第97話 レンジャーへの想い
豆小玉三曹に、レンジャー試験を受けると宣言した僕は、翌日の訓練から、今までよりも高いハードルを課した。明確に目標が出来たからか、諏訪一士との関係を気にせず、訓練に集中出来ている。しかし、数字は、今日も一つも届いていなかった。毎日嘔吐しては立ち上がり、這うようにしてメニューをこなす日々だ。
「あいつ、やけに張り切ってますね。」(曽我)
「レンジャー試験を受けたいんだと。」(豆小玉)
「レンジャーっすか? あいつが?」(曽我)
「あれは、馬鹿のくせに向上心だけはあるんだよ。」(豆小玉)
「で、お前はどうするんだ? レンジャー試験。」(豆小玉)
「え? え~っと…。俺は、まだ基礎を固めるべきかと…。」(曽我)
「…すまん、少し意地悪をした。」(豆小玉)
返答に困っている曽我に詫びを入れる豆小玉。彼はレンジャー試験に対し、何か思うところがあるようだ。
「(グーリエ星人を倒すため、訓練のハードルは上がっている。だがその分、訓練中の死者も後を絶たない。その結果、左派を敵に回し、レンジャー志願者も減っている。ハードルは下げられない。下げた瞬間に、全員死ぬ。上層部の意見は、”戦場で死のうが訓練で死のうが同じ” ということだろう。)」(豆小玉)
「(もはや、レンジャー試験をクリアするには、人間の限界を超える必要がある。そして、実際に人間の限界を超えた強さを手にしている連中も現れ始めた。……グーリエ星人を倒すためには、心身ともに人間を捨てろということか…。)」(豆小玉)
「(だから、迂闊にレンジャー受けたいという奴は受け入れ辛いが、それでも受かって強くなった奴が1人でも多く欲しい。まったく……とんだジレンマだ。)」(豆小玉)
「(しかし…。)」(豆小玉)
「こらァ!! 段場! さっさとしやがれ、この鈍間がぁ!!」(富貴)
「大丈夫か、あいつ…。」(豆小玉)
豆小玉は相変わらず鈍くさい隼人の様子を見て、頭を抱える。
「(…いや、あいつは凡庸だが、執念だけは特級クラスだ。もしかしたら…。)」(豆小玉)
「富貴三曹、段場に連隊長への請願の段取りを教えようと思います。体力は入校基準に満たない。だけど、その先は本人が死んで決めればいい。」(豆小玉)
富貴は驚き、豆小玉を二度見した。
「本気か? あいつがレンジャーに耐えられるわけがない!」(富貴)
「馬鹿を相手にするのも疲れますが、執念だけは大したものです。連隊長を説得できるかは別ですが、奴の執念に懸けてみるのも面白いでしょう。」(豆小玉)
「まあ…レンジャー持ちのあんたが言うなら、信じてみよう。」(富貴)
豆小玉は隼人の覚悟を試すため、あえて地獄への道を開いたのだった。
パァン!!
「あいつ、また当てたぞ。」(二河)
「すげぇな、あいつ本当に強くなってる!」(飯田)
天使族や鳥人族を想定した戦闘訓練で、諏訪は一発も外さずに的へ的中させていた。
「(あの時の、あの不思議な感覚…。あの力は、今も俺の中に残っている。一体何なんだ? 怪我の治りも早いし、俺は化け物にでもなったのか?……この力、都合が良すぎる。)」(諏訪)
「(……まあ、俺が化け物でも何でもいい。この力があれば、奴らを駆逐できる。使いこなしてみせるさ。)」(諏訪)
諏訪は、オペレーション・ギデオン(第7次首都圏奪還作戦)で覚醒した不思議な力に戸惑いを隠せないが、しかし、この力を受け入れ、前向きに訓練に励んでいる。グーリエ星人に怯えて暮らす国民に真の笑顔を取り戻すために、志半ばで散った仲間の想いを未来に繋げる為にも。
「(俺がGASTにスカウトされたって事は、角南さんや苫米地もスカウトされているだろう。もしかしたら、他にもスカウトされた奴はいるかもしれん。)」(諏訪)
「(確か、13普連にも天才がいるって話だ。……名前知らんけど。)」(諏訪)
「(年度が代われば、俺は陸士長だ。再来年の試験を受けられる。その前にレンジャー試験の合格だ。来年度はいろいろと忙しくなる。)」(諏訪)
パァン!!
「おお、諏訪の奴、また当てた!」(飯田)
「(角南さん、先にGASTへ行って待ってて下さい。)」(諏訪)
諏訪の視線の先では、黙々とランニングを続けている角南朱杏陸士長の姿があった。彼は、朱杏に心の中でエールを送り、自身もGAST入隊へ向けていっそう精進すると誓った。
登場人物紹介
段場 隼人……本編の主人公。レンジャー目指して奮闘中
諏訪 明登……GASTからスカウトされた有望な隊員。隼人を快く思っていない
角南 朱杏……GASTからスカウトされた有望な隊委員。要にウンザリしている
豆小玉 芙琉……隼人直属の上官。レンジャー持ち
曽我 郁人……彼はレンジャー試験を受けないらしい
富貴 彪雅……豆小玉の先輩。
二河 錬……35普連2中隊の陸士長
飯田 源紀……35普連2中隊の三等陸曹




