燻る火の子②
「蟲ですか...結構噂にはなっていましたよね。もう何匹目かな?」
「今月に入ってからは、3匹目ですかナッ、ハハ!」
歩きながら喋る転望と話している赤師の青年。
青年と言うには妙に色っぽい、というか女性的な印象を覚える骨格である。
「夏だからですかね...」
「かもです、ナ」
「...赫師だけで6人は死んだんだろ?」
もうひとり居た、筋骨隆々の赤師が転望に尋ねる。
こちらは、筋肉と関節の織り成すクビレが強烈。まるで節足動物を思わせるほど。
「正確には、4人喰われて、2人は遺体の一部を回収できましたネ」
「同じ識なのかは、分からんが。このままだと、赫師側が切れるな」
「そうならないように、お二人に直接会いに来て頼んでるんですよ、飛龍くん、直鉢さん」
「フッ、こんなのをツーマンセルとは言え登竜門も突破していない赤師にさせるとはな」
節足動物のような赤師は、直鉢 針。登竜門を突破していない赤師としては、最年長である。
「直鉢さんは長いんだからぁ〜、人手不足なのは分かってるでしょお?網駄さんや、織雛さんを出したら、後処理で他部門が泣きますし?」
「まぁ、アイツらはアイツらで災害みたいなもんだからな」
嫌味に対してニヤけて返す転望。
そして、今回の資料を渡す。
「うーん、やっぱりわかってること少ないですねぇ。どうしても」
「事前情報を知れるってだけでもマシだからな。発生地点がわかるだけ有難いもんだ」
「年長のフォローありがとうございまス!直鉢さん。ま、情報としてはいつも通り、識の詳細はわかっていません」
「にしても、今回被害が多くねぇか?赫師側の」
ワザと直鉢は転望につけ込んだ。
「...それぐらい、予想外の識なんですよ、今回のは。6人中4人は、別の任務で現れた識に殺られました」
「予想外の事故、だったと...式者は不意打ちに弱いからな。今回は事前に場所が特定できただけで有難い、と。てか、本当に同一の識なのか?」
「えぇ、痕跡を見る限り、識や識のような同種の識が何度も発生しているのではない。何度討伐しても、同一の識が発生しているようですネ。そして発生する度に強くなっていますナ」
色っぽいほうの青年が手を挙げ質問する。
「...ちゃんと識の起点は潰してるんですか?窓を毎回潰しているのではなく?」
「一応、対処した赤師からはそういうように報告を受けていますナ。境を展開するタイプではなさそうらしいです。私は実際には戦ってないので、分かりませんが」
直鉢は顎に手を当てる。
「ナルホド、な。拡げた境に引きこもるタイプではないと...」
「それなら、識の身体に起点があるハズですからね。そこを叩けば終わると思うんですけど」
「識の身体は、境だからな。そこを叩けば、なんだが。ま、コッチには飛龍がいる。何とかやってみるか」
「えぇ、僕ですか?」
妙に色っぽい青年は川登 飛龍。ひとつに纏めた白髪に赤い瞳と、妙に色素のない外見をしている。右手の甲に"龍"、左手の甲に"飛"と赤糸で刻まれている。
飛龍は登竜門は突破していないが、潮力の瞬間最大出力だけは、突破した赤師を超える程である。
「その潮力の出力でよく言う」
「僕なんて、芥先生からも、錦さんからも三流未満って言われてますから。僕は、針さんが後ろで構えてくれてるから、どうにかなってるんですよ。アハハ」
「まあ、錦はともかく、木漏さんは厳しいからな。そこら辺」
カンッ!
転望がハイヒールを鳴らす。
「さ、着きました。この先で、識が待っています。ここから先は私は行けませんので。くれぐれも逃げ時を、逃がさぬように」
そう言って、蝙蝠傘を開く。途端にその輪郭を追えなくなる。
「言うだけ言って、もう行きやがったな」
「アハハ。サッサと、やってしまいましょう!抜錨ッ!」
そう言った途端に、飛龍を取り囲むように潮力が流れる。それはまるで
「本当に、お前は台風と対峙してるみたいだな。抜錨ッ!」
直鉢の体表に走る血管が赤く光る。縞模様のように。
今回の討伐目標は、"蠢蕾の識"。
蠢く厄災の蟲。
発生件数、不明。
被害人数、不明。
討伐しても、何度でも湧いて出てくる、識であり、赫師にも被害が出ている。
***
サカッサカサカッ
瞼を持ち上げる。唇を引く。
すると、眼窩に敷き詰められた複眼と、二重の顎が顕になる。
触角が痙攣する。臭う。識が揺れた。
より、深く嗅ぐ為に、舌を伸ばす。肉を解す構造になった、舌。その舌を震わせる。
興奮で、羽が浮つく。溜まった粘液が滴る。
ただ、この乾きは、渇きは、、、
カァァァ...
『は、ハラが、へッた...』
蠢蕾の識は、活動態に移相した。




