思うとるのじゃが…」



文月丸の手に握られているのは深緑色の結晶石。新しく霊力を込めなおしたものだった。

あの時とは関係がちょっと違うため、緊張してしまい、どう渡そうかと悩んでいた。

文月丸はどうしてこうも悩んでいるのか分からなかった。そう思うほど、前回はあっさりと渡しているのだが、何故か渡し辛く感じている。



「そのまま渡すよりも、身につけられる何かに作り替えた方だ良さそうじゃないですか?」

「何かて何じゃ」

「それは知りませんよ。例えば、髪飾りだったり、首飾りだったり」

「むむむ…」



黒羽の言っていることは理解できているが、だからといってどうすればいいのか文月丸には分からなかった。

手の中にある結晶石を見つめながら考える。今度は壊れずに穂香を守るようにと、とある術式を組み込んで作ったものだ。

何もないのが1番だが、何かが起きるのがこちら側の世界である。



「…! ネロ? …いや、違うな。おぬし等は…」



目の前を黒い蝶がふわりと舞った。文月丸はネロかと思ったが、すぐに違うと気がついた。

黒い蝶ではあるが、羽の模様が違う。それに、1匹どころか10匹以上はいる。

そもそもネロは穂香を守る為に、穂香の傍を決して離れようとはしない。この場に穂香がいるのならば話は別だが。

ならばこの幻魔蝶の発生源は、穂実の墓標周辺にあった夢幻花たちであることは容易に想像がつく。つく、のだが…

問題はその数だった。



「いやぁ… いくらなんでも多すぎ…」

「穂香の霊力か… もう少し深刻に考えねばならぬな」

「文の兄貴の封印を解いた時ですね。…彼女の能力の高さは、尊敬と同時に恐怖も抱きますよ」



どの立場の者からも、無視できない能力値。

黒羽のように考える者もいれば、その逆を考える者だって当然いる。

その逆を考える者が妖だけとは限らない。

人にもいる。あるいはそう考えた人を利用する妖も。

力が整う前の今の穂香を、狙う者は一体どれほどいるのだろうか。



「おぬしたちの力を、我に貸してはくれぬだろうか」



自分の指にとまった幻魔蝶に文月丸はそう語りかけた。

今の、文月丸の願い。

共に在り、共に生きること。今度こそ、守ること。

文月丸の想いは幻魔蝶たちに届いた。応えるように、幻魔蝶たちは強く、激しく舞い踊る。

幻魔蝶たちの舞は、とても綺麗で美しかった。

文月丸は今までで1番穏やかな気持ちでその舞いを眺めることができた。

そんな気持ちになれたのは、穂実とのことで心の整理がついたことと、穂香が傍にいると言ってくれたからだった。


会いたくなった。今日、彼女は来るのだろうか。

不意に、結晶石を握る手に一匹の幻魔蝶がとまる。それに続くようにまた一匹、また一匹と集まってきた。

幻魔蝶たちが何をするつもりなのか、なんとなく理解した文月丸は手を開いた。

規則的な動きを繰り返し、幻魔蝶たちは術を構築していった。

それは、役に立つかと言われたらちょっと微妙な術。でも使用者次第だし、今の文月丸には必要なモノ。



「生成の術。彼らは使えたんですね」

「そうじゃな… 我には頼もしいことよ」

「はははっ、確かに」

「いうてお前も同じようなものじゃろう」

「文の兄貴ほどじゃないですよ」



軽口を交し合っている間にそれは終わった。

平凡な丸い形だった結晶石は、ブレスレットの姿に変わっていた。

しかもさすがと言うべきか、そのブレスレットは妖を見る力のある人にしか認識ができない効果がついている。これで学校につけていっても怒られる心配はなかった。

そして、これを何時渡そうかと考えた。

今すぐに渡したいというのが本音。でもいつここに穂香が来るのか分からない。

そこで1つ思い浮かんだ。自分から会いに行ってみてはどうかと。

今日これから来るのならそれはそれでかまわなかった。何の問題もない。


来なかった場合、自分が。それはいつか。

決まっている。神や妖の、本来の行動領域。


―――――夜。






~*~




「じゃあ私もう寝るね」

「あぁ、おやすみ」

「穂香、私たち明日は夜までいないんだけど、あなたはどうするの?」

「稀莉の家に行って、その後一緒に出掛ける予定。孝平も部活の合宿でいないなら、そのまま泊ってくる可能性もあるかも。もしそうなるようなら連絡入れるね」



両親は仕事で夜までいない。弟は合宿で今日から3日ほど不在。

だから家にいるのが1人ならと立てた予定だった。

雪宮家ならば、妖と話してようが、術の練習をしようが自由。誰もいないといえど、家でやるよりかは安全なのだ。

穂香も稀莉も、あの一件以降、術の習得や霊力の調節(コントロール)に懸命に励むようになった。

片足どころか両足突っ込んでしまった状況だ。やらないで苦しむよりかはマシなのである。


穂香は今日、文月丸に会いに行かなかった。

行けなかった、という方が正しいかもしれない。朝、孝平を送り出した後辺りから、なんだか体調がよくなかったのだ。

体調管理などは、普段から穂香はしっかりとやっている。予防もしている。

それでも調子を崩す時はあるが、たまにだ。



「ホノカー」

「ん? どうしたの?」



部屋に戻ったところで白雪が穂香を呼んだ。

白雪はずっと穂香の傍にいた。

治癒の能力がある白雪のおかげで、穂香はだいぶ調子が良くなった。家族の前で無理をしなくてもいいくらいに。

癒してくれるのはありがたかったが、穂香は逆に白雪のことが心配だった。自分の代わりに倒れてしまわないかと不安にもなった。

そうならないためにも、もっとしっかりしなければと思った。とは言っても今日の不調は原因が分からないのでどうしようもないが。



「白雪、今日はありがとう。おかげで体調良くなったよ」

「ううん、ホノカのためだから!」

「明日は一緒に稀莉の所行こうね」



そう言って穂香は白雪の頭を撫でる。

幸せな日々が、なんてことのない日常が、今日も1日終わったかと思いながら、穂香は部屋の灯りを消した。

明日は何をしようか。稀莉と出かけた時に文月丸に会いに行くのもいい。

今日は行けなかったから、お詫びのお菓子を持って。

考えるだけで楽しみに思う。思わずにやけてしまう。

穂香は小さな幸せを感じながら、ベッドに横になり目を閉じた。






~*~



さわ、と頬に何かが触れる。穂香はふっと目を覚ました。



「起きたか?」



父親のものとは違う。低く落ち着いた声。

まどろみ状態だった穂香だが、その声を聴いた瞬間に一気に意識が覚醒し、ばっと体を起こした。

そして目の前にいる人物、文月丸を見つめる。会えた嬉しさよりも驚きの方が勝っていた。

そんな穂香を見て、くつくつと笑いながら穂香の頬を撫でる。

その手つきはとても優しく、まるで壊れ物にでも触れるかのように。触れられることは嫌ではなかったので、穂香はその状況を受け入れていた。



「文月丸様、どうしてこちらへ?」



孝平がいない時で良かったと穂香は思った。いずれ話すつもりではいるが、今は火に油を注ぐようなものでしかないと分かっていたから。

聞かれた文月丸の動きがピタッと止まった。不思議に思って見上げると、少しだけ頬を赤くした文月丸と目が合った。

予想外の反応に穂香の方が恥ずかしくなった。…気がした。

深夜の寝ていた自分の部屋、メイクなどしていない素顔。おしゃれの欠片もないパジャマ。



「(いや! お気に入りのではあるけどっ!)」



穂香は全ての状況をやっと理解して、すればするほど顔の熱は上がっていった。

好きな人の前ではちゃんとしたいという考えに、別の意味で安心していたが。

それから少し無言は続く。どう話し出そうか迷っていた文月丸だが、意を決して口を開いた。



「穂香に、渡したいものがあってな」



そう言って、文月丸は穂香に例のブレスレットを渡した。

きょとんとしながら穂香はそれを受け取った。

受け取った後も、ぼーっとしながら深緑の意志が使われたブレスレットを眺めていた。




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