閑章三 孤島へ 07
冒険者ギルドにて緊急依頼を受けて欲しいと頼まれた俺たちだったが、その後の展開は早かった。
レンギルとしても薬草の仕入れは確実に成功させたいようで、エルリーゴでの依頼を優先してほしいと頼まれたのだ。
そもそも模擬戦依頼はいついつ連れていくという細かいものではないので、到着が伸びたところで問題ないらしい。これで、心置きなく緊急依頼に集中できるってもんだな。
あと、ギルマスの膝は俺たちが癒した。聖浄魔術と治癒魔術を併用すればなんとかなったね。
ギルマスも痛みが引いて驚いていた。聖浄魔術の使い手が少なく、呪いの解呪が難しいらしい。ランクA冒険者の体を蝕むレベルの呪いだし、高位の術者が必要なんだろう。
まあ、リハビリが必要だから、今回の依頼には結局間に合わないけど。
『ギルマス門番ルートは阻止されたな……』
「? 門番?」
『おっと、何でもない。独り言だ。それよりもあれが地竜の揺り籠か』
「ランクA魔境。楽しみ」
「オン!」
平原の先に、鬱蒼とした森が見えている。濃い魔力が発散され、それだけで一般人は酔ってしまうかもしれない。
『楽しみなのも結構だけど、気合入れていくぞ。ランクで言えば、水晶の檻の最深部よりもヤバい場所なんだからな?』
「ん!」
浅層のマップは提供してもらったが、深部はほとんど何も分かっていない状況だ。
『とりあえず、浅い部分を調査するぞ』
「邪気、探る」
「オンオン!」
今魔境に起きている異変の内容は、謎の邪気による植物の汚染だ。魔境に生えている霊草や薬草の内部に何故か邪気が含まれており、知らずに使用すると人の体が蝕まれてしまうらしい。
しかも、邪気を含んだ薬草を取り込んだ魔獣が体内に邪気を溜め込み、狂暴化する事件も発生している。
通常の魔獣であればなんとかなるが、それが地竜であれば? 邪気を溜め込んだ魔獣を喰い続ければ、いずれ地竜が暴れ出す可能性だってなくはないだろう。原因の解明が急がれるのも無理はなかった。
「ふむ……見つけた」
「オン!」
『まじ? もう?』
「まじ」
「オンオン!」
なんと、フランとウルシがさっそく邪気を感知したらしい。これは、俺の想像以上に汚染地域が広いのだろうか?
フランたちの感覚を頼りに森の中を進んでいくと、俺にも邪気が感じられた。
「この草」
「オン」
『竜園草だな。竜の住処の傍にだけ生える、滋養強壮に効くっていう薬草だ』
希少な薬草で、品質が良ければ一株で10万ゴルド以上するはずである。
『見事に邪気が入り込んでいるな』
「葉っぱの中、黒い」
フランの言う通り、邪気は葉の内部を蝕んでいた。集中して邪気を感知すると、葉脈に沿って黒い線が走っているように見える。
つまり、ただ邪気を浴びたってだけじゃなく、根から水のように邪気を吸い上げたということだろうか? スキルで邪気を抜いてみたが、劣化してしまっていて売り物になりそうもない。とりあえず収納しておこう。
ああ、地図に採取した場所をメモしておくのも忘れずにな。
こうして俺たちは、半日かけて魔境の浅層をグルリと一周した。邪気に汚染された植物は全域で見つかり、魔境全体が邪気の影響を受けていることが分かった。
『薬草以外の植物もやられていたな』
「ん。あと、魔獣も」
「オフ」
浅層に出現する魔獣とも数度戦ったが、すでにこちらにも邪気の汚染が進んでいるようだ。倒した5種類10体の魔獣の内、3体が邪気を内包していたのである。
種族も出会った場所もサイズもバラバラで、この魔境に生息しているという以外に共通点も見つけられなかった。
魔獣を捌いてみると、内臓を中心に邪気が浸透している。多分、薬草の邪気を食事を通して取り込んでしまったのだろう。
『原因っぽいものは見つけられなかったな』
「もっと奥いく」
『それしかないか』
これだけ魔境全体に影響が出ているとなれば、やはりその中心が怪しいだろう。
『しかし、邪気を感じるのは見事に魔境の中だけなんだよなぁ』
「オン」
今回の邪気汚染の不可解な点は、影響が綺麗に魔境内に収まっている点だろう。魔境から外に出て外周部を歩いてみたが、そこでは邪気を含んだ植物は一切見つけられなかった。
邪気が魔境だけを選んで汚染しているかのようだ。何者かの意思が働いているのか、それとも自然現象的な理由なのか。今の時点では分からない。
「ウルシ、いく」
「オン!」
フランとウルシが森を奥へと歩みを進める。いや、少し歩けば日の光を遮るほどに樹木が密集し始め、すでに樹海と呼んだ方がいいかもしれない。
『邪気が濃くなってきたな』
フランやウルシよりも感覚が鈍い俺でも感じ取れるくらい、邪気を含んだ植物が増えてきた。ちょっと進んでこれじゃあ、最深部はどうなっているか分からんな。
「む?」
「オフ!」
『何かが戦ってるのか? すげえ魔力だ』
樹海のさらに奥。深層があると思われる辺りから、強烈な魔力が迸っているのが感じられた。同時に、低く鈍い音が微かに響く。
大型の上位魔獣同士が縄張り争いでもしているのだろうか? 下手したら、脅威度B同士の戦闘かもしれない。
『邪気の影響か? ともかく、一度確認しに行こう』
「わかった」
「オン!」
邪気の汚染が地竜にまで及んでいて狂暴化してたりしたら、厄介なのだ。
『戦いはできるだけ避けて、偵察に全力を注ぐ。いいな?』
「戦わない?」
『下手に上位の魔獣を刺激して、騒ぎが広がるのはマズい』
俺たちが原因でスタンピードが起こりましたなんてなったら、最悪だからな。




