光がなければ影はできない②
「えぇー!鳩さんにも喋る子いるんですか!?」
『ハッハッハ、鳩は喋れないよ、お嬢さん』
「でも、喋ってる!!」
『私が特別な鳩さんだからだよ。コケ〜』
「でもなんか、違和感が...」
興味津々にポーズを決める鳩を見るアイドル。色んな角度から覗き込もうとしている。さっきまで倒れていたはずなのだが、こうも元気なのか。
というか、汚れて所々崩れていたはずの衣装がピカピカの新品に戻っている。髪ツヤや肌ツヤも明らかに、気絶していた時よりも増している。というより、元に戻っていると言うべきか?
「あれ、なんかよく見たら、木?それとも紙?で出来た人形じゃないですか?コレ?」
『嗚呼、まって、鳩さんだよ。急に冷めないで』
「え?ってことはドローンとかそういう事?」
本来、この式具、一般人には鳩にしか見えないはずである。しかし、彼女は何かに気がついたようだ。
彼女が近づいて、触って確かめようとしたその時、
『おぉっといけない。お嬢さん、アイドルの"閃光 プラネ"さんでしょう?』
「え!私、鳩さんにも知られてるぐらい有名になってるんですか!?」
『クルッポォ〜ホーホーホーホケキョッ!』
「すごぉい!!」
「...鳩の人形ですよソレ」
「やっぱりそうですよね!!」
プラネにバシッと掴まれる鳩。
『そんなことないチュン"!』
「やかましいですね!この鳩さん!!」
「はぁ、いい加減にしてください錦さん」
『御環、よく突っ込んでくれた。そろそろ鳴き声のボキャブラリーが無くなってきたところだったよ』
「結構前から尽きてましたよ、ボキャブラリー...はぁ」
淵不知 御環は、その場でしゃがんで、顔を埋めた。もう気が抜けた。完全に展開済みだった赤刀も仕舞った。というより、気が抜けて式が維持できなかったので、赤刀の状態から次第に解けていき、御環の手首に赤い糸がどんどん戻っていく。輸血されるように。
プラネのほうは、鳩を振って音が出ないか試している。
「ん〜、この鳩さんを操ってるのは錦さんって人なんですか〜?」
『あの、あんまり揺らさないでね。画面酔いするからね』
「...閃光?さん、アナタはなんでこんな空間の中でも平気なんですか?」
思い出したかのように、鳩を放り投げる。完全にもう動物扱いではない。鳩は慌てて着地の姿勢をとる。
「あ!そういえば、なんか見た事ない場所にいます!ココドコ!?美術館!?」
キョロキョロとあたりを見渡すプラネ。
『そりゃ、御環が境を作ったからギャップが減ったんよ。だから起きることができた。要は、君が起こしたようなものだね御環』
「そうなんですか!?ありがとうございます!もう、本当によくわかってなくて!」
『正直、私も無事ではあるだろうと見越してたけど、ここまで元気とは思ってなかったよ。どうなってんのプラネちゃん』
「本当になんでそんなに元気なん...見越してた?錦さんどういうことです?」
ちょうど行動を終え戻ってきた蜘蛛の式紙である八方塞の一体に、御環は改めて指示を出す。赤い糸を使って、道案内兼監視用の鳩の人形を手元に寄せる。プラネに聞こえない位置まで引き摺って。
「えっと、仲良しさんですね?」
「...どういうことですか、錦さん」
『いや、私が偵察を頼んだのは我が友人"転望"だからね。これぐらいの情報は事前に貰うし、推察できるよ』
「いや、その情報が共有されてないって話なんですけど。全然、討伐任務どころじゃなくなってるんですけど」
『まぁ、"任務"ってしか言ってなかったからね。識の討伐とも、民間人の抹殺とも、野良の式者に覚醒しかけてる被害者の回収とも、なんとも言わなかったからね、私は』
「...今回の任務はスカウトってことですか?」
『その現場判断までが任務だね。殺すも"活かす"も君次第ってことだ。クルッポォ〜』
「識が見える一般人は、最も狙われるんですよね?」
『そうだね。識からしたらスーパーフードだからね』
「ってことは、」
『何も知らない一般人として返すことはできないってこっちゃな』
「じゃあ、どうするんですか」
『君が面倒見ればいいんじゃない?』
「民間の人と喋ったことなんてないですよ!いつも赫師の奇人変人にしか会ってませんから!」
『世界が狭いねぇ、"淵不知"は』
「錦さんも赤所に引きこもってるでしょ!?」
「鳩さんも御環くんも、インドア派なんですか?」
鬼の形相で鳩を鷲掴みにしている御環と、柔軟な首の可動域で目を合わせることを避ける鳩の会話に、プラネが割り込んできた。
『コイツ、2年分の記憶しかないし、変な施設にいたから常識ないんだワン』
「錦さんに常識どうこうの話はされたくないですよ!アナタは良識がないでしょうが!!」
『揺らさないで欲しいワン!画面酔いするニャー!』
「アナタはこの程度でどうこうならないでしょ!?てかもう鳥のボキャブラリーがないからって他の動物に逃げるな!!」
「そういえば、御環くん?一度も私と目を合わせてくれませんよね?」
「スィッ...」
御環が今日一番ゾッとした言葉だった。歯と歯の間から息が抜けるだけで、上手く喋れない。そして鳩と目を合わせて動けない。
『あー人見知り出ちゃったねぇ。これだから影の落とし児はぁ』
「影の落とし児?」
『陰キャってことだピョン』
「...ちょっと、黙っててください」
鳩とプラネが顔を見合わせる。
一呼吸沈黙が場を支配すると、偵察に出していた烏の式紙、目成が帰ってきた。
「只今、戻りました」
「お疲れ様」
「烏!烏が喋ってます!!」
『あー、うん、烏ぐらいなら喋るよ。うん』
プラネに鷲掴みされて、ブンブンされる鳩。
そろそろ説明するのがダルくなってきたらしい。
『それで、御環。どうするか決めた?』
そう聞かれた御環の元に、残りの蜘蛛の式紙の八方塞も戻ってきた。
「ええ、決めました。八方塞、"戻れ"」
その指示を聞いた途端に、御環の影の輪郭に沿い八方塞たちが並ぶ。位置につき次第、八方塞の身体が赤い糸となりながら解け、影に解けていく。その度に御環の血色が良くなっていく。
「え、血の匂い、?」
『それで、どうするのかね?』
御環が一息入れる。
「速攻で"逃げます"」
『いい"応え"だ』
鳩越しにも錦のニヤついた顔がよく浮かぶ。




