閑章三 孤島へ 10
フランが倒したゴールドトータスを受け取り、ほくほく顔のオウナと魔境の調査を進める。よほど嬉しいのか、その足取りは今にもスキップを始めそうなほどに軽かった。
最初は気難しそうな婆さんだと思ったが、意外に単純だったらしい。
巨大な肉塊よりも変な金属に喜ぶオウナが気になったのだろう。フランが使い道について質問をした。
「オウナ、その亀何に使う?」
「こいつか? 大きい個体だし、久々に大剣でも打つかね? たまにはちゃんとした武器をこしらえなきゃ、腕が鈍るからな」
「? オウナが、剣うつ?」
「ああ」
『え? 鍛冶師だったのか?』
「そうだ」
なんと鍛冶師であったらしい。しかもゴールドトータスの素材を扱えるとなると、かなりの腕前だろう。
『もしかして、その千本腕も自分で打ったのか?』
「……まあな」
だとしたら高位どころの話じゃない。間違いなくガルス以上。魔剣や霊剣を当たり前に打ち、神級鍛冶師にライバル意識を抱くことを許されるレベルだ。
神剣が嫌いなのも、そこら辺に理由があるのかもしれない。神剣って、俺自身から見てもちょっと理不尽なところあるし。
「さて、雑談もこの辺りでお終いにしておこうか」
「ん」
「オフ」
フランたちが静かに足を止める。少し先に、明らかに強い魔力を放つ存在がいるのだ。多分、地竜だろう。
「邪気感じない」
「オン」
「私が斬った地竜とは気配が明らかに違う。まだ邪気にやられてはいないだろう」
「ん」
その後、フランたちは気配を消したまま深層を探索していった。フランとウルシはともかく、鍛冶師であると判明したオウナの隠密能力もかなりのものだ。
彼女が左手に持つ『暗々裏』という名前の全身漆黒の刀が、隠密系能力を持っているらしい。これも自作だという。
地竜に発見されることもなく、調査を進める。だが、邪気の大元は発見できなかった。
深層が怪しいと思っていたんだが、むしろこの辺は邪気が一切感じられない。強い魔力に晒されて、地竜も植物も元気なものである。
オウナが斬った地竜は、中層に迷い出てしまった幼竜がたまたま邪気を取り込んだだけだったようだ。
薬草が不足しているみたいだし、俺は探索の合間にせっせと採取しておいた。きっと、レンギルが高く買い取ってくれるはずだ。
結局、深層では目ぼしい発見はなく、フランたちは中層へと移動していた。こちらではやはり邪気に汚染された植物が発見できる。
『そろそろ夜だし、一度――うん? 人がいるな』
「でも、邪気感じる」
「オン!」
調査が進展せぬまま、日が傾き始めた頃。俺たちは妙な気配を捉えていた。
モンスターではなく明らかに人間なのだが、かなり気配が薄かった。斥候職か、そういった魔道具でも使っているのか。しかも、微かに邪気も感じるのだ。
モグモグしていたおにぎりを水で流しこんだフランとオウナは、気配を消して謎の人物に近づく。相手からは気づかれていないようだ。男はこちらに背を向けて、無防備に歩いている。
そう、無防備なのだ。その足取りは、決して強者のそれではなかった。冒険者でいえばランクFくらいだろう。素人に毛が生えた程度の実力だ。
本来であれば、この魔境の中層に辿り着けるほどの腕前ではない。やはり、気配を消すための魔道具を身に着けているようだった。ブーツが怪しいかな?
そんな謎の男が背負う一抱え程の木箱の中から、間違いなく邪気が放たれていた。ただ、今回の異変に関係あるのかどうかはまだ分からない。かなり怪しいけどね!
ということで――。
「ねぇ。ここで何してる?」
「随分とコソコソしているな?」
「グルル」
フランとオウナが男性に話し掛けた。小細工するよりも、さっさと尋問してしまった方が早いと考えたのだ。
威圧感を男に叩きつけながら、強者3人が取り囲む。
男が全く悪くなかったときは少々申し訳ないが、異変が起きている時に怪しい行動をしてる方が悪いのだ。
「な! お、俺の姿が見えるのか!」
「ん」
「私たちくらいになれば、その程度の隠密は効かんよ」
「オン!」
「それで、何してる? 今は危険だから、入らない方がいい」
「あー、その、仕事だよ」
フランの質問に応える男の目は、明らかに泳ぎまくっている。怪し過ぎるな。
「どんな? その背中の箱から邪気出てる。怪しい」
「そ、その、邪気の含まれた薬草を採取しにきてるのさ。これを研究したいっていう人がいてね?」
『嘘だな』
「ん。今回の魔境の異変、お前が何かしてる?」
「そ、そんな訳ないじゃないか!」
『はいこれも嘘』
男の言葉は嘘だらけだった。間違いなく今回の異変に関係している。ということで、ここからは尋問ではなく拷も――少々強引にお話をしてもらう時間だ。
ただこの男、大して強くないのに非常に口が堅かった。どんなに痛めつけても、自分がやったと言わないのだ。それどころか、狂気的な表情でこちらを睨み返してくる程だ。
「な、仲間を売るなんて……ぜったいにしないぞ! 我らの崇高なる大義のために!」
狂信者ってやつなのだろう。これは暴力で口を割らせるのは難しいかもしれない。
俺たちが悩んでいると、オウナが何かを取り出した。禍々しい気配を発する、桃色の柄紐が毒々しく見える短刀だ。
「それは?」
「まあ、見てろ。墜とせ、『美人局』」
酷い名前の刀だな! しかし、効果はえげつない。その刀で腹を刺された男が、次の瞬間オウナに対して潤んだ瞳を向け始めたのだ。
「さて? 話をしようか?」
「ああ、君になら何でも話すよ……。でも、その前にお腹の傷を治してほしいな」
「全部話したら治してやるさ」
「だったら、全部話さないとな……」
なんと、切った相手を魅了してしまう刀であるらしい。斬られたというのに、男は非常に協力的な態度である。恐ろしい刀だった。
少々忙しく、次回更新は5/26とさせてください。




