光がなければ影はできない④
穴冠に騎乗して、すぐのこと。
プラネはある違和感を覚えていた。この御環という少年、軽すぎる。重さを感じない。実際に持ち上げた訳では無いが、掴まっててそんな感じがする。
そんなプラネの疑問を他所に
「目成の報告通りでしたね。識が活性化を始めました」
『お、境が潰された?』
「ええ。充分時間稼ぎできたでしょう」
「えっと?」
『この空間の主が起きたってことだね』
「そういえば、さっきから白いウネウネが増えたような気がしますね...?」
「あんまり、"観"ない方がいいですよ。持っていかれます」
「え?」
『この識、はっきり観ちゃうと距離関係なく取り込まれるんだよね。だからあんまり観ない方がいいよ。気になると思うけど』
「なんなら、目を瞑っていた方がいいですよ、この識に対しては」
「ちょっと、アレですね。目を瞑るのは少し、怖いです」
『プラネちゃんは"眼"が良さそうだからね。ま、だからこの境の中に居たんだろうけど』
「この識は発動条件が緩い分、対策も容易です。目を瞑っていてください」
「はい、」
目を瞑るのと同時に掴む腕に力が入る。するとまた御環が震える。
「御環、くん?大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫です」
「...御環くん、フルネームは?」
「..."淵不知 御環"です」
『御環って呼んであげなね。ちなみに、御環の名付け親は私なんだよ?私の下の名前の"御旗"から取ったんよ〜』
「錦さん、個人情報流しすぎです」
暫し沈黙、
『おい、お前が今度は名前聞けよ(小声)』
「いや、それは錦さんがもう言ってたじゃないですか(小声)」
『コミュニケーションとしてだよ、馬鹿(小声)』
「...はぁ、閃光?さんのお名前は?」
「"閃光 プラネ"です。私もプラネでいいですよ」
「...それは、本名ですか?」
『いや、まぁお前の淵不知も中々だけどな』
「本名にしちゃいました。戸籍変えて!」
『「マジかよ」』
「マジです」
「名前って、そんな風に変えられるものなんですね...」
「私からも質問いいですか?」
「...いいですよ」
『なんなら聞きたいことだらけだろうからね』
「答えられたらでいいんですけど、御環くんって、体重いくつですか?」
「?」
「いや、なんか、なんかやけに軽く感じて」
「あぁ、式紙を召喚する時に、質量を与えて安定化させるんですよ。僕の場合は、血液ですね。その分、使用中は質量が減ります。簡単に説明すればそんな感じです」
「解除すれば、戻るってことですか?さっきの蜘蛛さんみたいに」
「そうですね。僕の影の輪郭まで戻せれば、僕に還元されます。遠い場所で破壊されたら、その分の質量は無くなります」
「へぇ、じゃあこの鷲さんも御環くんの一部ってことですか?」
「そうですね」
「御環くん、年齢は?」
「17です」
「私は19です!近いですね!」
「はい」
「好きな動物は?」
「なんでソレを聞くんですか?もっと聞くことあるでしょ?」
「いや、いっぱい動物さん召喚できるのかなって?」
「...動物は、嫌いです。植物も。他者を喰らわないと生きていけないので」
「御環くんは優しいんですね!でも、他の動物に幸せをあげることもできますよ?」
「...それでも、奪わないと生きていけない設計は嫌いです。誰かと居ないと生存できないのも」
「独りが好き?」
「はい」
「でも、誰かが居ないと自分が居ることを確かめられないですよ?」
「...それは、自我の輪郭が弱いだけです」
(会話を続けていくうちに、御環の輪郭が安定化している...このプラネって子なかなか)
段々とブレが少なくなっていくどころか、普段よりもくっきりと輪郭を示す御環を見て、鳩は口を挟むのを控えていた。
その時、四方八方から白いウネウネが垂れてくる。重力の方向なんて関係ないようにこちらを中心として。
「うぁ!なんか急に生温かいのが!」
「目を瞑ったままで!侵食用の触手です!観たら持ってかれます!!」
触れた瞬間にアルミホイルを潰したような「クシャッ」という音が鳴る。妙に生温かく風邪の時の人肌ぐらいはある。それが撫でてくる。かなりの速度を出して飛んでいるはずなのに的確に。
「...厄介だな、目的地が見えにくくなってきた」
白いウネウネに周囲を囲まれることで、視認しにくくなり、方向感覚まで鈍らされる。まるで熱帯雨林の中に迷い込んだように。徐々に上下の感覚すら奪われていく。
「ウッ、マズイな、思ったより活性化が早い...」
「なんか、えずいてないですか!?大丈夫!?」
「だ、大丈夫です、むしろプラネさんの方は?」
「酔い止めで、大丈夫!」
「なんで効いてるんですか、ちゃんと...じゃあ、加速しますよッ!」
移動すればするほど、加速するほど、境の力場が目まぐるしく変わる。
識における活動態に移行する、活性化というのは、身体の構造そのものを組み立て直すと言ってもいいのだから、そうなのだが、これはあまりにも...
「いや、流石におかしい...こんなスピードで境を書き換えてたら、識でも霧散するはずなのに...」
「御環くん?どうしました?」
「いや、なんというか、識が必死すぎるというか、そもそも的確にこちらを狙いすぎているというか...!?」
そう、元々、御環は式者には珍しく隠密が得意な方であった。その御環の位置を、この識は確実に把握して狙ってきている。
『おや?ようやくなにか気がついたかな?』
「穴冠があまり加速、というより進めないのもそういう事かッ...」
「え、え?何?」
「プラネさんが重いのかッ!」
『プラネちゃんが重いのだ!』
「...え?いや、体重の話、私も振りましたけど、デリカシーどうしました?」
呆れて、プラネは閉じていた眼を開いてしまっていた。




