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閑章三 孤島へ 06


 受けてもらいたい依頼があると告げたギルマスが、シリアスな顔でフランの目を真っ直ぐ見つめてくる。真剣過ぎて頭の狐耳も気にならないほどだ。


 どうやら高難易度の案件を抱えているらしい。受けるとしてもハガネ領国での依頼を受けた後になるが……。


『内容は?』

「このエルリーゴから北に存在するランクA魔境、『地竜の揺り籠』にて異変が起きております。その調査と、でき得るなら解決をお願いしたい」


 ランクA魔境。つまり、ランクA冒険者が適正レベルという扱いの、激ヤバな場所である。ランクB冒険者がパーティを組んで、ギリギリ生き延びられるような難易度だった。


 そこで依頼をこなすとなれば、確かに普通の冒険者では難しいだろう。


 地竜の揺り籠は、その名の通り深部に脅威度B魔獣である地竜の群が生息している場所であるらしい。統率個体である大型の竜は、脅威度A級とも目されているそうだ。


 深部は竜の住処となっている。では、周辺はどうか? ここも、一筋縄ではいかない。


 なんせ、竜が住処にするほど魔力の濃い土地だ。当然ながら、上位の魔獣がうようよ生息している。それこそ、竜の餌になるような大型の魔獣ばかり。


(師匠)

『依頼を受けたいのか?』

(ん)


 まあ、話を聞いた時点でこうなるだろうとは思っていた。仕方がない。


「戻ってきた時に、その依頼が残ってたら受けてもいい」

『でも、ハガネ領国にどれだけの期間滞在するかもわからないし、解決できるかどうかだって分からんぞ?』


 武芸者の島で、模擬戦の相手が1人や2人ってことはないだろう。フランのやる気次第では、数日どころか一ヶ月くらい滞在する可能性がある。


 だが、カヌークは首を横に振る。


「いえ、できればすぐにでも依頼をお受けいただきたいと考えています」

「依頼中だから無理」

『ギルドがそんな横紙破りしていいのか?』


 依頼を受けている冒険者に、無理やり他の依頼を斡旋するのは明らかにルール違反だろう。しかし、よほど切羽詰まっているのか、カヌークは諦める様子を見せなかった。


「確かに褒められた真似ではありませんが、本当に緊急事態なのです。この事態が解決されなければ、あなたを雇っているルシール商会も困ることになると思いますよ?」

「む? レンギルたちに何かする気?」

『俺たちを脅す気か』


 冒険者を使って嫌がらせでもするつもりだろうか? だが、脅しに屈する俺たちじゃないぜ? すでにフランが臨戦態勢だ。相手の出方次第では、いつでも俺を抜くだろう。


 殺気を向けられたカヌークは、真っ青な顔で両手をワタワタさせている。


「ち、ちちち、違いますっ! い、言い方が少々紛らわしかったのは謝りますが! ラ、ランクS冒険者にそんなことするわけないじゃないですか! この町が滅ぶ!」

「じゃあ、どういう意味?」

「魔境が、薬草の採取地なのです! 異変が続く限り、薬草は市場に戻らないでしょう! 遠方からわざわざ来て、薬草の仕入れをしない商人はいない! 仕入れが空振りに終われば、大損です! そういう意味で、困ると言ったのです!」


 どうやら脅す気なんか最初からなかったようだ。焦燥のせいで、少々短絡的な物言いになってしまったのだろう。


「ランクA魔境の調査ともなれば、ランクA以上の冒険者でなくてはなりません。しかし、当てがない。この国にもランクA冒険者が1人いるのですが、他の高難易度依頼に出払ってしまっており、いつ戻るかも分かりません」

「ランクA冒険者1人しかいない?」


 小首を傾げるフランの問いに、カヌークが苦笑いを返す。


「ああ、そういえばクランゼル王国で活動されているのでしたね。ランクA相当の人間が5人も10人もいるあの国が異じょ――特別なのですよ。1人いるだけでも、奇跡的です」


 今、異常って言いかけた! まあ、冒険者優遇措置によって、世界中から冒険者が集まるクランゼル王国が確かに異常なのだろう。


 一人いるだけで国家間の戦力レベルに影響を与えるような存在、普通はそうそういないのだ。


 クランゼル、獣人国、ゴルディシア大陸と、強い冒険者が多い国ばかりで冒険してきたから、フランはあまり実感していないだろうけどね。


「カヌークじゃダメなの?」

『あんたはかなり強そうだけど?』

「俺も元々ランクAでしたが、怪我を負って引退したのですよ。今の俺は、高く見積もってもせいぜいがランクB。今回の依頼をこなすことは無理でしょう。パーティも解散していますしね」


 ただの怪我ではなく、呪いの籠った矢を食らってしまい、左膝が以前通りには動かないらしい。項垂れるカヌークの狐耳が、彼の心境を反映するようにシュンと垂れている。ゴツイ狐耳禿げオッサンなのに、なんか可愛く見えてきちゃったぞ。愛嬌があるせいか?


 話をしていると、階段を大勢が上ってくる気配があった。敵意や悪意は感じないが、戦意はあるようだ。そして、執務室のドアが蹴破られたような勢いで開く。


「ギルマス! 無事か!」

「死んでねぇか!」

「な、何があったあぁ!」


 どうやら、先ほどフランが放った殺気が下の階にもバッチリ届いていたらしい。


「お前ら……。いや、大丈夫だ。ちょいと実力を見せてもらっただけだよ。騒がせたな」

「そ、そういうことでしたか……。いやあ、勘弁してくださいよ。下のやつらは泡吹いてぶっ倒れるやつまで出たんすよ?」

「寿命縮みましたわ」

「さすがランクSっすねぇ」


 文句を言っているが、誰もこっちは見ないな。


「他のやつらにも済まねぇと言っておいてくれ。今日の酒場の支払いは俺が持つともな」

「マジっすか?」

「やったぜ!」

「あざーっす!」


 青い顔に決死の表情を浮かべていた冒険者たちが、嬉しそうに笑う。まあ、冒険者なんて、肉と酒があれば幸せになる生き物だからな。


「騒がせてすみません」

「別にいい。あと、依頼、レンギルにどうするか聞いてみる」

『そうだな。ルシール商会の判断次第では、受けてもいい』

「おお! ありがとうございます!」


 今にもソファから降りて土下座を始めそうなくらい頭を下げるカヌーク。テーブルに頭が当たっているのだ。


 というか、テーブルにヒビ入ってるから! そろそろ頭上げろ! 冒険者の後に様子を見にきた職員のお姉さんが、唖然としちゃってるから!


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― 新着の感想 ―
ギルマスの呪いはどうにか出来そうな気がするが下手に治してしまうと現役復帰されてこのギルドのマスターが居なくなってしまう気がするが、この街には他にも2つギルドがあるようだし一時的な不在は問題ないのかな?
階上の一室から放たれた殺気で昏倒する奴すらいるのに、ギルマス助けにやってくる冒険者たち。 なかなか慕われてるねぇ。
膝に矢を受けてしまったのか…それじゃ現役を引退して門番かギルマスにでもなるしかないな。
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