表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
31/42

新人VS序列第3位 

 瑠衣が夜叉髑髏を手に入れた2日後。

 ついに、黒羽との決戦の日がやってきた。

 日は落ちきり、闘技場の上空には月がぽっかりと浮かんでいた。まるでこれから始まる血戦を見下ろす観客のように。

 瑠衣は、静かに歩を進めていた。その足取りは迷いがなく、全身からは凛とした空気が滲み出ている。

 その隣には、鴉羽もいる。


「おいおい、本当に戦うのかよ……」


「ああ。そういう約束だからな」


「律儀な奴だ……まぁ、見届けてやるよ、お前の覚悟ってやつをな」


 煙草をふかしながら、きざっぽくいう鴉羽。

 その言葉に、瑠衣はちらと横目を向け、わずかに笑った。


「余計な心配は無用だ。これは――俺が選んだ道だ」


 そして、二人は闘技場の入り口をくぐった。

 そこにいたのは、既に戦闘準備を終えた黒羽真白。

 そして、その横には、眼鏡をかけた軍服の女性が立っていた。

 黒羽はいつものメイド服姿。舞踏会にでも向かうかのようなその装いは、この戦場にはあまりにも不釣り合いだった。


「本日この戦いの立ち合いをさせていただきます、南野と申します。よろしくお願いいたします」


 冷静な口調でそう名乗った南野は、一礼をする。

 どこか人間味の希薄な所作。その瞳には、感情の色が一切なかった。


 一方の黒羽はというと――


「きゃはっ☆ ついにこの日がやってきたのね~。ずぅ~~っと楽しみにしてたんだからぁ~!」


 彼女はうっとりとした笑みを浮かべながら、自身の短剣を優雅に研いでいた。金属同士が擦れ合う音が、妙に耳に残る。


「改めてルールのご確認を」


 南野が眼鏡をくいっと押し上げ、事務的に続けた。


「どちらかが戦闘不能、もしくはギブアップした時点で終了となります。相手を意図して殺害することは禁止されておりますが――」


 その目が細くなる。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 闘技場の空気が、わずかに張り詰めた。

 つまり、殺されても自己責任ということだ。


「はいはぁい、規則はもうお腹いっぱいよ~。はやく戦いたいなぁ~……ふふふっ」


 黒羽は体をくねらせながら、まるで踊るようにステップを踏む。だがその軽やかな動きには、研ぎ澄まされた殺意が宿っていた。

 対する瑠衣も、静かに武装刀《夜叉髑髏》を抜く。


 ――黒の刀身が、月光を反射しながらその姿を露わにした。


「あれぇ? なんか前見た刀となんか違わな~い?」


 黒羽が、いたずらっ子のような声を上げる。


「ああ。新調したんだ。この日のためにな」


「へぇぇ~、意味のないことをしちゃって、可愛いねぇ♡」


 舌なめずりするような声で黒羽が言う。

 だが、瑠衣は表情一つ変えず、黙して構えを取った。

 その瞬間、今までの軽い空気が変わる。

 黒羽の笑顔が、より狂気じみたものへと変貌する。


「では、これより――黒羽 真白(くろはましろ) 対 義影 瑠衣(よしかげるい)の決闘を開始します。用意……はじめっ!!」


 その瞬間だった。


 キィンッ!!


 耳をつんざくような風切り音と共に、黒羽が放った短剣が宙を舞った。

 直線的な軌道。速く、鋭い、殺すためだけに研がれたそれが、真っ直ぐ瑠衣の眉間を狙う。


 だが、瑠衣は一歩を踏み出し、上体をわずかに傾け――


「っ……!」


 風を裂く音だけが、瑠衣の頬を掠めて過ぎ去った。


「きゃはははっ! やっぱり瑠衣くんはすごいねぇ! ほかのモブ達とは違うんだからぁ~!」


 歓喜する声と同時に、黒羽は宙返りしながら次の短剣を抜く。そして連続投擲。


 二本、三本、四本――!


 だがその全てを、瑠衣は軽やかなフットワークでかわしていく。

 無駄のない動き。無駄のない視線。


 その姿はまるで、死の舞踏を踊る黒の亡霊のようだった。


「ほ~ら、ほ~らっ☆ こっちはどうかなぁ~っ!!」


 黒羽は前転を挟み、投げ方を変えながら更に短剣を繰り出してくる。

 上から、下から、斜めから。その全てが殺意を孕んでいた。

 しかし瑠衣は、なおも正面からそれらを見切り、的確に回避しながら距離を詰めていく。


「やぁん♡ こっち来ちゃうの~!? じゃあ、一旦おあずけっ!」


 直後、黒羽は跳び退いて再び距離を取った。


 ふざけた口調とは裏腹に、その足さばきはまさしく一流。

 彼女の動きには、確かな技術と恐るべき身体能力が隠されていた。


「……やれやれ、まだまだ手加減してるってわけか」


 瑠衣が小さく息を吐く。

 短剣の嵐を抜けたその先に、黒羽は楽しそうに言った。


「ねぇねぇ、知ってる? 今まで私の投擲をここまで捌いた人って、いなかったんだよぉ~♡」


 まるで恋人を褒めるかのように、黒羽は頬を紅潮させる。

 そして、腰に差していた《《一本の刀に手をかけた》》。


「じゃあぁ~……そろそろ、ほんとの本気……見せちゃおっかな☆」


 カシン――!


 鞘から抜かれたその刃は、他の短剣とは明らかに違う気配を放っていた。

 漆黒と蒼が入り混じった、美しくも禍々しい武装刀。

 それはまるで、黒羽自身の狂気を具現化したかのようだった。

 つまり、今までの短剣はただの使い捨ての武器であり、武装刀ではない。

 これからが本気なのだと――。


「ここからは、遠慮しないよぉ~~っ♡♡」


 戦いの第二幕が、幕を開けようとしていた。

 

 月の下、刃と刃がぶつかり合う。


 黒羽が抜いた武装刀――それは、瑠衣が見たどんな刀よりも“禍々しさ”を纏っていた。

 刀身の根元に彫られた紋様は、まるで血の涙を流す瞳。

 冷気すら帯びているようで、抜いた瞬間、辺りの空気がわずかに震えた。


「さぁ~て♡ 近接戦といこうかぁっ!」


 ヒュッ!


 地面を蹴った黒羽の姿が、目の前から消える。


 その瞬間、視界の端。

 斜め上から、殺気が突き刺さる。


 ――速い!


 瑠衣がとっさに武装刀《夜叉髑髏》を振るうと、ギィン!と高音が響き、火花が散った。

 黒羽の一撃は、まるで隕石の衝突のように重く鋭かった。


「ふふっ、意外と止められるんだぁ?」


 その声と同時に、追撃。

 連撃。

 滑らかなステップで体を流しながら、黒羽は高速の斬撃を繰り出してくる。

 一撃一撃が、華奢な身体からは考えられないほど重い。

 だが、瑠衣は必死に受けきる。

 後退しながらも視線を逸らさず、黒羽の殺意を見切っていく。


「じゃあ次は……コレ☆」


 ヒュンッ!

 黒羽が跳び上がった。

 そのまま、天井から振り下ろされる――


「踵落としっ☆!」


 重力を乗せた踵が、地面に向かって一直線に叩きつけられる。

 冷国怜《序列7位》を沈めたという、あの一撃。


 ――ドンッ!!


 衝撃が地面を砕き、粉塵が巻き上がる。

 直撃すれば、骨どころか内臓まで砕ける威力だ。

 瑠衣は寸前で身をひねり、ギリギリで直撃を避けるも、吹き飛んだ瓦礫が体を掠める。


「続けて、ワン、ツー☆」


 拳。

 膝。

 武装刀。


 リズミカルに、しかし破壊的に繰り出される黒羽の近接コンボ。

 瑠衣はまともに受ければ即死の攻撃を、防御一辺倒でしのぎ続けていた。


(……速い上に、打撃の質が重い。距離を取る暇すらない)


 だが、それでも表情は崩さない。

 冷静に、機を窺い続ける。


「ふふふっ♡ 楽しいねぇ~? すっごく楽しい……もっと見せてよ、もっと……!」


 黒羽の頬には、紅潮が浮かんでいた。

 目は爛々《らんらん》と輝き、殺し合いそのものを心から楽しんでいる――狂気の表情。


「それじゃあ……行くよぉっ☆」


 次の瞬間、彼女は天高く刀を掲げ、唇に笑みを浮かべて叫んだ。


「――共鳴せよ――☆!」


 刹那。

 空気が凍った。

 黒羽の武装刀が淡く輝き、氷の花弁のような結晶が舞い上がる。

 同時に、瑠衣の足元から冷気が這い寄り――


「なっ……!?」


 瑠衣の両足が、氷に包まれていく。

 体の自由が奪われ、バランスを崩した瞬間――


 シュンッ!


 黒羽が瞬時に距離を詰め、全身のバネを使って武装刀を振り抜いた。


「とどめだよぉ~♡」


 ――ガギィィッ!!


 咄嗟に夜叉髑髏で防御するも、黒羽の攻撃はそれを貫き、衝撃ごと瑠衣の体を吹き飛ばした。


「ぐっ……!」


 背中から地面に叩きつけられ、土煙が上がる。


「きゃはははっ♡ すっごい飛んだぁ! やるじゃん、瑠衣くぅんっ!」


 歓喜に満ちた笑い声が、夜空に響く。

 しかし――

 それで終わりではなかった。


「っ……くっ……!?」


 突如として、腹部に鋭い痛みが走る。

 瑠衣は身体を起こし、腹に手をやる。

 何も刺さっていないはずのその場所に――異物感。

 触れると、そこには何か“透明な物”が突き刺さっていた。


「……短剣!?」


 目には見えない。

 だが確かに、何かが体内に入り込んでいる。


「ふふふ♡ びっくりしたぁ? 私の“透明短剣”……♡」


 黒羽は刀を構えたまま、にこにこと笑っている。


 透明な短剣による、不意打ち。

 しかも――


「……っ、しかもこれは……毒か……!」


 視界が揺れる。

 体温が下がり、手足が痺れていく。


「うふふふっ♡ ねぇねぇ、どうするの? 動けないでしょ?」


 狂った笑顔で、ゆっくりと黒羽が歩み寄ってくる。


「やっぱり、まだまだだったねぇ~。ちょっとだけ期待しちゃったけど、私の勘違いだったみたい。ざあんねんっ♡」


 その声は、失望を含んでいた。

 勝利宣言ではなく、()()()()()()()()()()()()


「じゃあね、楽しかったよ……ちょ~っとだけ、ね?」


 彼女の武装刀が、ゆっくりと振り上げられた。


「おい、瑠衣!!! もういいだろ!! お前はよくやった!! もう、降参しろ!」


 観客席から、鴉羽の怒鳴り声が響く。

 南野は無表情のまま黙して見守るだけだった。


 死が、迫っている。

 それでも――瑠衣は、笑った。


「降参? 冗談じゃない……」


 その笑みに、狂気はなかった。

 ただ、静かな闘志と覚悟だけが宿っていた。


「この程度の傷……あの時に比べれば、大したことはない」


 幻影皇帝から受けた無数の致命傷。

 心を殺されたあの地獄。


 それに比べれば、これしき――!


 瑠衣は、黒羽を睨むようにして見ると、こう言った。


「……どうやら、お前の実力を見誤ってたようだ。俺も――()()()()()、本気を出さないと駄目なようだな」


「はぁ~~? 何言って……」


 その瞬間。


 ――ゴォォォォッ!!


 漆黒の衝動が爆ぜた。

 瑠衣の身体が、黒き鎧に包まれていく。


武装刀《夜叉髑髏》の力。

 月神玄水との死闘の中で解放された、あの“夜叉の黒い鎧”が、再び顕現した。

 それはまるで、地獄から蘇った復讐者のように――凶悪かつ荘厳な気配を纏いながら。

 ガキィン……! 金属が軋むような音を立てながら、漆黒の装甲が瑠衣の体を覆っていく。


 その瞬間。


「――ッ!?」


 黒羽真白の表情が、一変した。


 わずかに開いた唇。震える瞳孔。

 いつもは遊戯のように飄々としていた彼女の顔から、色が消える。

 混じり気のない“戦慄”が、数秒間だけ彼女を支配した。


 「うそぉ……なにそれ……♡」


 呆然としたまま、後ずさる足元が揺らぐ。

 その反応は、彼女が“純粋に驚いた”ことを物語っていた。


 「な、なぁんか……思ってたより……ずっと……♡」


 言葉が続かない。

 その様子を見て、鴉羽は思わず息を呑んだ。


「おいおい……あれが、あいつの――“本気”ってやつか……!?」


 その声は震えていた。

 皮膚の内側を這いずるような圧力。鼓膜が軋むような重低音。

 まるで、目の前の男が“人間ではないもの”に変貌したかのようだった。

 静観していた南野でさえ、わずかに目を見開き、手にしたメモパッドを取り落としそうになった。


「これは……記録にない……」


 それほどまでに、瑠衣の纏った“闇の鎧”は異質だった。

 憎悪の剣鬼ぞうおのけんきレベリス。彼がまさにそこにいた。


 風が渦巻き、空気が黒く染まるような錯覚。

 鎧の隙間から漏れる禍々しい輝きが、まるで悪夢の胎動のように蠢いている。

 やがて。

 その漆黒の戦鬼は、ゆっくりと立ち上がった。

 地面を踏みしめる度に、圧が走る。

 ただ立っているだけで、周囲の温度が下がる錯覚すらある。

 そして、鎧を纏った瑠衣は静かに、確信を込めて告げる。


「……さあ、第二ラウンドと行こうか――黒羽 真白」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ