火葬
赤所、前頭前野にて。
錦は久々に、煙草を右手に取っていた。
「はぁ」
本当は一秒でもデバッグ作業を止めてはいけないはずだが、座布団に深く沈み、胎動する天井を見る。
左手に持ったオイルライターの蓋を開けたり、閉めたりしている。実に不服そうだ。
「致し方なし、か」
煙草を咥え、火をつけようとするが、手が止まる。
唇で煙草を転がす。そしてまた、天井を見上げる。
「チッ」
視線を下に向けて、煙草にライターを近づける。そして、ライターのフリントホイールを回す。このホイール、シナプスのようにも見える独特な形状をしている。
火花を散らし、炎が上がる。一瞬誰かの顔のようにも見えた。
「...これだから嫌なんだよ」
錦の口から零れる煙と、煙草から溢れる煙が合わさり、だんだん輪郭ができる。
ヒトの輪郭だ。やがて、
『ヤッホー☆御旗ちゃん!逢いたかったよぉ〜』
姫巫女の姿になった。
「死人は死人らしく、黙ってろ。てか、姫巫女じゃねぇだろ、"ダルマ"。ヒト様の記憶から勝手に輪郭を作りやがって」
『冷たいなぁ〜。御旗ちゃんの最近の好みに合わせてギャルっぽくしただけだよ?』
「俺の好みじゃねぇよ、別に。自我の式も無いくせによく喋る」
『御旗ちゃんの記憶の輪郭だからね♪そりゃクッキリよ☆』
「姫巫女は、そんな喋り方じゃねぇよ。確か、な」
そう言いながら、氷内と転望から上がってきた資料をライターで炙るように燃やす。
「またまたぁ〜、本当は"私"に逢いたかったくせに〜☆」
「逢いたいわけねぇだろ。顔も見たくないし、声も聞きたくねぇ。若作りキツイんだよ、"ダルマ"は」
資料を燃やしていくと、その煙がより姫巫女の輪郭をクッキリとさせる。
「最近、明らかに速くなっている気がする。それを確かめたいだけだ。"ダルマ"の姿を見るつもりはない」
『もっとお喋りしようよぉ〜☆最近、楽しかったことない?気になる子とか?』
「スゥー」
一気に、錦が息を吸う。
煙草が走るように燃える。
『あぁ!時間無くなっちゃう!』
「死人と会話できるわけないだろ。散れ」
そう言って、姫巫女に向かって息を吹きかける。
姫巫女の輪郭はは霧散した。
「本当、氷内に渡した時にぶっ壊してくれればよかったものを」
ライターのタンクを確認する。
燃料は充分にある。
そして、そのオイルの中には小さな脳が浸かっていた。形状からしてヒトの物だ。
「誰なんだ、お前は」
錦は、煙草とライターを座布団の下に戻して、赤所のデバッグ作業に移った。




