↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
OUT of REDs. 〜自我を撫でる現代怪異譚〜  作者: 痣矢
光がなければ影はできない。
3/26

光がなければ影はできない③

「目成《メナシ》、穴冠《アナカンムリ》の準備を。フルバージョンで行く」


「了解」



指示された烏の式紙《シキガミ》、目成《メナシ》は少し高めの位置で空中停止する。少し羽音が騒がしい。


高めの位置を取った為、影は少し大きくなる。その影の輪郭を元に御環《ミタマ》が再び、血を糸のようにした赤糸《セキシ》で式を織る。慣れた手つきで、数秒もせずにこの作業を終わらせる。



「よし、"影送《カゲオクリ》、間飛《マトビ》"ッ!」



そう唱えた瞬間、烏の式紙《シキガミ》であった目成《メナシ》が、鳶《トンビ》のような輪郭へと変化する。サイズも少し大きくなった。羽音はもうしない。



「血?烏さんもなんか変わってる...」



困惑しているプラネを他所に



「よし、次。"影送《カゲオクリ》、脂売《アブラウリ》"ッ!」



今度は蛙の影絵の輪郭に、赤糸を使って先程よりも複雑な式を織り込む。すると、少し大きめの蛙が御環《ミタマ》の影から飛び出す。蛙も鳶もインクで描いたような輪郭だ。



「ちょっと、アレですね!」


『ナイス感想』


「...間飛《マトビ》、脂売《アブラウリ》、頼む」



そう言われると、蛙の式紙《シキガミ》の脂売《アブラウリ》が高くジャンプし、それを間飛《マトビ》が頭でキャッチする。ちょっと冠のように。そして、また少し高い位置で空中停止する。

その少し大きくなった影に数滴分の赤糸を注げば、



「"影送《カゲオクリ》、穴冠《アナカンムリ》"ッ!」



間飛《マトビ》と脂売《アブラウリ》の輪郭が融合し、巨大な鷹の式紙《シキガミ》、穴冠《アナカンムリ》になる。人も掴め、運べるサイズ感だ。てか、人よりデカい。



「結構、手間暇かかるんですね!」


『はは、そうだね。鳶が油揚げを攫って、鷹を産むってね』


「サイズ的には、鷲《ワシ》さんじゃないですか?」


『痛いところつくね、プラネちゃん。我々はユーモアを優先しているからね。犠牲も必要さ』


「...はぁ、フルバージョンは手順がいるんですよ。いつもはもっと早いです。とっとと逃げますよ」



羽音も立てずに着地する穴冠《アナカンムリ》。背中に乗れと言いたげに。そこに乗ろうとする御環《ミタマ》。



「え?背中に乗れるんですか!?」


「乗るのは、僕です。操作できるのは僕なので。閃光?さん、は脚で掴みます」


『文字通り鷲掴みになるよ』


「WoW!?」


「あと、穴冠《アナカンムリ》に触れてください。登録します」


「と、登録ですか?」



穴冠《アナカンムリ》に近づくプラネ。


イカつい。よく見ると、カンムリワシじゃないか?コレ?という疑念が張り付く。



「し、失礼しますぅ〜?」



どこを触ればいいのか分からなかったので、そっと穴冠《アナカンムリ》の翼の羽毛に触れる。フワフワの羽毛という幻想を打ち砕くほど硬く、瓦と言った方が近い。



「あ、これなんか脂っぽいというか?」


「フルバージョンですから。脂売《アブラウリ》の脂ですね。識《ゴースト》の侵食を抑える効果があるので、塗っておいてください」


「結構、ヌチョヌチョしてますね...」


『ハハハ、プラネちゃん、眉か眉間に塗っておきな。効果は保証するよ』


「ナルホド?」



少し手で脂をとり、違和感のあった眉間に塗る。



「なんか、眼が軽くなったかも...ん?別の違和感というかなんというか」


『ハハ!自我の輪郭に張り付かれるヌメヌメが味わえるよ』


「新感覚!!」


『君、すごいね』




そんなプラネには目もくれず、赤糸で手綱を作り穴冠《アナカンムリ》に括る御環《ミタマ》。そして、穴冠《アナカンムリ》の背に跨る。



「早く行きましょう。八方塞《ハッポウフサギ》を解除したので、境《サカイ》に識《ゴースト》からの侵食が始まってます」


「あ、うん、行くんですか?」


『御環《ミタマ》、少しはプラネちゃんの方を見て喋れば??』


「あぁ、もう!行きますよ!」



穴冠《アナカンムリ》が翼を広げる。ヒト2人分以上はある大きさだ。翼の内側には、血で書かれたような謎の模様がいくつもあり、それが脈打つように薄く光った瞬間に穴冠《アナカンムリ》が浮いた。

そして、音もなく羽ばたくことで空中停止する。



「本当に鷲掴みされるんですか?私?」


「はい」


『御環《ミタマ》、今のうちに酔い止め渡しておいた方がいいんじゃね?』


「アレ、効くんですか?」


『ないよりかマシよ』


「はぁ、」



そう言って、渋々懐から即効性の酔い止めを出す。



「渡してきてください」


『いや、自分で渡せよ』


「手綱握ってるんで」


『陰キャがよぉ。この式具にそこまでの操作性ねぇよ』


「早くしないと侵食が進みます」


『どこで教育間違えたかなぁ?』



どうにか鳩の人形の短い嘴で酔い止めを咥え、プラネの元へ運んできた。そしてそのまま渡す。



「酔い止め、ですか?」


『飲んでおきなさいな。境《サカイ》酔いに効くよ』


「私、あんまり酔わないタイプですよ?」


「...飲んでた方がいいですよ、途中で気絶すると思いますけど」



目を合わせないが、御環《ミタマ》が押してきたので飲むことにする。プラネは水なしでも難なく飲めた。



『はは!御環《ミタマ》より器用だね!』


「んー、ん?なんか、ヌチョヌチョが弱くなったかも!」


『マジかよ』


「は?」



あまりの呆気なさに、しばし言葉を失った御環《ミタマ》と鳩は、顔を見合わせる。



「彼女、本当に覚醒前の一般人なんですか?赤師《セキシ》ではないにしても、式者《シキシャ》では?」


『いや、一般人だったよ、うん。転望《テンボウ》からの報告を受けた段階では』


「にしては、」


『いや、うん、"式《カルマ》の解像度が高すぎる"、訓練された訳でもないのに。いやまぁ、潮力《チョウリョク》の操作はできてないから式《カルマ》の解像度というより、"自我の輪郭"と言った方が正確なんだけど』


「...例の仮説通り、アイドルだからですか?」


『かもなぁ。私も現に見るまでは仮説というより、ジョークのレベルだったんだけどね。"アイドルは自我の輪郭がはっきりしているかも"ってのは』


「いや、だからって。アレ、織雛《オリヒナ》さんレベルの輪郭じゃないですか?」


『いや、私も式具《シキグ》越しだから正確には言えないんだけど、織雛《オリヒナ》と同じく800年とか生きてるレベルだよな』


(2人とも、人見知りなんだろうなぁ)



置いてけぼりにされていたプラネはそう思っていた。



「違う違う、早く行きますよ。侵食進んでるんですから」



そう言って急かす御環《ミタマ》。

少し顔色が悪い。失血だけではないように思えたプラネは大人しく応じた。



「よし、穴冠《アナカンムリ》、閃光さんを掴め。千切るなよ(小声)」


「ちょっとストップ!」


「え?」


「鷲掴みだったら私、会話出来ないですよ?」


「...それ、問題ですか?」

『あーそれは問題だね』


「『え?』」





暫し沈黙。御環《ミタマ》と鳩が顔を見合わせる。



『いや、問題だろ』


「別に会話できなくてもいいじゃないですか」


『陰キャがよぉ。保護対象《プラネ》ちゃんの状態を確認できないだろ』


「あ、そっか」


『頼むぜ、もぅ...』



こんなやり取りをしていたが、少し御環《ミタマ》の指が震えている。そろそろ限界が来ているようだ。



「え?じゃあどうするんですか?」



一旦、穴冠《アナカンムリ》を着地させる御環《ミタマ》。



『もう、御環《ミタマ》の後ろに乗ってもらうしかなくない?』


「いいですよー」

「イヤです」


『いや、時間ないって言ったの君だろ。駄々こねるなよ』


「いや、無理です。意味わかんないです。どうやって後ろに乗るんですか?」


『いや、そのままだろ』


「どうやってバランス取るんですか?スペースもそんなにないですよ」


「後ろから抱きつく形でいいんじゃないですか?私そういうの気にしませんよ?」


「...もっと無理です。ムリ。僕が無理」


『はぁあ。これだから影の落とし児《ゴ》は』


「綺麗好きだったり?」


「違います。潔癖じゃないです」



初めて、ちゃんと目が合う御環《ミタマ》とプラネ。



『同じようなもんだろ』


「違います!他人《ヒト》に触れられるのが無理なだけです!」


『同じだろ』


「アンタがいちばん事情わかってんだろぉ!?」



鳩の人形を掴んで地面に投げ飛ばす御環《ミタマ》。鳩は接地する寸前に羽ばたいて回避する。



『おいコレ、転望《テンボウ》に借りてんだぞ。また小言言われるだろ』


「だったら、もっと良識持ってくださいよ!」


「あの、早く動いた方がいいんじゃないですか?御環《ミタマ》くん、キツそうですし」



確かに御環《ミタマ》は、冷や汗をかいているし、手の震えも少しずつだが大きくなってきてる。血が消耗している以前に何かを削られているような、そんなことまで思わせる顔色になっている。



「わかりましたよ!乗ってください!」



もうどうにでもなれ、と言わんばかりに穴冠《アナカンムリ》に指示を出し、背を向けさせる御環《ミタマ》。



「じゃあ、失礼しま〜す」



プラネが触れた瞬間、ビクンッと御環《ミタマ》が震える。輪郭がブレたようにも見えるほどに。



「え!?大丈夫ですか!?」


「だ、大丈夫です...」


『おい待て、境《サカイ》酔いしてないか?』


「そ、そんなわけないでしょ、、、行きますよ」


(そんな、掴まれただけで境《サカイ》酔いするわけ...)



穴冠《アナカンムリ》がようやく羽ばたく。バランスが崩れそうになり、御環《ミタマ》によりしがみつくプラネ。またビクついた御環《ミタマ》だったが、先程より幾分かマシになった模様。



「しっかり掴まっててください...」


「よ、よろしくお願いします...本当に大丈夫?」


『穴冠《アナカンムリ》の式《シキ》がブレたら一巻の終わりだぞ?頼むよ、本当に』


「大丈夫です...」


こうしてようやく、フライトが始まった。

改めて、目的地は識《ゴースト》の境《サカイ》の出入口、"窓"である。




"ービィキン"ッーー"


2人と鳩が飛び立ったあと、展開した御環《ミタマ》の境《サカイ》は識《ゴースト》の外圧によって飲み込まれ始める。肉が脈打ち、根のように伸び、空間を敷き詰めて行く。そして、肉によって張り巡らされ、安定すると美術館のタイルのような質感になった。



識《ゴースト》が"目を覚ました"合図である。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。