灯台もと暮らし⑥
「赤師ってのは、最も柔軟に戦える式者だ。赤糸を編むことで好きに武器を選べるしな。まぁ、それだけの式の解像度は必要だが」
そう言いつつ、木漏は空を右手の人差し指で叩く。
「まぁ、俺は錦のヤツが大っ嫌いなので、赤糸は使わない。"窓"」
そう唱えた途端に叩いていた座標に小さな障子が現れる。
そして障子が開き、そこから柄が出てくる。それを木漏が掴み、引っ張り出す。
「ということで、今回は俺は式具を使って戦い方を教えるが、御環はこれらを赤糸でやると思って聞け」
「わ、わかりました」
木漏は錦の話をする殆どの場合、嫌いという趣旨の発言をする。どんだけ嫌われてるんだ、と思う御環であった。
今回、木漏が取り出した武器は槍。
「槍はいい武器だ。赤槍はインファイターの赤師の中でも一番人気がある式だ。実際、俺も槍系はお気に入りだ。持ち方次第で、間合いを変えられる。戦術の柔軟性が高くて使い勝手がいい。突くよりも払え。その方が遠心力がついて威力が増す。まぁ、突く方がいい時もあるがな。そして何より、インファイト用なのにそれなりに距離を取れる。これはデカい」
そう言いながら、取り出した槍をリフティングの要領で回す。風切り音が心地いい。
「反響を聞け。式の編み具合と、境の展開度合いが解る。境は自分の体内も同然だ。自分が心地いい音を奏でているほど、お前が世界を書き換えてる証拠だ」
「はい!」
次に、窓から刀、脇差を取り出す。
「いいか、赤刀は決して強い式じゃない。刀ってのは、正直あまりいい武器じゃない。寧ろ、赤糸で編むなら弱い方だ」
「そうなんですか?刀は強いイメージありますけど」
「お前...錦が漫画で世間を勉強させた影響だなぁ、はぁ。あれはフィクションだ。さっきの槍の利点をもう一度、思い出せ」
「えっと、柔軟に間合いを変えられる、遠心力を加えられる、インファイトの割に距離を取れる」
「完璧だ。じゃあ刀はどうだ?」
「全部、死んでますね...」
「それに、問題は刃の方にもある。刃を構成する式はかなり複雑だ。剛と柔を調整しないといけない。槍なら先端だけでいいが、刀の刃渡りを見てみろ。こんなの実戦で編める訳ないだろ」
「た、確かに...じゃあ赤刀の式は何のために?」
「まぁ、非戦闘用程度だな。刃渡りもそれぐらいがいい。緊急時に使う。実際、この間合いの刃物は便利ではある、戦闘面以外では。トラップ制作にも使えるし。あとは、"介錯"にも。それと、槍の間合いよりも内側に入り込まれた時だな。そういう緊急時用だ。要は影送と同じように、"捨て式"扱いではある」
「なるほど...でも逆に言えば極めれば、使えたりしますかね?漫画みたいに」
「お前...赤刀を実用段階に持ってくるには1000年近くの時間が必要だぞ?それで相手を圧倒するならもっとだ。それだけ式の解像度を上げないといけないからな。織雛や網駄でも無理だ。同じ時間をかけるなら、赤槍の方が練度が上がりやすい。所謂、"タイムパフォーマンスが悪い"ってやつだ」
「実用的ではない、と...」
「刀は工芸品だと思え」
次に窓から鎖鎌を取り出す。
「いいか、御環。鎖鎌は、分銅のほうを投げろ。よく勘違いしている奴がいるが、鎌のほうは投げない。そもそも刃物を投げるな。刃の向きが合わなかったらどうするんだって話だ。鎌は相手が間合いに入った時に使え」
「つ、使える気がしませんが...」
「実際、難しい。この手の鎖の武器は。ただ、楽しいぞ。使えると。テンションが乗るのは式者には重要な要素だ。格好つけろッ!ま、使うのはもっと後だろうがな。使い方は知っておけ」
そう言いながら、鎌の方を投げて横に並んだ的を7つ全て切り裂く木漏。
「鎌の方投げてるじゃないですか...」
呆れる御環を横目に帰ってきた鎌をキャッチする木漏。
「このキャッチがムズいんだよ、ハハ。まぁ、この鎖鎌で特に言えるが、武器を使う時は間合いを意識しろ。鎖鎌は横の間合いが必要だ。だから間合いが空いていたとしても、縦方向に空いていたら使えない。間合いは使用制限だ。それを見極めて、現状で使える武器を選べ。選べるのが赤師の強みだ」
その後、休憩。叛骨が事前に用意していたお茶菓子を食べる2人。
「芥さん、俺も式具使いたいです。俺でも使える式具ありませんか?」
「あぁ?んー、まぁ、まずは理由を聞こう。なんで式具なんて使いたいんだ?」
「俺はまだ登竜門を突破できてません...だから極力血液の消耗を抑えたいんです」
「まぁ、いい視点ではある。リソース管理は必須技能だ。だがな、血液の消費を極力抑えるために、飛び道具に頼らないインファイトを教えてるんだぞ?」
「そうなんですけど、でも...あまりに手札が少な過ぎる...」
「焦るな。まだまだお前は人生始めたばかりだ。手札ってのはこれから増やすもんだ。それとなッ」
木漏が縁側から立つ。そして、窓から十手の式具を取り出す。
「式具ってのはどれも強力だ。使うなら相応の契約を結ぶことになる」
そう言って、握った十手に潮力を流す。
「"搦手、起きていいぞ"」
そう言った瞬間に十手の式具、搦手を握っていた左手が変質する。まるで別人の腕のように。そして左眼も、木漏のいつもの虹彩とは違う色になっている。
「この搦手は比較的、穏便で友好的且つ話の通じる式具だ。それでもコレだぞ?式具ってのはそれこそ、登竜門を突破してないと使えねぇんだよ」
そう言ってまた窓を展開する。
「"搦手、眠れ"」
そして、窓にしまう。障子が閉まる音がやけに反響して聞こえる。
「"まだまだ"って、ことですか...」
「..."これから"ってことだ。間違えるな」
「はい...」
「ま、まずは境酔いの克服からだな」
「酔い止め飲んでも効かないんですけど」
「いつも言ってるだろ。"酔い止めを飲んだからもう大丈夫"と思ったら大丈夫になってる。このレベルにならないと。式者ってのは"効くからやるんじゃなくて、やるから成る"。てかお前、そもそも水なしで飲むのも下手だけどな。あれは式とか関係ないぞ」
御環がお茶を一気に飲む。
「そういえば、これまでで一番キツかった契約はどんなものでした?」
「そうだな...一番簡単な契約が一番キツかったな...」
***
「あぁ、夢...というより、走馬灯か、今のは。手札を増やすための、影送、か...」
御環は、とにかく一夜目を乗り切ったことを朝日を見てようやく実感した。
「刀、使いたいんだけどな...カッコイイし」




