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外星戦記  作者: 無名の凡夫


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第94話 縁の下の力持ち

気持ちを切り替えた杏南とは対照的に、隼人の心は晴れぬままだった。


「段場! てめぇ、いつまでも腑抜けてんじゃねぇ!」(豆小玉)


連日、動きに精彩を欠き、こうして上官に叱責されている。


「(はあ、あいつ…何やってるんだか…。いつまでも過去に囚われるなよ。)」(要)


俺は運天要だ。オペレーション・ギデオン(第7次首都圏奪還作戦)では、大きな怪我もなく、すぐに原隊復帰となった。初陣は大敗。俺も爪痕を残すことは出来なかったが、こうして生きている。


この悔しさを胸に、次の戦いでは絶対に勝つ!

俺は次の戦いに備えて動いている。


しかし、オペレーション・ギデオンの傷跡は大きく、俺が所属していた35普連4中隊は壊滅的被害を受けた。多くの仲間を失い、享乱中隊長ほか、生き残った隊員も意識不明の重体だ。動けるのは、俺と角南陸士長の2人だけだ。なので、訓練は3中隊と合同で行っている。


本当は、あと1人いたのだが、辞めてしまった。まあ、戦場でビビっていたから、辞めても驚きはしないが、臆病者は最初から入隊しないでほしいものだ。


「お、未来の英雄じゃん!」(星野橘花(ほしの きっか)二等陸士)


「ちっ、会いたくない奴に会った…。」(要)


そう呼び止めるのは、同期の星野だ。こいつは、よく俺の事を小馬鹿にする嫌な奴だ。


「そう言うなよ、ウチとあんたの仲だろう。」(星野)

「どんな仲だよ…。」(要)


「……ついて来んな!」(要)

「何でよ~、一緒に飯食おうぜ~」(星野)


会う度にくっついて来るから鬱陶しい。だが、時間が惜しい。こいつは無視してさっさと食ってしまおう。




「なあ、厚巳さん、大丈夫かな?」(佃琢也(つくだ たくや):陸士長)


「だいぶ参ってましたよね。PTSDとかになってなければいいんですが…。」(白川和萌(しらかわ かずも)一等陸士)


「ふん」(運天)


「厚巳三曹は、戦場でびびって戦えなかった腰抜けだ。あれが三曹になるまで居座っていたのだから、質が悪い。」(要)


「おい! お前、何て言った?」(輪床圭慎(わとこ けいしん)三等陸曹)


しまった、心の声が漏れていたようだ。


「お前、厚巳のことを馬鹿にしたよな?」(輪床)


「今、厚巳さんを侮辱したよな?」(佃)


聞かれてしまったか。だが、俺は俺の信念を貫く。


「今、言った通りです。俺は厚巳三曹と行動をしていましたが、あの人は戦場でびびって何も出来てませんでした。上官として、尊敬する所など、見つかりませんでした。」(要)


要は、輪床や佃、白川の殺気立った視線を受けても、怯むことなく続けた。彼の言葉には、初陣での無力感から生まれた強烈な自己正当化と、勝利への焦燥が滲んでいた。


「俺は、仲間が次々に倒れる地獄で、”使えない先輩”の背中を見ていました。その結果、部隊は壊滅した。俺たちは、ビビって立ち止まるために自衛官になったわけじゃない。もし、あの場で厚巳三曹が職務を果たせていれば、助かった命があったはずです!」(要)


「何だと!」(白川)


「待て、要!」(星野)


星野が慌てて要の肩を掴んだが、輪床三曹は、低く唸りながら一歩前に出た。


「…お前には、あの時の厚巳の苦しみがわかるのか?」(輪床)


輪床の声は、抑えきれない怒りで震えていた。


「厚巳はな、お前ら新人とは違う!中堅として、すべてを背負って戦地に立ち続けていたんだ。あいつの体が動かなくなったのは、腰抜けだからじゃない。お前が想像もできないほどの重圧に、心が耐え切れなくなったからだ!」(輪床)


「結果は同じでしょう!心が折れて、体が動かなければ戦力ではない!俺たちには、そんな弱さを見せられる余裕はない!」(要)


要の冷徹な言葉が、輪床の感情を爆発させた。


「黙れ!」(輪床)


輪床は要の胸倉を掴み上げ、壁に押し付けた。


「お前のような、戦場の重さも知らねぇガキに、厚巳を侮辱する権利はねぇんだよ!」(輪床)


食堂にいた隊員たちが騒然とし、2人の周りに人垣ができ始めた。輪床の拳が振り上げられる寸前、一段と鋭い声が響き渡った。


「そこまでだ! 輪床、手を下ろせ!」(空間)


遠くから、その様子を見ていた空間が、鋭い目つきで止めに入った。空間の鋭い声は、食堂の喧騒を一瞬にして凍らせた。


輪床は、連隊長の威圧感に気圧され、ゆっくりと運天の胸倉から手を離した。要もまた、連隊長に直接見咎められたことに、僅かに顔を青ざめさせた。


空間の穏やかな笑みは完全に消え失せ、冷徹な指揮官の顔で二人の間に立つ。


「ここは戦場ではない。内輪で拳を振り上げるとは、規律をどう考えているのか。」(空間)


空間はまず輪床を、そして次に要を、その涼やかな眼差しで射抜いた。


「運天二士。貴官の信念は理解できる。しかし、それは仲間を侮辱してよい理由にはならない。」(空間)


空間は、要の「強さこそ正義」という信念を認めつつ、そのやり方を容赦なく切り捨てる。


「そして輪床三曹。貴官の戦友を思う気持ちは評価する。だが、暴力は何も解決しない。感情に流され、部隊の秩序を乱すことが、本当に厚巳三曹の名誉を守ることになると考えるか?」(空間)


空間は2人を叱責すると、深く静かに息を吸い、声を落とした。


「2人とも、厚巳三曹が退官したという、その一瞬しか見ていないようだな。」(空間)


空間連隊長の言葉に、要は顔を上げた。


「厚巳三曹は、オペレーション・ギデオンにおいて、最後に何を為したか。貴官たちはそれを知っているのか?」(空間)


その問いは、鋭い刃のように要と輪床の心に突き刺さった。要は憎しみを、輪床は擁護の念を胸に、静かに連隊長を見つめ返す。空間の意識は、遠い戦場の光景に向かっていた。



――回想:2020年9月30日 国道135号線 湯河原町付近――


地獄のような戦場。耳をつんざく銃声と爆音、辺りに充満する血と硝煙の臭い。


厚巳は、瀕死の重傷を負った羽毛大和一等陸士を背負い、朦朧とした意識の中で、何度足を止めても、無理やり動かしていた。彼もヘルメットや戦闘服は破れ、既に満身創痍だった。


「羽毛、頑張ってくれ…。もう少しだ。この先なら、電波が…。」(厚巳)


厚巳の背中には、「羽毛を必ず生かして帰す」という、己に課した使命を遂行しようとしていた。彼は既に戦闘能力を喪失していたが、この搬送任務だけは決して放棄しなかった。


国道135号線を抜け、静岡県内に入った辺りで、ようやく携帯電話の通信が回復した。


「(抜けた!この電波で救助を要請できる!)」(厚巳)


安堵と疲労が厚巳を襲い、ポケットから取り出した携帯電話の画面は、無情にも「バッテリー切れ」を示す。


「くそっ…!」(厚巳)


厚巳は、最後の望みを託して背中の羽毛に尋ねようとした。


「羽毛、すまねぇ、携帯は持ってるか調べさせてく…」(厚巳)


しかし、背負い直そうとした羽毛の体が、さっきまでの重さが、嘘みたいに消えていた。厚巳は、崩れ落ちるように羽毛を地面に下ろした。その顔は、既に冷たくなっていた。


「ああ、羽毛、羽毛―!」(厚巳)


羽毛を死なせてしまった。あと一歩、あと数分が、明暗を分けた。厚巳の心臓を、絶望と自責の念が激しくえぐり取った。


「羽毛、羽毛…。すまねぇ。」(厚巳)


彼は己の無力さに打ちひしがれ、その場に倒れ込んでしまう。


「………いや」(厚巳)


「いや、まだだ!」(厚巳)


厚巳は再び立ち上がった。


「羽毛、すまねぇ、ちょっと待っててくれ。」(厚巳)


厚巳は、羽毛の亡骸を道路脇に寄せ、近隣の民家へ向かった。


厚巳は、民家の玄関先で頭を下げ、事情を説明して電話を借りることに成功した。彼の指がダイヤルしたのは、オペレーション・ギデオンの本部が置かれている月白展望台の電話番号だった。


「35普通科連隊、厚巳です!現地点より湯河原の状況を報告します!」(厚巳)


彼は、途切れ途切れになりながらも、4中隊の壊滅状況、多くの仲間の死、そして湯河原付近の敵勢力の詳細な位置と数を、正確に報告した。その声は震えていたが、情報の核心はぶれていなかった。この時、月白展望台の作戦室にいた空間は、その通話を直接聞いていた。


「(中隊壊滅の絶望的な状況で、この冷静な報告…。戦闘能力を失ってもなお、彼は本部に情報を繋いだ。)」(空間)


この通報でGASTへの招集辞令が発動され、部隊が再編されつつあった上層部にとって、作戦終結前の最後の「生きた情報」となった。厚巳の行動は、決して無駄ではなかった。


――回想終了――



「厚巳三曹の最後の行動は、部隊の壊滅を防ぐことはできなかったが、彼の報告によって、我々は敵の動向を正確に把握することができた。彼の取った行動は無駄ではなかった、と記録されている」(空間)


空間連隊長は静かに2人を見据える。


「更に、厚巳三曹は、敵の銃弾が交錯する戦線合で、角南士長、羽毛一士、そして運天二士を救出し、怪我の手当てや、廃墟となった街中を奔走して物資を探していたとも聞く。」(空間)


「厚巳三曹は、腰抜けなどではない。彼の働きは、目立つことはないが、誰も見ていないところで、仲間を生かしていた。彼の最後の任務は、決して馬鹿にされていいものではない。」(空間)


「厚巳…。」(輪床)


輪床は目に涙を浮かべている。同期として厚巳の能力を知っている者として、その仕事ぶりが上官に評価されていたことを。佃や白川といった、厚巳を慕う隊員も、彼の名誉が守れたと安堵している。しかし、上官のその言葉を受けても、この男には響いていなかった。


「(どれだけ上官が評価しようとも、辞めた時点で、全部終わりだろ。) 」(要)


要は、何も言わなかった。だがその目は、さっきよりも冷えていた。


登場人物紹介

星野ほしの 橘花きっか

生年月日:2001年12月15日 / 出身:群馬県

階級:二等陸士 / 所属:第408会計隊所属。

備考:要の同期で、よくからかっている。女性


つくだ 琢也たくや

生年月日:1998年5月7日 / 出身:愛知県

階級:陸士長 / 所属:35普連3中隊所属


白川しらかわ 和萌かずも

生年月日:2000年9月20日 / 出身:静岡県

階級:一等陸士 / 所属:35普連3中隊


輪床わとこ 圭慎けいしん

生年月日:1995年4月17日 / 出身:高知県

階級:三等陸曹 / 所属:35普連3中隊

備考:厚巳と同期。


段場だんば 隼人はやと……本編の主人公。諏訪との確執で悩んでいる。

運天うんてん かなめ……隼人の同期で、自身の力を過大評価している。

豆小玉まめこだま 芙琉ぶりゅう……隼人の新しい上官

空間そらま 瑠衣るい……35普連の新しい連隊長

羽毛はも 大和やまと……オペレーション・ギデオンで戦死した。


厚巳あつみ 千宏ちひろ…1995年5月10日生まれ、兵庫県出身。

厚巳は、初めて戦場に出てから、派遣される度に恐怖で何も出来ないまま戻ってきていました。オペレーション・ギデオンでも、彼は敵兵を討つことは出来ていません。しかし、厚巳には、これまで生き残った実績があります。これは、決してラッキーだけでは済まさせない彼の実力です。


厚巳の特筆すべき能力は、回避する力です。臆病であるが故に、戦場で生き残るために身に着いた「危機察知能力」で、撤退のための道筋を立てる力に優れています。彼は自分が臆病で、戦闘では期待できない事を自覚していますが、彼の危機察知能力によって助けられた隊員も多く、佃や白川は、かつて厚巳の力で生き延びた過去があります。


また彼は、後輩であっても優秀な隊員を妬まず、リスペクトの気持ちを忘れないので、仲間からの信頼も厚いです。


オペレーション・ギデオンを以て、退官することになりましたが、決め手になったのは、要が「臆病者」と見下している点でした。運天の偏った価値観、与えられた任務に愚痴が止まらない、子どもじみた態度は、平時なら受け流せたであろう、些細な事です。しかし、戦地に何度も赴き、多くの仲間を失っている環境下では、その「些細な事」でも、心が耐えられなくなってしまう、ストレスになってしまいました。今後は地元に戻り、しばらく療養してから就活する予定です。


尚、空間が厚巳の行動を把握しているのは、後日、朱杏からも裏付けを取っているためです。

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