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禁断の遺跡へ潜入 最終


 崩れかけた大広間は、もはや“戦場”という言葉すら生温かった。

 石柱の幾本かは途中で折れ、天井の亀裂から砂塵が絶え間なく落ちてくる。

 床の紋様は砕かれ、古い金属のレールみたいなものが剥き出しになり、光を反射して鈍く光った。


 ――いや。


 光っているのは、それだけじゃない。


 そこに立つ二人。

 義影瑠衣と月神玄水。


 互いの姿が、もう“人の輪郭”として認識できない。

 視界に映るのは、ただ二つの閃光だった。


 光っては消え、

 消えたと思った瞬間には、別の位置でまた光る。


 斬撃の音すら遅れて聞こえる。

 金属が擦れ、空気が裂け、衝撃波が遺跡の壁を叩く“残響”だけがあとから追いかけてきた。


 瑠衣の手には、夜叉髑髏。

 黒い刃の周囲に、どす黒い気配がまとわりついている。

 そして、その黒は――瑠衣の中にも染み込んでいた。


「……ッ、ハハ……!」


 息が笑いになる。

 痛みが、快感に変わっていく感覚。

 夜叉髑髏の力を解放してから、瑠衣の頭の奥で何かがずっと鳴っている。

 獣の心臓みたいな、低く粘つく鼓動。


 強い奴を叩き潰したい。

 もっと速く。もっと強く。もっと――


 その衝動が、瑠衣の口角を勝手に釣り上げる。

 対する玄水は、変わらない。

 背筋は真っ直ぐ、呼吸は静か。

 ただ、目だけが……瑠衣の“黒”を見て、わずかに温度を上げていた。


 次の瞬間。


「月神流――光の閃光刃せんこうじん


 世界が白く弾けた。

 眩い筋が一本ではない。

 複数だ。

 空間を切り分けるように、何本もの“光”が瑠衣へ飛来する。


(速い)


 思考が追いつかない。

 自身の反射神経だけが瑠衣を動かす。

 首を捻り、肩を沈め、踏み込みを変え、刃の隙間を抜けていく。

 しかし、全てを躱しきれず、一部の光が頬を掠めた。


 熱い。


 だが、血は出ない。

 “掠めた”だけだ。

 しかしあと数ミリ遅ければ――首が落ちていた。


「……っは」


 瑠衣の喉から、再度笑いが漏れた。

 この技を見て、恐怖より先に“愉悦”が来るあたり、もう正常じゃない。


 玄水が、この戦いの中で初めて笑った。

 ほんの少し。

 その笑いの意味は差すものはなんなのか、それは不明だ。

 だが、たったそれだけで空気が変わる。


「良い」


 褒めるように言って、玄水は続ける。


「月神流――光の伍、空蝉の契(うつせみのちぎり)


 玄水の姿が、ぶれる。

 一瞬、視界が揺れて――


 次の瞬間、玄水が三人になっていた。


 同じ顔。

 同じ構え。

 同じ殺気。


 瑠衣の顔が引き攣る。


「おいおい……一人でも反則くせぇのに、三人かよ。クソジジイが、強すぎんだろ」


 返事の代わりに、三つの玄水が同時に踏み込んだ。

 左右と正面。

 三方向から、別々の斬撃が来る。


 瑠衣は夜叉髑髏を振るう。

 黒い刃が弧を描き、衝突の火花が散る。


 ――一撃一撃が重い。


 玄水の斬撃は“軽い”はずなのに、受けた瞬間だけ腕の骨が軋む。

 速さの中に、芯がある。

 空気を切っているのではなく、“空間を壊している”みたいな感触。


 瑠衣は避ける。

 避けて、踏み込む。

 斬り込む――が、背後からもう一人が来る。


 骨が鳴るような速度で、瑠衣は体を捻った。

 刃が背中の布を裂き、皮膚に熱が走る。


「チッ……!」


 傷は浅い。

 だが、浅いのに“死”が近い。


 三対一では分が悪い。

 いや、悪すぎる。


 瑠衣は、地面を蹴った。

 石の破片が弾け、体が宙を滑る。

 同時に、目が細くなる。

 瞳の奥の黒が濃くなる。


「――そっちが数なら」


 瑠衣の声が低い。

 人間の声というより、もはや獣の唸りといっても過言ではない。


「――重力断罪ヘヴィジャッジメント


 空気が、沈んだ。

 いや、沈んだのは空気じゃない。

 世界そのものが、下へ引きずり落とされた。


 三人の玄水が、同時に“叩きつけられる”。

 床が爆ぜた。

 石畳が蜘蛛の巣みたいに割れ、粉塵が噴き上がる。

 そして玄水の分身が、押し潰されるように消えた。

 残ったのは、一人。


 玄水が膝をつき、次の瞬間、何事もなかったかのように立ち上がる。


 その隙は――一瞬。


 だがしかし、瑠衣は逃さない。

 夜叉髑髏が唸った。

 黒い刃が、最短距離で振り抜かれる。


 ――ズバッ。


 玄水の片腕が、宙を舞った。

 遺跡の壁に当たり、鈍い音を立てて転がる。

 相手はホログラム。にもかかわらず血が飛ぶ。

 だがそれすら、瑠衣には“綺麗”に見えた。

 瑠衣は玄水の喉元に刃を突きつける。


「勝負あったな」


 玄水は、称賛するように息を吐いた。


「ふむ……まさか、ここまでとは」


 しかし、玄水は至って余裕の笑み。

 表情一つ崩れない。

 その瞬間、瑠衣は気づく。

 玄水の目が、まだ終わっていないことに。


 ――殺気が消えていない。


 次の瞬間。


「月神流――光の七、時層回帰じそうかいき


 信じられないことが起きた。

 壁際に転がった腕が、まるで“引っ張られる”ように動く。

 時間が逆回転しているみたいに、軌跡をなぞって玄水へ戻り――ぴたり、とくっついた。

 骨も。筋も。皮も。

 最初から切られていなかったみたいに。

 流石の瑠衣も、これには表情が固まる。


「……は?」


 反則。

 それしか言葉がない。


 玄水が、手を叩いた。

 パァン、と乾いた音が遺跡に響く。


「天晴れ。その強さ、認めよう。夜叉髑髏やしゃどくろは――其処元のものだ」


 その言葉は、所有権の承認だ。

 本来なら、ここで終わるはず。

 だが、玄水は、まだ構えを解かない。

 瑠衣が眉を寄せる。


「だったら……なんでまだ殺意向けてんだ」


 玄水が、ふっと笑う。

 今度の笑みは、少しだけ少年みたいだった。


「いや、なに。ほんの興味だ。其処元に、私の本気がどこまで通用するのか見てみたい」


 玄水の声が、どこか楽しげに震える。


「生前……ここまでの者と戦ったことはない。どうやら私は、久しく忘れていたものを思い出したらしい」


 それは最強であるが故の孤独。

 強すぎて、戦いが退屈になる地獄。

 それを――いま目の前の瑠衣が破った。

 瑠衣は、夜叉髑髏を肩に担ぐ。

 黒い気配が揺れ、瑠衣の笑みが歪む。

 夜叉髑髏を手に入れた以上、これ以上瑠衣が玄水と戦う理由はない。

 しかし、瑠衣もまた玄水との戦いに高揚感を感じていた。


「いいぞ……かかってこい、じじい。……そのまま成仏させてやる」


「感謝の極み」


 玄水は、静かに告げた。


「義影瑠衣。私の全力を受け止めよ。月神流――光のろく月影光げつえいこう


 玄水の頭上に、“輪”が出現した。


 天使の輪に似ている。

 だが、神聖さより、どちらかというよりは機械の冷たさがある。

 光の車輪といった方が正しい。

 薄く回転し、きゅる、と空気を擦るような音を立てる。

 それを見た瑠衣の皮膚が本能的に粟立あわだった。

 ただの飾りじゃない。

 あれは――“何かを始める装置”だ。


「……はは」


 瑠衣が笑う。

 笑ってしまう。


「なんだそりゃ。マジで反則だな」


 だが、その笑いの中には怯えがない。

 むしろ、燃えている。


 瑠衣は地面を蹴った。

 神速。

 いや、神速なんて生易しい。


 視界が流れ、玄水の目前に“瞬間移動”みたいに現れる。


 夜叉髑髏が連撃を叩き込む。

 一太刀ごとに空気が爆ぜ、火花が舞い、床の石が削れる。


「――ッ!」


 玄水は受け流す。

 それでも、瑠衣の勢いは止まらない。

 斬って、斬って、斬って、踏み込み、さらに斬る。

 

 叩き潰せ。

 強くなる前に殺せ。


 本能がそう告げている中、玄水は続いての攻撃を放つ。


「月神流――光の参、写輪刻しゃりんこく


「ちぃっ!まだ技があんのかよ」


 ――次の瞬間。


 瑠衣の体が、見えない手に押し潰されるかの如く床へ叩きつけられた。

 内臓が沈み、骨が鳴る。

 体が鉛のように重い。


「なっ――」


 それはさっき自分が放った重力断罪ヘヴィジャッジメントそのもの。


「チィッ!」


 瑠衣は歯を食いしばり、足首に力を込める。

 夜叉髑髏を突き立て、床を抉って“踏ん張る”。

 そのまま重力圏の縁へ身体を滑らせ、ギリギリで抜け出した。


 玄水の刃が追う。

 瑠衣は躱す。

 躱しながら、玄水の頭上の車輪を見る。


 回っている。


 瑠衣が攻撃するたびに。

 玄水が受けるたびに。

 車輪が一段、速くなる。


 そして――玄水の動きも、確実に速くなる。


 最初は互角だったはずの攻防が、じわじわと崩れていく。

 玄水の斬撃が、瑠衣の頬を裂いた。

 次は肩。

 次は太腿。


 浅い。

 だが、浅い傷の数が増えていくのは――死に向かっている証拠だ。


 瑠衣は舌打ちした。

 と同時に、見た。


 車輪が回るたび、玄水の表情が僅かに歪んでいることに。


 眉が動く。

 口角が揺れる。

 額に、汗が浮く。


(……なんだあれは……痛みか?)


 瑠衣の脳が冴えわたる。

 それは戦士の勘に近い。

 瑠衣は、その一瞬の変化からある事を推測する。


 代償がある。

 強くなるほど、何かを削っているのではないか、と。


 もしそうなら――


 削り切らせればいい。


 強くなる前に倒す?

 違う。

 強くなろうとして崩れるところへ、最大の一撃を叩き込む。


 賭けだ。


 その一撃に耐えられて、なお車輪が回った瞬間――瑠衣は終わる。


 だが、他に道はない。

 瑠衣は深く息を吸った。

 肺が痛い。

 だが、その痛みが妙に心地いい。

 夜叉髑髏に力を込める。

 刃が黒く呻き、どす黒いオーラが吹き上がった。

 瑠衣の全身を包み込み、皮膚の上を這い回る。


「共鳴解放――」


 それは、あのピエロを一撃で戦闘不能に追い込んだ、究極の奥義。

 玄水が、目を細めた。


「ほう……共鳴技か。ならば、私もそれに応えよう」


 玄水もまた、刃を構える。

 車輪が高速回転し、光が輪郭を失う。


「「共鳴解放――ッ!」」


 二つの閃光が、ぶつかった。


 眩い。

 眩すぎて、世界が白く塗り潰される。

 衝撃波が遺跡の壁を剥がし、天井の一部が崩落した。


 ――そして。


 しん、と音が消えた。


 粉塵が、ゆっくり落ちる。

 石の欠片が、ぽとり、ぽとりと床に当たる。

 それだけが、やけに大きく聞こえる。


 立っているのは――玄水だった。


 瑠衣は、膝から崩れ落ちた。

 全身が切り刻まれ、血が黒い床に染みていく。


 玄水の頭上の車輪が、回る。

 玄水は勝利を確信したように、静かに息を吐いた。


 だが。


「……ごふっ!」


 玄水の口から、大量の血が噴き出した。


「……っ」


 次は、目。

 眼球の端から赤い筋が流れ落ちる。

 玄水の顔がわずかに歪む。


 瑠衣が、ゆっくり立ち上がった。

 足が震える。

 骨が悲鳴を上げる。

 それでも、夜叉髑髏が瑠衣を“立たせる”。


「……どうやら」


 瑠衣が笑う。

 血を吐きながら笑う。


「……賭けに勝ったみてぇだな」


 玄水が、わずかに目を見開く。

 車輪が回転しようとして――止まった。


 玄水の筋肉が痙攣する。

 皮膚の下で、何かが裂ける音がした気がした。

 “成長”が、肉体の許容量を超えた。

 そして車輪はまるでガラスが砕け散るかのように、粉々になった。


 玄水は膝をつく。

 それでも倒れない。

 最強は、最後まで立とうとする。


 瑠衣は夜叉髑髏を構え、玄水へ歩く。

 一歩ごとに血が落ちる。


「お前……強くなろうとしすぎたな」


 すると玄水が、かすかに笑った。

 悔しさではない。

 満足の笑みだ。


「……なるほど。私の……負け、か」


 瑠衣の刃が、玄水の胸元へ向けられる。


 その瞬間、玄水は静かに目を閉じた。

 まるで、長い戦いが終わったことを受け入れるように。


 ――そして。


 遺跡の奥で、古い石柱が音を立てて倒れた。


 月神玄水。

 かつての人類最強にして無敗の男。

 その最強は、義影瑠衣の前で――ついに折れた。

 瑠衣は刃を下ろさず、息を吐く。

 勝ったのに、胸が妙に静かだった。


 夜叉髑髏の中の黒い衝動が瑠衣の心を覆いつくそうとする。


 もっと斬れ。もっと壊せ。もっと――と。


 しかし瑠衣は歯を食いしばり、夜叉髑髏を強く握った。


(……黙れ)


 心の奥で呟く。

 その衝動をねじ伏せるように。

 玄水は、薄く目を開けた。

 その視線が、瑠衣を真っ直ぐ捉える。


 「……其処元。夜叉髑髏を……持て」


 声はもう、風に溶けるように軽かった。

 存在そのものが、ゆっくりとこの場から剥がれ落ちていく。


 「……そして、進め。強さは……孤独を呼ぶ。だが、それでも……進むのだ」


 瑠衣は、返事をしなかった。

 否――できなかった。

 ただ、唇の端が、ほんのわずかに持ち上がる。


 「……ああ。言われなくてもだ」


 短い沈黙。

 その中で、玄水のホログラムがふと、何かを思い出したように視線を伏せた。


 「……最後に、一つだけ。頼みを、聞いてくれないか」


 その声音は、先ほどまでの武人のものとは違っていた。

 どこか躊躇ためらいがあり、老いた人間の弱さが滲んでいる。

 瑠衣は足を止める。


 「……なんだ」


 玄水は、少し間を置いてから、静かに口を開いた。


 「私には……孫娘がいる」


 その言葉に、瑠衣は何も言わず、ただ耳を傾けた。


 「私が死んだことで……あの子は、心を閉ざした。信頼できる者を失い、人との距離を測れなくなった」


 武人でも、守り人でもない。

 そこにいたのは、ただの“祖父”だった。


 「強さを持つ者は……往々にして孤独になる。それは私も、あの子も同じだ」


 玄水は、瑠衣をまっすぐに見た。

 その視線は、試すものではなく、託すものだった。


 「だから、どうか……あの子のことを、気にかけてやってほしい。

  守れとは言わん。導けとも言わん。ただ……あの子が一人で折れぬように」


 瑠衣は、少しだけ眉をひそめる。


 「……名前は?」


 一瞬、玄水は目を見開いた。

 だが、すぐに柔らかく微笑む。


 「月神朧つきがみおぼろ。私の……可愛い孫娘だ」


 その名を聞いたとき、瑠衣の表情がわずかに動いた。

 面識はない。

 だが、その名だけは、確かに一度、耳にしたことがあった。


(……たしか、星風が言ってたな。人類最強の新人類──それが、月神朧だと)


 名前に感情が宿るほどの印象は、まだない。

 けれど、どこか偶然とは思えない一致が、胸の奥をかすめた。


「……そいつが、お前の孫か」


 玄水は小さく頷く。


 「強さゆえに孤独を抱えた女だ。だが、あれは……あれは、本当は誰よりも優しい子でな。だが私の死が、あの子の世界を狭くしてしまったのだろう……」


 その声音は、どこまでも静かで、どこまでも深かった。

 祖父としての後悔が、滲んでいた。


 「だから、どうか。直接でなくていい。もし……何かの縁で出会うことがあれば、あの子のことを……気にかけてやってほしい」


そう言うと、玄水は静かに懐に手を差し入れ、何かを取り出した。


 「これを、お前に託す」


 差し出されたのは、月を象った銀の細工。中心には黒曜石のような石が埋め込まれており、微かに脈動するような光を放っている。

 ただの装飾品ではない。明らかに、何かの“力”が宿っているとわかる代物だった。


 「……これは?」


 「死闘のしとうのちぎりと呼ばれるものだ。月神家にとって、特別な意味を持つ証でな」


 玄水は静かに説明を続ける。


 「このブローチを持つ者は、私の魂の承認を得た者として扱われる。……それが何を意味するか、分かるな?」


 瑠衣の眉が僅かに動く。


 「……孫娘からの信頼が得られるってことか?」


 玄水は頷いた。


 「もしも孫娘から信頼を得られなかったとき、お前がこのブローチを見せれば――きっと、あの子の心にも届くはずだ」


 その声音は、どこまでも静かで、どこまでも深かった。

 祖父としての後悔が、滲んでいた。

 だが──その直後、玄水の声にわずかに厳しさが戻る。


 「ただし、一つだけ言っておく。……このブローチを、最初から切り札のように使ってはならん」


 「……どういう意味だ?」


 瑠衣の問いに、玄水は目を細め、低く続ける。


 「この証は想いであり信頼だ。だが、形ばかりが先に立てば──その想いは、容易く踏みにじられる。

  あの子は、力なき者の言葉や肩書きには耳を貸さん。むしろ、反発すらするだろう」


 「……つまり、実力も信頼もない状態で見せたら逆効果になるってわけか」


 「察しがいい。……まずは、お前自身の言葉と行動で、あの子と向き合え。

  それでも、もし届かない時が来たら──そのときこそ、死闘の契(ブローチ)を使えばいい」


 玄水の口調には、静かな願いが込められていた。

 孫娘にブローチを使わせることを前提としながら、

 なるべくなら使わずに通じ合ってほしいという──祖父としての切なる願い。


 「……そんな重要なもんを、初対面の俺に預けていいのか?」


 瑠衣の問いに、玄水はふっと笑みを浮かべた。だが、その瞳は冗談ひとつなく真剣だった。


 「私は戦いを通して、相手の“芯”を見極めてきた。お前との死闘の中で、感じ取ったのだ。お前には……強い信念と、深い決意、そして……凄まじい復讐心があると」


 更に一言、こういった。


「幻影皇帝を、倒したいのだろう?」


 「――っ!」


 心を抉るような言葉に、瑠衣の目が見開かれる。

 その瞳の奥に、一瞬だけ、過去の記憶がよぎった。


 「あんた、何故それを――」


 「言っただろう。私は戦いの中で相手の善し悪しを見極めることができると。……違うのか?」


 真正面から突き刺すような玄水の眼差し。

 その問いに、瑠衣は目を伏せることなく、まっすぐ応えた。


 「――ああ。あんたの言うとおりだ。俺は、幻影皇帝を滅ぼすために戦ってる。……正直なところ、今すぐにでも奴を叩き潰したい気分だが、一人じゃ限界がある。だから、SEUに入った」


 「ならば、なおのこと……孫の力が必要になるだろう」


 玄水の声音は、確信に満ちていた。


 「……言っておくが、孫は私よりも強いぞ?」


 「……まじかよ」


 心のどこかで、少しだけ頭を抱える瑠衣。

 だが同時に、それほどの力を持つ者が味方になる可能性に、内心で静かな期待も芽生えていた。

 玄水は、そっとブローチを手のひらに載せる。

 瑠衣はそれを見つめた後、ゆっくりと手を伸ばす。


 「……本当にいいのか?」


 「うむ。お前ならば、託せる」


 躊躇ためらいなく、それを受け取る。

 小さなブローチの重みが、掌にしっかりと伝わってきた。


 「なら、有難く──頂戴する」


 玄水は、穏やかに目を細めた。


 「……それで十分だ。……それで、いい」


 そして──


 「ではな、義影瑠衣。頼んだぞ……」


 その言葉を最後に、光がふわりと揺らぐ。

 まるで風に溶ける霧のように、月神玄水の姿は、静かにその場から消えていった。

 後にはただ、戦いの余韻と、手の中のブローチの温もりだけが残されていた。








 

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