灯台もと暮らし⑪
「え!あの時の識、倒した訳じゃないんですか!?」
「そうですね。識の起点は潰せてません」
molが一通り終わったので、識についての話を御環は始めていた。
ちなみに、御環は自分とプラネの手元を見ることで、プラネと目を合わせることを回避していた。
「一口に識といっても色んなタイプがいますが、識は境に引きこもるタイプです」
「境に、ですか?」
「そうですね。境は識にとって、縄張りでもあり、その身体でもあります」
御環は、蜘蛛の式紙である八方塞に赤糸を使って境を張らせていた。実演してみせるために。
木漏邸はこういう時の為に、庭が広い。
「識の境は特殊です。境の内側はその主が過ごしやすい環境になるのですが、識は人間とだいぶ違うので。内部の空間体積や重力の方向すら違いますからね」
「だから、ぐねんってなるんですね!エレベーターに引っ張られるみたいな!あれ面白いですよね!!」
「...面白いですか?アレ?」
こういう目線を送る時は、プラネの目を見れる御環なのであった。
「いいや。とりあえず、識にとっては、自分の境は自分を安定させる為にも、狩場にもなる訳です。では、どうやって外の物質や人を取り込むかと言うと、それは"窓"です」
「窓って、覗き窓とかの?」
「そうですね。そのイメージです」
「扉じゃなくて?」
「錦さんが、『いや、"窓"でしょ』ってことで窓が定着してます」
「なるほど!そっちの方がオバケっぽいですからね!」
「???」
御環は、それで納得するのか?と思っていた。
「その"窓"の形状が基本的に人を誘き寄せる為に、興味をそそるものになっています。そして、見える人を誘い込む」
「あ!非常ベルのボタン!」
「そうですね。今回の識は窓の形を非常ベルのボタンにして、誘き寄せていました。あのボタンが見えるということは、識と近いということなので、取り込みやすいんですよね。なので、そういう人を誘い込めるようになってます」
「んー!悔しいです!」
「まぁ、どうしても気を取られる構造なので」
「私、押さなかったのに!警報が鳴ったら大変だから!ベルをつついただけなんですよ!?」
「それでも、呑み込まれるんですね...」
(そのパターンはじめて聞いたわ)
いちいち指摘するのも疲れてきた。
いくら内心に留めていても。
「僕たちを追いかけてた最後の姿は、その窓を戦闘用に変質させたものです。元の識の識が色濃く反映されているので、"窓"と表現されたりしますが」
「あ!じゃあ、あの時倒したのはあくまでも窓ってことですね!」
「そうです。実際、手応えも弱かったです」
「手応えとかもあるんですね!」
「はい。識の識を乱して崩すイメージなので。その時にそれなりの抵抗を受けるんですよ」
「押し相撲みたいですね!」
「そうですかね?」
もう言ってしまった。
「では、境に入ってみてください。少し境酔いを体験してみましょう」
「はーい!」
御環が八方塞を使って張った境に、プラネが踏み込む。
その瞬間、
「ぅお、えぇ...」
御環がえずいた。
「ば、抜錨してないのに...こんなに引っ張られるのか...」
「み、御環くん大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫です。あの、触れたらもっと酷くなるので。一旦、境から出て貰ってもいいですか?」
「あ、ごめんなさい」
「いや、プラネさんは、悪くないので...」
御環は顔を叩く。
「このように、境に誘い込むのは、リスクもあるんですよ。自分の縄張りに追い込むのと同時に」
「腹の中ってことは、逆に言えば内側に入れたって意味ですからね!」
「そうですね...故に、逆に境を展開せずに閉じる識も居ます。この手の識は基本的に硬く、フィジカルが強いパターンが多いですね」
「御環くんは、それを身をもって表現してくれたんですね!」
「そ、そうですね...」
本心としては、プラネに少し、軽く、境酔いを体験してもらう予定だったのだが。
「そういう識は基本的に、その身体が境です。さっきも言ったように、境の中に識の起点があるはずなので、そこを叩けば基本的に討伐できます」
「じゃあ、私たちが出会った識は、境にまた飛び込まないとってことですね!」
「はい、そのうち、多分錦さんに『自分のケツは自分で拭け』とか言われて、討伐任務を出されるはずなので。その時はそのように、やります」
と言ったあと、御環は縁側に崩れた。
「つ、疲れた...」




