灯台もと暮らし⑧
御環が転望から貰ったアタッシュケースを開けてみると、手紙と何かアイテムが入っていた。
手紙から何やらおどろおどろしい気配を感じ取ったので、そちらから開いてみる。
拝啓、淵不知くん。例の現場の後処理、私がやっておいたよ。なかなか良いものを見せてもらったので、これはそのお礼だ。
逆に、諜報部門の奴らはブチギレしてたけどね。私が宥めておいたよ。あ、コレ貸しね。
今度、脳殺光線を裸眼で見に行くよ。
君の主治医、氷内より。
「なんて書いてあったんだ?」
木漏が聞いてみる。
「...解析と鍛造以外の事務仕事をさせてしまったので、氷内さんが怒ってますね...」
「あぁ、それは氷内さんなら、まぁそう言うわな」
「そういえば、諜報部門で思い出したんですが、プラネさんって表向きどうなってます?」
「あ!活動休止になってましたね!私のアカウントで!」
プラネが端末を見せる。本人と事務所のアカウントから活動休止の旨の発信があったようだ。
「なんか、マネージャーさんとも連絡つかなくて」
「下手に連絡すると大変なことになるからな。諜報部門のメンバーがどうにか"入院と保護"ってかたちに落とし込んだみたいだ。その間は彼らが連絡を取る」
「有難いです〜。どう説明すればいいのか困っていたので!」
「...こちらとしても、この方針を受け入れてくれて助かってるよ。識は知られると面倒だからなぁ」
なんで、この状況を飲み込めているんだ?
という表情の木漏。
「でも、ライブが出来ないのは残念です...」
「ライブに関しては、錦さんの方からも『当分は禁止。絶対』と言われてましたね」
「アイツがそこまで言うってことは、それほどという事か...すげぇな、嬢ちゃん」
「はい!ズぅーーーキュ!あ、ダメだった!!」
プラネはピースをウィンクに合わせようとして止めた。
御環はだいぶ焦っていた。
「そういうのも含めてだな。修行は。まぁ、切り替えができるようになれば普通にファンサできるさ。それで、肝心のアタッシュケースの中身は?」
「あ、はい、見てみます」
大きくアタッシュケースを開き、カバーを外すと3種のアイテムが入っていた。
「サングラスと、何ですかコレ?このふたつがプラネさん用らしいです。で、僕のがコレか...」
プラネにサングラスと謎の短い棒状のアイテムを渡す。
そして、御環自身のアイテムも見る。
「これ!式具ですか!?」
「できれば見ただけでわかって欲しかったけどな。氷内さん製の式具だ。彼女が作った式具ならセーフティがかかってるから、練習がてら使え」
「あ、ありがとうございます!!名前は、"光陰矢の如し"、か?」
御環は自分のアイテム、いや式具をまじまじと見る。同じ式具が2つ入っていた。1つは予備らしい。
どうやら、チェーンの付いていない懐中時計を思わせるデザイン、なのだが、細部が違う。
まず、蓋がなく、裏表両方に文字盤がある。針も3つではあるのだが、長針、短針、秒針のようなものではない。複雑な機構になっており、腕のように途中から折れ曲がることもできるようだ。どちらかと言うと節足動物の脚にも見える。本来、チェーンを通すパーツに指を通すようになっている。
とりあえず、指を通してみると裏に隠し機構があり、リングの内側に針が出て御環の血液を機構内に取り込む。
「これ、弾車か!」
御環が手に取り、手首のスナップを効かせ宙に投げる。勢いよく放たれた式具は回転し進むが、回転を維持したまま途中でピタッと進行だけを止める。そして、また御環の手元に戻る。
「ヨーヨーですね!かっこいい!」
プラネが目を輝かせる。
応えるように、様々な技を放つ御環。ストリング、要は紐を赤糸で構成しているため、間合いは変幻自在。更には、時計の針を模したジャイロ機構により、重心移動ができ、より複雑な技を出せるようになっている。最早、曲芸の領域であった。
「御環、お前そんなに弾車、上手かったのか...」
口が開いたせいで、ココアシガレットを落としそうになり、手でキャッチした木漏が唖然として言う。
「錦さんに、赤糸の操作を教わるときに、弾車やあやとり、ベーゴマで習ったんですよ」
「凄いですね!なんかもう、6つぐらいに見える!」
あまりの速さに、プラネレベルの素人では目で追えない。
「コレ、"電撃の式"も組み込まれていますね...」
「あぁ、電撃の式の実戦練習に用意してもらった。式具なしでも扱えるようになれよ」
「わ、分かりました!」
少し、高揚して御環が応える。
満足そうに御環を見たあと、木漏はプラネの方を見る。
「さて、嬢ちゃんの方は?」
「サングラスと、これはペンライトの持ち手?の部分ですかね?サングラスは"絞り"、ペンライトの方は"一閃"って名前だそうです!」
「如何にもアイドルって感じだなぁ」
絞りの方は♡型のサングラスでもう巫山戯ている。
一閃の方は、ペンライトの柄のような形状。
とりあえず、絞りをかけた後、一閃を握ってみる。
「まぁ、まだ潮力の精密操作だとか、式だとかは扱えないから、氷内さんの作った式具は扱えない___」
木漏が喋っている途中で、プラネが一閃のボタンを押す。
"ブゥゥウン"
一閃から直線状の光の刀身が発生される。色はあの脳殺光線と全く同じ青白い色だ。
「長めのペンライトですかね?」
「こんな物騒なペンライトあってたまるかよ...」
木漏はキャッチしたココアシガレットを砕いてしまった。




