小話3 弟
小話第3段になります。
今回は主に穂香の弟である孝平メインです。
~*~
最近、姉の様子が変だと気づいた。
自分の姉はお世辞にも友達が多いとは言えない人だった。家族ですらその交遊関係を、全くと言っていいほど知らなかった。
そんな姉が、夏休みに入って少しした頃。
ほぼ毎日といっていいほど外出をしている。夕方には帰ってくるが、何をしているのか分からない。
「ただいま。……孝平?」
「姉ちゃん、最近よく出かけるよな」
「そう?」
「ん? 何それ、石?」
「な、何でもないよ」
姉にしては珍しい物を持っているなと思って聞いてみたけど、はぐらかされてしまった。
はぐらしかたが下手だったので、何かを隠しているともろ分かりだったのだけども。
姉である管原穂香を心配しているのは、その弟の管原孝平だった。彼は姉を慕い、家族としてとても大切に思ってきた。
そんな孝平は、幼い頃から人ではないものをよく見ていた。ほぼ四六時中。人であるかどうか分からないものまであった。
孝平自身に何か影響があるわけではない。けれども嫌でも見えてしまうという状況は、孝平の精神を少しずつ蝕んでいた。
「孝平、母さんが夜どっか食べに行こうって。何食べたい?」
「んー… 何でもいいんだけど… 姉ちゃんは食べたいのないの?」
「これっていうのはないなぁ」
「…父さんがこの前お肉食べたいって言ってたから焼肉でいいんじゃない?」
「焼肉! いいね! 母さーん!」
孝平にとっての癒しは姉である穂香だ。
姉の近くは心地良かった。顔を合わせ、言葉を交わしているだけで心身共に安らぐ気がした。
穂香は孝平とは違い、見えない人、だったはずだ。
でも、最近孝平から見た穂香は、かつての自分と同じ反応をしていた。
もしかしたら穂香は見えるようになってしまったのかもしれない。
そんな考えがよぎり、孝平は不安で仕方がなかった。
~*~
「孝平、ちょっといい?」
外食後、お風呂から上がった孝平は母親に呼び止められた。
なんだろう、と孝平は首をかしげる。進路のことはこの前父親も交えて話をしたし、今のところは問題もないはずだったから。
特に問題を起こしたりしていない孝平に、神妙な様子の母親に呼び止められる理由はないと思われた。
………けれど。
「孝平、穂香から何か聞いてない?」
「姉ちゃん? え、何も…」
「そう… いつもは言わないことを言ったりは?」
「今のところはないと思うよ。…確かにここ最近の姉ちゃんはちょっと変だと思うけど」
母親も穂香の様子の変化に気づいていた。
けれども孝平と同じで、それが何によるものなのかは分かっていない。穂香が悟らせないようにしているのもある。元々穂香は隠すのが上手いのだ。
そんな穂香の些細な変化に気づくのは、さすが家族といったところか。
「まぁ、穂香だから大丈夫だと思うけど。前に泊まりに行ったのだって稀莉ちゃんの家だったみたいだし」
稀莉のことは孝平も分かっているし、顔見知りでもある。
去年のたった1年だが、同じ中学校にいたしそこそこ話もしていた。
その会話の中で稀莉の家が特殊なのも知った。
稀莉なら、知っているのではないか。
そうは思っても連絡手段はないので、聞きたくても何も聞けない。家も知ってるけど、家に直接行くような仲でもない。
あくまでも先輩と後輩の関係。ただそれだけ。
穂香は何かをやっているのか。何かを知ったのか。
それが分かったところで自分に何ができるのか分からなかったが、穂香のために、何かできないかという気持ちが早っていた。
「……っ…!」
変化したのは穂香だけではなかった。
人ならざるものが見えるのは昔から変わらない。けれど、孝平は時々息苦しく、胸の奥がつかえるような思いをすることがこの最近で増えてきた。
何かがおかしい、と曖昧な表現しかできなかったけれど、それでも何かを感じていた。両親には到底相談できないような何かを。
……姉になら、相談できるだろうか。
どうしてそう思ったのかは分からないが、相談相手として真っ先に浮かんだのが穂香だった。
もう、寝てしまっただろうか。明日の方がいいだろうか。そんなことを考えながら、2階へと階段を上る。
2階には穂香と孝平の部屋の他には、倉庫化している部屋しかない。両親の寝室は1階にあるため、多少話をしていても両親に聞かれる心配はしなくてよかった。
「……っ…! …はっ…」
穂香の部屋の近くまで来た時、孝平は部屋の扉が少し開いていることに気づいた。うっすらと冷気も漏れているので、冷房はついてるのにこれでは効きが悪くなるだろうと思った。
部屋が暗かったからもう寝ているのだと思い、扉はそっと閉め、話は明日にしようとドアノブに手をかけた時だった。
とてつもない不安が孝平を襲う。それはいきなりだった。
それと同時に、部屋の中から聞こえてくる穂香のうなされている声。
血の気が引くとはまさにこの事だと思った。躊躇っている暇なんてない。そう思って孝平は勢いよく穂香の部屋へと入った。
「姉ちゃん!?」
本来なら、ベッドで寝ている穂香の姿がそこにあるはずだった。
けれどもそこにいたのは苦しそうに、涙を流しながら眠る穂香。まるで悪夢でも見ているかのような姿。
とにかく、起こさなければ。そう思った孝平は穂香の肩を強く揺さぶりながら穂香を呼び続けた。
「姉ちゃん!!」
早く、早く起きて欲しい。目を開けて欲しい。声を聞かせて欲しい。
いろいろな感情が入り乱れるが、一番に願うのは穂香の無事だった。
そんな孝平の背後に、ひらりと弱々しく飛ぶ黒い蝶がいた。
孝平・・現在中学2年生。穂香の弟。
姉弟仲は非常に良好。というより孝平の
方がシスコン気味。
勉強はそこそこで、運動神経は良い。
穂香よりも前に妖が見えていた。その霊
力はとある理由により補強されている。
実はゆきちゃんが警戒人物として見てい
る存在。
何かがあったとしても、本人には全く自
覚無し。




