灯台もと暮らし⑨
「ちょっと2人とも、その式具見せてくれ」
木漏は2人からそれぞれ式具を受け取った。
まず、光陰矢の如しを確かめる。
「うん、そうだな。やっぱり、氷内さんらしい式具だ。セーフティもある。一見、構造は複雑に見えるが、式自体はかなりシンプルだな」
数回、投げて手元に戻すのを繰り返す。流石に御環のような超絶技巧は出来ないので、単調なものだが、確実に。
そして、最後の一投で
バチンッ!!
電撃を放つ。確かめるように。
「潮力も、赤所から供給されているな...あくまでも、コチラからは血液だけ捧げればいいと...契約の要らない式具、と」
針の重心移動も確かめるように試す。
カチカチカチカチッと細かい音が場を包む。
「ありがとうな、御環。弾車を実戦で使うのは俺にはまだ無理だが、お前には錦との15年がある。お前なら使いこなせる筈だ。そして、電撃も使えるようになれ」
「は、はい!!」
ポン!と御環の手に返す。
そして、問題のプラネの方。
まずは一閃を見る。
「こっちはどちらかというと脳殺光線の式か...簡略化はされているが、レプリカとしては完璧だな。流石、氷内さんってとこか」
嫌な予感がしたので一旦、♡型のサングラスの絞りの方を見る。
「こっちが固定の式具か」
かけてみると、やはり氷内の色眼鏡に近い。光に干渉するのが得意な式具だ。向こうとは逆で、"目線を読ませない"効果が強いように思える。
更には、使用者が式や潮力の流れを読み易いような工夫がされている。使用者の目に映る式の起点となる箇所や潮力の方向が意識しやすい様にマーキングされている。あくまでも、"読み易い"程度の補助であって、"見易い"ではない。練習用に調整されているのが流石と言うべきか。
お陰で、自分の潮力のロスに気が付きやすく、意識しやすい。要は、"式をより定め易い"ということだ。
「なんで、痕跡からここまでの代物が作れるかね、氷内さんは」
絞りをかけながら、一閃のスイッチを押してみる。
ブゥゥウン
プラネとは違って、白銀に縁が緑色の光の刀身が発生する。木漏の髪に似た色だ。
ブゥンッ
もう一度スイッチを押して、刃を消す。
今度は絞りを外して、押してみる。
ビィィンンンンンン!!!
光の刀身ではなく、炎が出た。いや、それは正しい表現ではないのだが。バーナーやプラズマを利用した溶接機のように、一定の間合いを超えると潮力が拡散してしまっている。
木漏が何となく察して、誰もいない上方に向けていたので被害はなかった。間合いが狭かったのも良かった。
「......」
暫しの沈黙の後、木漏がもう一度スイッチを押す。
ビィイィイインンビュュウウンンッ!!
一度、バーナーの炎のように拡散したが、光の刀身へと収束していく。
「絞りなしで慣れてないやつが刀身を作るのはキツいか」
そう呟いて、御環の方を見る。
「...御環、カッコイイからってコレ使うなよ。コレに織り込まれている式、簡易的とは言え、嬢ちゃんの写しみたいなもんだ。一瞬で持ってかれるぞ。本当に、なんで実物じゃなくて、痕跡だけで...よくもまぁ、これ程のものを作れるな、氷内さんは」
「はい、触りません...」
木漏がかなり強めに言う。相当なようだ。木漏は(叛骨関係以外では)ポーカーフェイスが上手いので、どれほどかは不明だが、少なくとも木漏が顔色を変える程ではある。
さっきまで眼を輝かせていた御環も、完全に畏怖の表情に変わっている。
「これは、潮力操作に重きを置いたレプリカだな...赤所からの潮力補充はなさそうだ。その分、質量を捧げる必要はない。赤糸の扱いより、潮力の程度を掴めってことだな」
「ナルホド!?」
「じゃ、俺はこれで」
「もう行っちゃうんですか?」
プラネが呼び止めるが、
「嬢ちゃん、呼び止めないでくれ。君が呼び止めるとマズイ。非常にマズイ。アレが騒ぐ。御環、俺はアレを宥めてくるから。夕飯までは帰れない、と思う。昼は準備してある。じゃあ、頑張れ」
そう言い切る前に、木漏はどこかへ行ってしまった。




