燻る火の子④
むせるような臭いと、蒸されるような暑さ、そして蟲の識。
蠢蕾自体は境を展開していないが、この暗渠自体が巣のようなものか。
「思ったより人型ですね、腕は2本で、脚も2本だし。報告書では腕は4本って書いてませんでした?」
「アレのどこがヒト型だよ...」
飛龍の言ったように、腕も脚も2本に見える。その2本の脚で直立して、何故か両手を合わせて合掌している。妙に人っぽい。大きさは80センチ程度か?暗渠の水路に脚をつけているので、正確なサイズ感が掴めない。
ただ、直鉢の言うようにシルエットとしてはかなり怪しい。アタマから、クビ、肩にかけてのクビレがないのだ。肩に関してはあるのか怪しいほど、滑らかなシルエットになっている。羽がマントのように背中に張り付いている。
悪趣味にも瞼と、唇があり、今はそれらを閉じている。
「とりあえず、殴りますか?起点はアタマにありそうですし?」
「そうだな。余裕があるお前がやってみてくれ」
飛龍が、拳を放つ為に構えを変える。軽く左でジャブを撃つつもりだった。
***
広い方が、薄まった
***
蠢蕾が瞼と唇を開き、舌を引き出した。
『いタダき、マス』
「ッ!?」
「ブレるな!撃て!」
「はいッ!!」
飛龍のジャブは、気団を一気に受けるようなものである。多少のことは問題ない。寧ろ、様子を見るのであればそちらの方がいい。
ブォオンッ!!
飛龍がジャブを放つ。すると、
「くっ、コッチが本命か...」
「針さん!?」
直鉢の左腕が、肘から先がない。ないと言うより、持っていかれた。
「最初に突撃したヤツが本体で、俺たちの前に現れた方が識紙と言ったところか?お前のジャブに合わせて、俺の式がブレたから、そこを狙ってきやがった...」
飛龍のジャブで様子を見るつもりだったのが災いした。そこに意識が行ったが故に、後方への注意が逸れていた。
「針さん!大丈夫ですか!?」
「安心しろ。お前より自我は硬い。もう止血も終えた...」
この程度では、直鉢の式はブレない。赤糸の式の方も問題なく、傷口の縫合を終えた。侵食も抑えてある。
「あの野郎、また姿を隠しやがった...」
「針さん...本当に大丈夫ですか?」
「識に集中しろ。腕程度なら、氷内さんがどうにかしてくれる。最悪、赤師は腕が無くなってもやってけるしな...」
そうは言っているが、索敵と侵食を抑えることを同時にやるのは流石に気が滅入る。直鉢は、より飛龍に近づいた。
「俺の索敵はもう止めだ。飛龍、出力上げられるか?」
「まだまだ、余裕です!」
「頼むぞ...アイツ、コレで終わらせるつもりはないだろうからな」
直鉢は索敵は諦め、籠城戦に切り替えた。
***
広い方の腕、美味い。ただ、喰うのに時間がかかる。硬い。
狭いのが、柔そうだ...




