光がなければ影はできない⑦
御環が、赤槍をリフティングの要領で回す。
カンッ、カァンッ、カーンッ、カァーンッ
「いい反響だ」
次第に音の響き方が変わっていく。
識が一気に駆け出す。だいぶタメがあったので、初速は相当。一気に対象との間合いを詰めたいようだ。
ギィイイイ!?
蜘蛛の式紙である八方塞が仕込んでいた血のワイヤーに脚を捕られる。
「脚元が疎かだぞ」
そう言いながら、御環はまだ赤槍を振る。
ブンッ、ブンッ、ブゥンッ、ビュンッ、
「もう充分かな」
風切りの音色も変化している。心地いい音だ。
識も流石に御環への脅威判定を変えたのか対応を変える。
両手を前に出し、白いモヤを伸ばす。もうプラネは角を曲がってしまったので目測はできないからこそ、飛び道具を使ってきた。
(やっぱり、物理的制約が少ないモヤの方を使うよな)
モヤは物理的制約が少ない分、触れることが難しく、単純な妨害が難しい。そういう意味では、識の判断は正しかった。
ギィイ!
伸ばしたモヤは届いた。すぐさま取り込む。
ギィィイギギギィギイイィイ!!
「ハズレ。それは朽縄だ」
曲がり角の先には、御環が蛇の式紙、朽縄を能動の式を織り込んで設置していた。朽縄は能動の式と相性がいい。条件を満たした瞬間に、特定の行動を取るようにしていた。
(疑似質量にすら引っかかるとは、だいぶプラネさんに...なんなんだあの人の重さは)
ギィィイイイ!!ギィ!ギイィギィイ!!
「ようやく、こっちを見たか」
御環の質量を与えた朽縄を取り込んだので、御環を視野に入れるようになる。
ギィイイ!!ギィ!!
「そうしてもらわないと、時間稼ぎできないからな。こっちは逃がせば勝ちなんだ」
識は袖の先のモヤを仕舞う。そして、はっきりとした手を形成する。やけに指が長くて不気味だ。
そして、白いモヤを鎖のようにし鎖鎌のような輪郭を作る。
「おいおい、取り込んだ質量に引っ張られすぎだろ。鎖鎌なんて」
識が鎌のついたモヤを回して遠心力を稼ぐ。だいぶ物理法則に縛られているようだ。
「おいおい、」
充分加速したら、大きく振って更に遠心力を稼ぐように御環の方を目掛けて飛ばす。
「使い方知らないなら、使うなよ」
路地裏という立地のせいで、御環に届く前に壁に鎌がめり込み停止。
ギギギィ!!!
「毒が回ってきたか」
頃合とみて、御環も間合いを詰める。
こちらも赤槍に遠心力を乗せて薙ぎ払いを放つ。御環は路地裏でも振り回せる程度の長さで織り上げていた。
ギィイイギギギギギ!!
識も何とか応じて、モヤの鎖で赤槍の刃を絡め取る。
が、その刃はすぐに外れる。
その短くなった柄をそのまま、床に刺す。
その瞬間に、柄は赤い糸に解け、御環の影に落ちる。
「"影送、疾風"ッ!」
その瞬間、上方で待機していた鳶の式紙、間飛の輪郭が隼の輪郭に変わる。
実は、穴冠を解除する際に、完全解除せずに間飛に戻して待機させていたのだ。
そして、御環の境の内であれば、御環は全ての式紙と距離関係なくリンクしている。わざわざ、個別に式紙の影に赤糸を流さなくてもよい。境内は自分の身体同然なのだ。
そして、加速も境内なので充分。
ビュゥゥウウウンッ!!!!
上方からの急降下。識を疾風が貫く。接地する瞬間に御環の影に解けた。
一方、完全に不意を突かれ上方へのガードを一切組んでいなかった識は輪郭を維持できずに崩壊、霧散した。
「よし、時間稼ぎ完了。朽縄の毒の式もあるから、暫くは再構築できないだろ...」
識は識の起点を自分の境に置く。それは、活動態であっても。あくまでも、今回は既存物理空間で活動できるアバターを機能不全にしただけである。
根本を叩くには、奴の境に入る必要がある。
...という懸念ではなく、別の懸念に御環は頭を悩ませていた。
「木漏さんになんて言い訳するかなぁ...」




