灯台もと暮らし①
「...ナルホド。『潮力の操作ができるようになった時点で、民間人ではなく式者と判断しスカウトへ移行。その為、彼女の安全を最優先にした為に、識の討伐ではなく、逃走を選んだ』って訳だ...」
くたびれたスーツと下駄に、ココアシガレットを咥えた初老の男、木漏 芥はジィ〜っと、プラネと御環を見ていた。睨んでるとも、窺っているとも言えない目線で。
「おい、錦。お前、絶対この閃光 プラネって子が居たの知ってたよな?」
『クルック〜』
「それを俺に言わずに」
『コ、コケ〜』
「...御環にこの言い訳仕込んだのもお前か?」
ココアシガレットを右手でペン回しの要領で回す。リズムが御環の槍回しとかなり似ている。
良くもあんな短くて軽い物を回せるものだ。
『あぁ〜言い訳に関しては何も言ってないよ、私。チュン』
「それ以外は認めると...」
『てへぺろッ』
バキッ
ココアシガレットを右手の中で砕いた。そして、一気に口に流し込む。
「おい、御環。今まで野良の式者がやらかしてきたの見たよな?」
「彼女は目覚めたばかりなので、まだ"排除対象である野良の式者"とは言えないと思います」
「ほう、それで?彼女は?どうするよ?」
「このままでは、暴発により排除対象である野良の式者になるか、自滅します。なので、これから赤糸を習得させて、赤師にするべきだと思います。習得するまで、僕が責任取って護ります」
「...自分で面倒見ると」
木漏は懐から水なしで飲める酔い止めを出した。
「そういうのは、まずはコレを普通に飲めるようになってから言え」
「は、はい」
「だが、合格だ」
「え?」
「キョトンとすんな。まずは、その子に説明しろ。それが最初の責任だ」
ポケ〜としていたプラネに木漏が、ココアシガレットの箱を出す。
「嬢ちゃん、コレ舐めるか?嫌いならいいぞ」
「あ!ありがとうございます!」
ンン〜と伸びをする木漏。
「それじゃあ、暫くは御環は赤所か。とっとと、俺の家の荷物まとめろよ」
『え?何言ってんの?』
鳩が急に視線を集める。
『芥のとこで、2人とも修行させるに決まってんじゃん』
「...お前、俺んとこが女子禁制なの知ってるよな?」
***
紅い鳥居を何重にも重ねて、作り上げたかのような構造。天井を見上げると、人の肋骨にも思える。所々に血管や筋肉、骨格のような構造も見える気がするが、気のせいだろう。胎動しているようにも見えるが。
ここは、赫師が拠点とする"赤所"の中で錦が鎮座するコントロールルーム兼応対室である。
御環とプラネはこの部屋に呼び出された。
入口の扉を潜り、そのまま進むと中央の座布団にあぐらをかいて座っている人物が。
まずは、その人物が口を開く。
「まずは、生還おめでとう〜。私こそが、赤糸の産みの親であり、赫師の代表!みんなの"錦 御旗"だよ〜!全然みんな御旗って呼んでくれないから、そっちで呼んでね〜!」
「あぁ!あの鳩さんから聞こえた声です!御旗さんってこんな方だったんですねぇ!!」
「いや〜御旗って呼んでくれたよぉ〜!御環も最初はそう呼んでくれてたのに、他の赫師と絡んでから、ずっと"錦さん"なんだよねぇ〜」
キャッキャッと話している男...いや、男かも怪しい。身体のパーツがチグハグすぎる。腰のクビレの位置は女性だが、鎖骨周りは男性のソレ。の割には肩は女性のようにまるみを帯びているが、腕自体は男性のように角張っていて、手は女性のように滑らか。そして、やけに肌が白く、肌の下の血管が見えそうなほど。
顔つきもどっちともつかない。どちらかと言うと女性寄りの輪郭だが、声は変声前の男児のよう。長い赤髪がやけにツヤ立ち、これをフィッシュボーンに纏めている。瞳は、べっこう飴のような甘い色をしていた。
服装は巫女服のようだが、所々の赤い縫い紐が目につく。赤白を主としているのがわかる。細部...いや全体的に、現代アレンジがかなり入っており、動く度にどこかしら露出するようになっている。最早、見せびらかしてるまである。
これが、かの錦 御旗である。
「え、御旗さん、指とってもキレイですね!見ていいですか!?」
「でしょお〜?ネイルしたら隠れちゃうから、しないで生の手を見せびらかしてるんだよ〜」
「最高のネイルじゃないですか〜」
プラネが錦の元へ近づく。
「あれ?なんか、御旗さんの服の紐、ちょっと、ん?」
袖括りの紐になにか違和感を覚えた。
「あぁ、これ?服の紐じゃないよ。私の肉体を縫ってる赤糸。これを遠目では袖括に見えるようなデザインの服にしたんよ〜。オシャレでしょ?」
「チャーミングポイント作るの上手すぎます!」
ヤイヤイとファッションの会話を続ける錦とプラネ。
「おい、御環。民間人だったのか?本当に?あの子?普通、あのツギハギ化物に気がついたら卒倒するぞ?」
「いや、僕もよくわかってません」
御環と木漏の方が置いていかれていた。
「まぁ、いいや。俺は先に帰って準備する。アレをどうにかしないといけないしな。まぁ、頑張れ」
そう言って、木漏は先に出ていった。
するとスレ違いざまに
「ちょっっとぉ!!!本当にプラネちゃんじゃーーーーン!!!」
赤い振袖を現代アレンジしたギャル風の見た目の女性が部屋に入ってきた。
すぐさま、プラネの元に駆け寄り、
「え!?本当に可愛いんだけど!前髪!!あ!私、織雛!プラネちゃんのダンス好きなの!キラッてしてて!」
「え!そうなんですか!?ありがとうございます!織雛ちゃんの袖の振り方もカワイイです!!ふわぁって感じで!」
「そう!?やった!ギャル友増えた!!」
800歳を超える赤師、織雛とプラネは即意気投合していた。
錦と御環が顔を見合わせる。
「なんというか、その、」
「ん〜まぁ、ギャルマインドって自我の輪郭を保つには正解なんじゃない?」




