閑章三 孤島へ 09
魔境の中層で出会った老婆、オウナと共に魔境の奥へと進む。
道中で話を聞いたが、謎の解明に役立ちそうな情報は特になかった。まあ、オウナはその視点で見ていなかったわけだし、仕方ないが。
ただ、オウナが先ほど戦っていたのは地竜で間違いなかった。
「地竜といっても子供だったようだがな。かなり小さい個体だった。必要ならアイテム袋に入れているやつを出すが?」
「ん。あとで見せて」
「うむ」
小さい個体の方が、邪気による侵食は早いかもしれない。毒と同じだ。もしくは、弱い個体だったせいで邪気による精神汚染に抗い切れなかったか。
どちらにせよ、早く解決しないと地竜や魔獣が大暴れし始める可能性があった。
「む。魔獣」
「ジャイアントムースだ。鹿に似てるが狂暴で、かなり強い。それにあの角が硬くて、戦士殺しなどと呼ばれている。地竜の幼体なんぞよりよほど手強いぞ」
体高10メートル近い、巨大な斧のような角を持つ鹿タイプの魔獣だ。角は高級な建材になるそうで、かなり高額で取引されているらしい。
エルリーゴのギルドでも、それ系統の依頼があった。角一本だけでも50万ゴルドを超えていたはずだ。
まあ、フランが気になるのはそっちじゃないけどね。
「おいしい?」
「うん? 味か? さて、食ったことはないな。まあ鹿なのだし、美味いんじゃないか?」
「ほほー」
鑑定だと食用可能としか出ていないが、内包している魔力もかなりのものだし、マズいってことはないだろう。
ただ、やる気になったフランを制止して、オウナが前に出た。
「まあ、ここは私に任せておけ。一緒に行動するにあたって、どういう戦い方をするか、見せておく方がいいだろ?」
「む。わかった」
フランは素直に頷く。肉も気になるが、オウナの実力はもっと気になるのだろう。俺はそれに加えて、オウナが腰に差す刀も気になる。鞘に入った状態でも、業物だと分かるくらいに存在感があるのだ。
そんじょそこらの魔刀ではないだろう。
「さて、それじゃ少しだけ本気を出そうか」
そう呟き、刀の柄に手を添えるオウナ。それだけで、フランとウルシの毛が逆立つほどの威圧が放たれた。
折角気配を消して近づいたのに、ジャイアントムースがこちらに気付いてしまった。脅威度Cの殺気が叩き付けられる。
しかし、老婆は一切取り乱すことなく、余裕の表情でジャイアントムースを静かに見つめていた。
その態度にイラついたのか、ジャイアントムースが角を振り乱しながら突進をし始める。一瞬で彼我の距離が詰まり、大きな角が振り下ろされ――。
「ぶった切れ、『千本腕』」
「!」
「オフ!」
ジャイアントムースの体が上下に分かたれ、体液をぶちまけながら地面に倒れ込んだ。
たった一閃。居合抜きのように放たれた切り上げが、ジャイアントムースの角も頭も胴体も斬り裂き、その巨体を二分割したのである。
「すごい」
「オン!」
『攻撃の一瞬、すげぇ魔力が放たれたな。ありゃあ、ヤバいぞ』
「ん」
ジャイアントムースを仕留めた一撃は、天断級の攻撃力があっただろう。それをあの一瞬で準備して放てる剣士、そう多くはないはずだ。
「オウナ! すごい!」
「はっはっは。子供に褒められるのは気持ちいいもんだな! だろ?」
「切った技も凄いけど、その刀もなんか凄かった」
「ほう? それも分かったか? こいつは妖刀・千本腕。私の相棒さ」
「おー、せんぼんかいな! 師匠と同じ、相棒!」
妖刀ね。言われてみると確かに、斬撃と同時に放たれた魔力は普通とは違っていた。禍々しいというか、猛々しいというか、少々攻撃的な魔力だったのだ。
「肉を食いたいなら、好きに持っていけ」
「いいの?」
「ああ。私は特に必要ないからな」
「ありがと」
フランのオウナに対する好感度が目に見えて上がったな。強くて格好良くて肉をくれる、いいお婆さんという扱いになったのだ。
「お? ゴールドトータスか」
ジャイアントムースを仕舞っていると、再び魔獣が近寄ってくる気配があった。血の匂いに引かれたか?
「金ぴかの亀! おいしい?」
『いや、あれは食えない。全身金属みたいな硬い物質でできてるらしいからな』
ゴーレムなのかと思ったが、生物の範疇に入るらしい。
「やつは食えないが、武器を作るのにいい素材になる。特に鍛冶師なら誰だってほしがるだろうよ」
「オウナ欲しいの?」
「できればな」
「じゃあ、次は私の番! あの亀倒して、オウナにあげる」
ということで、今度は俺たちの実力を示す番となった。まあ、さっきのジャイアントムースよりは弱いし、瞬殺だったけどね。
雷鳴魔術からの天断という、フランらしい攻撃は見せられたんじゃないかね?
「速いな。さすがだ。それに、ゴールドトータスをこれだけスパッとやっちまうとは……。さすが神剣ってことか」
「ふふん。師匠はすーぱー凄い剣!」
「ああ、認めよう。確かに凄い剣だ。悔しいがね」
「ん!」
俺を褒められたフランは、嬉しそうに何度も頷いている。こりゃあ、フランからオウナへの好感度マックス状態かもね。




