灯台もと暮らし⑩
「さて、始めますか。練習」
そう言って、室内に入る御環。
「あれ?練習するんじゃないんですか?」
「いきなり室外でやるようなことはしませんよ。一応、木漏さんにプラネさん用の訓練プランを渡されているので、それをしましょう」
「木漏さん、居なくなる前提だったのか...」
「木漏さんは多忙ですし、想定外の事態に対応しないといけないこともあるので、いつでも離席できるようにはしてるんですよ」
「準備いいんですね!」
「大半の外赫師は討伐対象ですが、木漏さんが赫師から尊敬されているのはそこら辺ですね。」
「その赤師とか外赤師ってのは?式者と違うんですか?」
「式者の中でも、"赤糸が扱えて、錦 御旗の門下に居る式者"を赤師と呼んで、"赤糸は扱えるが、錦 御旗の門下に居ない式者"のことを外赤師といいます」
「ってことは、木漏さんは...」
「そうですね、錦さんの門下ではないです。所属的には。『あんなヤツの下に居れるか』と離反したのだとか」
「なのに私たちの面倒見てくれるんですか?」
「『錦のことは嫌いだが、後続は別』と言って後続の赫師の教育をしているんですよ。外部顧問みたいなものです」
「なんか結局、門下に」
プラネが口を滑らせる前に御環が止める。
「それ言ったら木漏さん不機嫌になるので本人の前で言わない方がいいですよ。まぁ、式者の中では不機嫌になっても会話してくれるし、会話できるので、いいんですが。木漏さん曰く『格好の問題だ』との事でした」
「拘りが強いんですね、式者の皆さんって」
「かなり、テンションに左右される人達ですから。さて、プラネさん。今回の課題はコレです」
道中そのような会話をしながら、今回の訓練課題が置かれた部屋に来た。
そして、プラネに出された物は...
「ふぉ、ほ、方程式の計算ドリル...?」
「はい、他にもありますよ。これらをひたすら解いてください。僕は弾車の練習をしておきます」
「へ?これ?」
「はい」
「なんか、滝にうたれるとかじゃなくて?」
「ソレはもっと後です。まずはコレから」
「え?ほんとうに?」
「はい、式を扱うにはある程度の脳の演算能力が必要なので。特に逆算は必要です。要は脳トレですね」
「ど、どのレベルまで?」
「最低でも二次方程式の文章題までは解けるように」
「みんなできるんですか?」
「まぁ、だいたい。織雛さんも『微分積分、良い気分〜♪』ってくちずさんでますよ」
「そ、そうなんだ...」
「では、頑張ってください」
プラネが計算ドリルを頑張っている中、障子を閉めて隣の部屋で弾車を練習する御環なのであった。
しかし、なんだかんだ言いつつ、
「そこは、4マスで整理すると楽です」
「イコール、というのは右も左も同じ大きさということなので、左にやったことは、右にもやってあげてください」
「どの数字がどの意味と繋がっているか、それを整理しながらやると進めやすいですよ」
「見るべきものは何か、逆に見なくていいものは何か。今必要なのは何か、それを得るにはどうすればいいか?というのを整理しながら解くのが方程式です」
と、ちょくちょく教えていると、
「そうです、割合も速度も同じことをやっています。"ひとつあたり、どれだけなのか?"です。これとこれが対応しているなら、同じことができる、言える。その関係性を把握するのが大切です」
「何と何なら、置き換えることができて、できないのか?関係性を把握できれば、それが分かります」
...結果的にプラネはmol計算までは行った。
「本当にmolまで行けたなんて...」
「え?行かないといけないんじゃないんですか?」
ヘトヘトのプラネ。
「いや、その、織雛さんのとか実は発破で...木漏さんからそうしろって言われてて」
「え!?織雛ちゃん、『微分積分、良い気分〜♪』って言ってなかったの!?」
「いや、それは言ってました。言ってただけです。語呂が良くて。直感派過ぎて計算苦手で」
「えぇ...」
「なんなら、網駄さんに至っては、字も書けませんよ、直感派過ぎて」
「変わった人が多いんですね...色んな彩があって楽しいです!」
それを楽しいって言える貴女も十二分にそうだけどな、
とは流石に言わなかった御環だった。顔には出てたが。




