燻る火の子⑤
左腕の肘から先を持っていかれた直鉢は、右手で赤糸を手繰っていた。
「ッ!?」
その赤糸から、まるで自我を解されるような、ザラっとした感覚を覚えた瞬間、
ブチッ!!
赤糸をちぎった。
「針さん!?今度は何ですか!?」
「釣りが失敗した...ただ、識は見えてきたぞ」
直鉢はちぎれた赤糸を飛龍に見せる。その赤糸は、失った左腕から伸びていた。
「蠢蕾、識を織り込んで境で殻を作って卵?にしてやがるな、多分」
「だ、だから、複数体いるんですか?」
「いや、卵から産まれる方は識紙だろう。識じゃなくて、識紙だアレは。今、冷静になれば解像度が違う」
「識紙って、識の使う式紙ですよね?使う識は初めて見ました...」
「まぁ、沢山居たら困るからな。切れた左手からの感覚的に、卵は孵化したら周囲の質量や潮力を糧に成長するみたいだ。貪られる感覚がした」
「それじゃあ、肉体に撃たれたら...」
「まぁ、通常の侵食みたいには行かないだろうな。腕を切る判断が早くて助かった」
「自切だったんですか、アレ?」
「あ?本当に持っていかれたと思ってたのか?識と戦うなら身につけとけ、損切りのタイミングは。まぁ、欲張って釣りをするつもりだったが、あまりに侵食の勢いが激しかったから、それも止めだ」
直鉢がため息混じりに深呼吸をする。
「最初に飛龍に突撃したのが、本体の蠢蕾。即座にコンクリートに潜って姿を隠し、俺たちの前に識紙を配置。そこに意識を持っていかせる。そして、俺が薄くなったところをコンクリートに隠れていた本体が卵を射出、って感じだな。状況からの推察だが」
「これまで、何度討伐しても現れているのも識紙だったってことですかね?」
「いや、それはない。ある程度の赤師なら識か識紙か判断がつく。起点を崩した時の手応えも違うしな」
「そうなんですか?」
「...あー、お前はいつも様子見とかしないで、雑に吹き飛ばしてるから手応えとか分からないのか」
「え?あぁ、そういうことですか?」
直鉢が再びため息をつく。
「蠢蕾の侵食より飛龍の調子のせいで、式がブレそうだよ」
「アハハ、すみません...えっと、まだ仕掛けがある、それだけの事ができる識だから気を抜くなってことですよね?」
「そうだな。先に音をあげるなよ、飛龍?しっかり気張れ。緩めたら、そこから狙われる」
(正直、もう引きたいところだが、簡単に帰してくれそうもないしな。蠢蕾も消耗した分は、喰いたいだろうし)
直鉢は、飛龍と会話している最中も暗渠の床に手をつけて音を聞いていた。まだ、本体含め複数は居そうだ。
「飛龍、ここから先は完全にお前頼りになる。登竜門を突破していない俺は、正直これ以上血液を消費するのはマズい。限界は2発、無理して3発撃てば失血だ。片腕で撃てるかは、やったことないから分からんがな?」
「はいッ」
冗談交じりに状況を整理する直鉢に、本気で応える飛龍。
「まだ識紙も複数いるだろう。識紙の相手は任せた。最後の一撃はどうにか、俺がやる。要は、あとはお前次第で俺の今後が決まるってことだ。頼んだぞ」
「僕はまだ余裕あります。大丈夫です」
飛龍はサムズアップする。
「ハハ。もう、お前一人で全部やって欲しいぐらいだよ」
そのサムズアップと共に再び出力を上げる飛龍を前にして、直鉢は冗談4割、本音6割で軽口を叩いた。
(飛龍、自分じゃなくて他人の命ってプレッシャーかかると式が鋭くなるのどうなってんだ。錦に『気色が悪い』と言われるのも無理ないな...)
「さて、コッチにお喋りしてる時間をくれるってことは、そろそろ蠢蕾さんも準備が整った頃かな?」
***
広いのが狭くなっている間に、
配置は終えた。
逆に狭いのが広く、違う。鋭くなっている。
ただ、根元は柔いまま。
それにしても、乾く。凄く、乾く。
やけに乾く。焼けるように渇く。
乾くカワく渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く、
抗い難いこの識ハ、、、
『はラが、へっタ...』




