表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お狐様の恋愛事情  作者: 橙矢雛都
第1章 出会いと再会と気づき
27/48

23.封印を解く




穂実が、本当の意味でこの世を去った。

文月丸にとっては2度目の別れ。けれど1度目の時とは違い、気が晴れ、スッキリとしていた。

割り切るには十分な時間が過ぎていた。

悲しいは悲しい。でも今度は守らなければならない、託された存在がある為、心を強く持つことができていたのだ。



「…ん……」



自身にかけた術が解け、意識が戻る穂香。穂香には文月丸と穂実(2人)の会話の内容は伝わっていない。

だから文月丸に抱きしめられているという状況が理解できず、少しの間ボーっとしていた。

そして、じわじわと意識が覚醒していくと同時に恥ずかしさも生まれる。

騒ぎ出すことはしなかったが、そっと離れようとする穂香。それを察知した文月丸は、阻止しようと腕に力を込めた。



「あ、あの… 文月丸様?」

「なんじゃ」

「離していただくことは…」

「駄目じゃ」



言語道断というような圧を受けたため、穂香は恥ずかしかったが諦めて身をゆだねた。

自分の中から穂実がいなくなったことによる喪失感も少なからずあった。

それらを緩和させてくれる文月丸の抱擁に居心地の良さを感じ、穂香は少しの間甘えることにした。


数分後、文月丸が腕の力を緩めたので、互いの顔が見えるくらいには離れた。

そのタイミングで離れて見守っていた黒羽たちが近寄ってきた。黒羽は少し、ニヤニヤしながら。



「やっと一件落着ですかね」

「…すまぬな。苦労をかけた」

「いえ、文の兄貴にはお世話になってますから」

「黒羽はよいのか?」

「………まぁ、俺の一件は急いだところで今更なんで。それより、残るは兄貴の封印の解除ですね」

「……それ、は…」



黒羽の言葉に文月丸はもごもごと口ごもった。

穂実の一件以外に何かあるのか。そこまで考えて、穂香は穂実に教えてもらったある事を思い出した。


穂実が死んだ時。

霊力(ちから)が暴走しかけ、壊れそうになった時、文月丸の神力の一部を封印した神様がいた。

それが文月丸の両親と言える存在。位は空狐だ。

封印を解く方法(それ)は、穂実を通して穂香に伝えられた。

穂香の持つ特殊な霊力がないと(おこな)えない方法のため、現代まで文月丸(息子)がもつかどうか、封印する時は賭けだったようで。

これ以上、手を煩わせたくなかった文月丸は、分かりやすいくらい渋っていた。

けれど穂香は――



「文月丸様、やらせてください」

「だが…」

「私が、貴方の為にやりたいの」



やらない理由はない。そう気持ちを込めて。

天狐の力の復活は黒羽だけでなく、この穂積山に集まる小物妖たちの願いでもあるのだ。

それになにより、今後に必要になってくる力でもあった。

穂香を、守る為にも。

肯定の意を表すように、文月丸は目を伏せた。

文月丸自身は、その力と位に固執していない。無いなら無いでいいとさえ思っている。

別に困りはしない。この土地の主だって、望んでなったわけでもない。

でも、小物妖たちをほっておくほど薄情でもなかった。



「…頼めるか?」

「…はい……」



文月丸が身をかがめ、穂香は両手で頬を包む。

優しい、優しい光が灯る。

その光は少しずつ広がり、やがて文月丸の全身を包んだ。

一粒の涙が穂香の頬をつたう。

穂香には、文月丸の両親がどのような思いだったか分かるからだ。

名前が無くとも息子。自分たちの子。

愛しい我が子、だからこそ。



「穂香、お主の霊力は温かいのだな」



不意に、文月丸がそんな言葉を呟いた。

癒しの波動。これ1つで何でもできる。それほど特殊。

その力は伝播していき、荒れた土地も元通りになっていく。

まるで息を吹き返したかのように。

新たに芽吹いた草花も、とても生き生きとしている。


だんだんと光が収まってきた。

パキッと音が鳴って、光が消えた。穂香はその音が何なのか分からなかったが、ゆっくりと目を開けた文月丸に微笑まれて、そんな小さな考えはどこかに行ってしまった。



「…どうした?」

「文月丸様の微笑み、初めて見たので」

「そうじゃったか?」

「穂実の記憶の中でならありますが」



うぐっと言葉が詰まり、文月丸は何も言えなかった。

以前の自分の穂香への態度は、自身を呪いたくなるほど悪かったと自覚している。



「少し意地悪でしたね。すみません」



穂香はそう言って、小さく笑いながら文月丸を包み込むように抱きしめた。

ほわほわと心が温かくなる。優しい気持ちが溢れてくる。

するとゆらゆらと揺れていた文月丸の尾が、2本ふっと消えた。

そのことに文月丸以外の全員が驚いた。



「元々、天狐というのは尾が無い狐神のことじゃ。今2本消えたということは、封印が解かれたことによって力が戻ってきたということじゃ」

「時間をかけて力が戻ったら、尾も全部無くなるということですか?」

「そのとおりじゃな」



嬉しいような、残念なような。

穂香はモフモフが好きなので、良いことなのだけど少し惜しいと思ってしまった。

もちろん、そんなことは絶対に言わない。


穂香の頭にポフッと何かが乗った。毛玉っぽい小物妖だ。

すると今まで遠巻きに見ていた小物妖たちが、自分と集まってくる。

頭に、肩に、乗れるだけ乗った。

1匹がとても軽いので、総重量は大したことなかった。

ただ、数がすごい。

乗れるだけ乗って、乗れなかった者は背中、腕等にしがみつくようにしている。



「…好かれすぎじゃな」



ほんの少し、拗ねたような声色で呟く文月丸。

それに苦笑いで反応を返す穂香の目の前を、ひらりと何かが横切った。



「ネロ…!」



今にもこと切れそうなくらいにまで弱っていたネロが、元気な姿で穂香の元へと飛んできた。

悲惨な姿を見ていたこともあり、こうして元気な姿を見られるのは穂香も嬉しかった。

すっと手を差し出すと、ネロはその手にゆっくりととまった。

そこに雲の隙間からの月明りがさし、その光がより一層際立たせる。



「ホノカー!」

「ボクも! ボクも名前欲しい!」

「ボクもー!」

「ボクもー!」



自分もと、群がってくる。

それは、穂香を主として契約したいと言っているようなものだった。

小物とはいえ、妖。

特殊とはいえ、人間。



「資格アリ、だねぇ…」

「何? どういうこと?」

「何でもないよ。でも、そういう意味で言えば稀莉ちゃんも…」

「???」



黒羽の言葉の意味を十二分に理解している文月丸は、何かの決心を固めたような表情で穂香を見た。

ネロや小物妖たちと戯れている穂香。

いずれは、提案しなければいけないことだったが、とりあえず今ではないと思った。

今は、休ませてやりたい。そう思ったのだ。



「…さて、夜が更ける前に家に送ろう」

「いやいや兄貴… そんな名残惜しそうな顔全開で言っても…」

「何か言うたか?」

「いえ、何も」

「じゃあ文月丸様もウチに来ます?」

「は?」

「稀莉?」

「先輩、元々はウチに泊まる予定ですし、私たち以外いないですし、文月丸様が来ても問題ありません!」

「稀莉ちゃん、俺は?」

「クロも泊まる? いいよ」



ポカンとする穂香と文月丸をよそに、稀莉は話を進めていく。

はいともいいえとも言っていない相手に、しかも文月丸相手に、ここまで勝手に話を進められる稀莉に、穂香は呆れを通り越して感心していた。

文月丸が来るかどうかは置いといて、稀莉の言葉にはホッとしている部分もあった。

雪宮家は、穂香にとって第二の家と言えるほど居心地がよかったからだ。



「稀莉、今日は夜更かししちゃわない?」

「いいですよ。とっておきのジュースも出しますね!」

「もしかしてあのシロップの?」



疲れていたが、誰かと話していたい気分でもあった。

それに、稀莉の家には白雪がいたはずと思い出す。ここにはいないようだが、きっとそこにいるはずなので、迎えに行くという意味でも穂香は行く気になっていた。

その様子を受けて、仕方がないというように息を吐く文月丸。

送っていくとは言ったものの、まだ一緒にいたかったのも事実。

普通の家ならば無理だが、雪宮家ならば何も問題はない。たとえ、文月丸が何者であろうとも。



「雪宮の娘よ。我も行っていいか?」



そう聞いた稀莉は、穂香と顔を見合わせた後、微笑みあった。

やっと先祖の思いが1つ果たせたのだと思い、嬉しくなったのだ。


その様子を見て満足気に目を伏せる理人。

理人は相棒である球体を大事そうに抱え、穂香たちに近づき口を開いた。



「我はもう行く。コイツと共に、各地を回ろうかと思う。一体どれほどで元に戻るかは分からないが…」

「きっと、大丈夫です」

「…そうだな。いつか、もう一度来るとしよう。静流に、会いに来る」

「おばあちゃんも喜びますよ」

「……その時が来たら、1つ、頼みがあるのだが」



頼み、と言われて稀莉は首を傾げた。

自分が何かを頼まれるとは思っていなかったので、その内容は想像でも何も浮かんでこない。

この(ひと)は祖母の友。

その認識しか頭になかったのも事実だが。

だから言われたことに驚きしかなかった。



「稀莉、といったか。その時が来たら、主従契約をキミと結びたい。キミを主としたい」

「…………へ?」

「今すぐではない。その時が来たらだ。我もまだ未熟。各地を回りながらも、日々精進していくつもりだ。もちろん、その時に断ってくれてもかまわない」



稀莉の返事をよく聞く間も空けずに、理人はスッキリした様子で去っていった。

どうしてそういう気になったのか、どうして稀莉になのか。

稀莉はまだポカンとしていた。

当たり前だった。そんなことを言われるとはこれっぽっちも思っていなかったのだから。



「……さぁ、帰りましょう」

「稀莉」

「はっ! そういやあの部屋の片づけしてない! …いっかぁ、明日で」

「稀莉ちゃーん。現実だよ、現実」

「………な…」

「「な?」」

「なんでそうなるの―――――!!?」



発狂に近い声を上げる稀莉。

穂香はその様子がなんだかおかしくて、つい笑ってしまう。

不意に、背後から大きな腕で包まれ、浮遊感を感じた。

文月丸に抱き上げられたと理解した穂香は、大人しく身をゆだねた。

この人が、この友人が、この瞬間が、たまらなく愛しく感じる。

これまでで一番の幸福が、穂香を包んでいた。











~*~




「うーん…」

「どうしたの?」

「今以上に夜が更けるのもあれだから、転移陣を使おうか」

「は?」

「転移陣?」

「ほぅ… ではすぐに行けるのか?」

「雪宮家前に転移できますよ」

「ちょっと、クロ… どういうこと?」

「え?」

「ど、う、い、う、こ、と?」

「……転移の術があるんだけど、転移先に予め(しるし)をつけておく必要があるんだ。転移先(マーキングポイント)ってやつ?」

「それが私の家の前にあると」

「そういうこと。便利でしょ?」

「また勝手にっ!」

「まぁまぁ… 家の敷地内じゃないだけマシじゃない?」

「そういう問題じゃない!」


「…文月丸様、これはほっといていいんでしょうか?」

「ただの痴話喧嘩じゃ。それより穂香。まだ足の怪我は治っておらんじゃろう?」

「あー… でも捻挫でしょうし、これくらいなら自然治癒の方がいいかと…」

「ならん。あまり足に負担をかけるな」

「わっ…! だ、だからって抱き上げなくてもいいですよ!」

「ならん」


「…すごい自然(ナチュラル)にイチャつき始めたけど」

「俺らもいるのにねぇ」

「2人の世界だなぁ…」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ