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外星戦記  作者: 無名の凡夫


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第93話 気持ち新たに

木山は、精神科に入院することになった。僕も任務との兼ね合いで常につきっきりとは言えないので、家族へ連絡をして情報を引き継いだ。ご両親は泣いていた。息子の犯した過ち、そしてそれに苦しむ息子を想い…。


それからまた数日後。


――陸上自衛隊 守山駐屯地――


「先の首都圏奪還作戦で、殉職した者達の後任が発表された。」(幸目)


幸目陸将は重々しい口調で告げた。陸将の言葉は、会議室に集まった幹部や隊員達一人ひとりに、先の大敗北が残した穴の深さを改めて認識させている。


僕は今、第10師団の新編成について説明を受けている。陸将の前の前に座っているにも関わらず、話に集中できないでいた。


山下陸士長に言われた、「お前が許せない。」という言葉が頭の中でぐるぐると回っていて、まるで自分のことではないように人事案が、音だけになって流れていく。


陸将が読み上げる「殉職」という単語。それは、僕の脳裏に、山下陸士長や諏訪一士の怒りや悲しみ、そして何よりも、自分の軽率な行動で渚陸士長を喪った光景を鮮明に焼き付けていた。この人事によって、部隊の空いたポジションは埋まっていく。しかし、僕の心の穴は、塞がるどころか深まる一方だった。



「おい、隼人!」(要)


要に呼ばれてはっとする。いつの間にかミーティングが終わっていたようだ。僕は、慌てて席を立つ。


「新しい連隊長が、改めて挨拶をしたいってよ。」(要)


オペレーション・ギデオン(第7次首都圏奪還作戦)では、片桐連隊長も亡くなった。その後任の連隊長の発表もあったわけだが、考え事をしていた僕は、誰が新連隊長かも失念していた。


空間瑠衣(そらま るい)一等陸佐よ。よろしくね。」(空間)


新しい連隊長は女性だった。常に穏やかな笑みを浮かべている。しかし、その涼やかな眼差しと佇まいからは、数々の修羅場を潜り抜けてきたであろう、確かなオーラを感じる。


「片桐一佐をはじめ、先の作戦で失った隊員の穴は、あまりにも大きい。ですが、悲しみに立ち止まっている暇はありません。心を一つにし、この窮地を必ず乗り切りましょう。皆、私についてきてください。」(空間)


その口調は落ち着いていながらも、内側から湧き出る力強さに満ちており、隊員達の空気を引き締めた。




――守山駐屯地 訓練場――


訓練が再開された。しかし、僕は、着地訓練で体勢を崩し、班長に怒鳴られていた。


「段場!何をやっている!足元が全然おぼつかないぞ!集中しろ!貴様、作戦のショックを引きずっているのか!」(豆小玉芙琉(まめこだま ぶりゅう)三等陸曹)


隼人の動作は鈍く、判断にも迷いが見え、以前のキレを失っていた。頭の中には、山下の「お前が許せない」という言葉と、渚の最期の光景がこびりついて離れない。


「(ちくしょう……分かってる。でも、どうすれば……)」(隼人)


隼人は唇を噛みしめ、返事ができなかった。対照的に、同じ訓練をこなす杏南の動きは、周囲の目を引いていた。


「おい、苫米地、すげえな。オペレーション・ギデオンから戻ってきてすぐなのに、あの身のこなし。そつがない。」(曽我郁人(そが ふみと)陸士長)


「ああ。まるで機械みたいだ。さすが、あの地獄を生き残っただけある。」(二河錬(にかわ れん)陸士長)


先輩隊員たちは、杏南が淡々と課題をクリアしていく姿に感心していた。彼女の動作には一切の無駄がなく、上官の指示通り、寸分違わず動いていた。しかし、その様子を少し離れた場所から見ていた坂下ジュリアは、眉をひそめていた。


「(違う。あれ、“合わせてるだけ”だ……)」(ジュリア)


ジュリアは、あの地獄で生き残るため、仲間を守るために、野生的なまでの強烈な意志を爆発させていた杏南の姿を知っている。今の杏南の動きは、ただ完璧な兵士の動作だ。だが、100%のそれじゃない。


「(杏南、何か迷っている? あの時見た、超人的な強さとは程遠い…。)」(ジュリア)


ジュリアは、杏南の心に迷いがあることを直感的に察していた。




訓練終了後、ジュリアは杏南のもとへ向かう。


「杏南。」(ジュリア)


「ジュリアさん…何か?」(杏南)


「あんた、調子が悪いね。」(ジュリア)


杏南はわずかに目を見開き、すぐに無表情に戻した。


「え、そんな事ないよ? 今日の訓練も問題なく出来たし。」(杏南)


「問題ないのは動きだけよ。心が入ってない。あの時のあんたの強さは、そんなものじゃなかった。」(ジュリア)


ジュリアは、オペレーション・ギデオン(第7次首都圏奪還作戦)で、仲間の死を前にしてもなお立ち向かう杏南の、本能的なまでの迫力を思い出す。


「あんたは、あたしの恩人だ。あんたがいなかったら、とっくに死んでいた。だから、あたしも力になりたい。」(ジュリア)


「とはいっても、話し相手くらいしか出来ないけどね。はは…。」(ジュリア)


「ジュリアさん…。」(杏南)


「何でもない、大丈夫だよ。」(杏南)


ジュリアの言葉は嬉しかったが、杏南は答えることが出来なかった。GASTからスカウトされた話は、内密にするよう言われているからだ。


「私は………強くならなきゃいけないだけ。」(杏南)


杏南の声には力がなく、どこか諦めに似た響きがあった。失った命への責任感、そして重すぎる期待へのプレッシャー、隼人と共に歩みたいという想い…彼女の心を雁字搦めにしている。


ジュリアは、そんな杏南の瞳を真っ直ぐに見つめ返す。彼女の言葉は、氷のように閉ざされた杏南の心を、こじ開けようとしていた。


「杏南…。あたしは、アンタに憧れた。でも、あの戦場では、ただただ自分の力不足だって思った。仲間が死んでいくのを見ていることしか出来なかった。だから、もっと強くなりたい…。憧れるだけじゃなくて、強くなってアンタの隣に立ちたい!」(ジュリア)


ジュリアの瞳は、これまでに杏南が見たことのないほどの強い意志の光を宿していた。その視線は、憧れや依存ではなく、対等な戦友として肩を並べようとする、まっすぐな決意を伝えていた。


「(ジュリアさん……)」(杏南)


杏南は、GASTからの極秘命令を破ることはできなかった。しかし、ジュリアの言葉は、杏南の心にこびりついていた「失った命への責任」と「重すぎる命令への義務感」という鎖を、打ち砕く一撃となった。


自分は一人ではない。共に強くなろうと言ってくれる仲間がいる。杏南が秘める葛藤は、誰かに命令された義務ではなく、ジュリアの決意に応えるための、自らの意志となる。


「ジュリアさん、今は話せないけど…。私もその覚悟を無駄にしないよう、頑張るね。」(杏南)


杏南は、張り詰めていた緊張の糸をわずかに緩め、心からの感謝を口にした。そして、ジュリアの瞳を真っ直ぐに見つめ返し、強く言い切った。


「あなたのその覚悟は、私にとって大きな力になる。私はもう、迷わない。」(杏南)


彼女の眼差しは、さっきまでの冷たい機械のような動作とは一変し、オペレーション・ギデオン(第7次首都圏奪還作戦)の戦場で垣間見せた、熱く、野生的なまでの闘志を帯びていた。


「(杏南!)」(ジュリア)


ジュリアは、杏南の変化を肌で感じ取り、強く頷いた。


「(ただ、正直、意味は分からなかったんだよね:汗)」(ジュリア)


杏南の迷いは消えた。彼女は三曹への最短昇任とレンジャー資格取得という過酷な試練を、自らの意志で受け入れ、走り始めることを決意したのだ。



――翌日、守山駐屯地 訓練場――


「おお…。」(曽我)


「(良かった、本来の杏南だ。)」(ジュリア)


迷いの消えた杏南は、洗練された動きで、訓練をこなしていく。昨日の動きとはまるで違うのは、同じ部隊にいる隊員、全員が感じ取っていた。


「苫米地の奴、昨日よりも動きがだんちじゃないか。」(二河)


「感心してないで、俺達も気合い入れていくぞ!」(飯田源紀(いいだ げんき)三等陸曹)


「そうだな、苫米地に追いつけ、追い越せだ!」(富貴彪雅(ふき ひょうが)三等陸曹)


「おう!」


杏南が所属する班は、杏南の強さに依存しないよう、一人ひとりが強くなるべく、訓練に力が入る。訓練中も活気があり、順調に課題をクリアしていく。


しかし一方で、隼人は…。


彼の周囲は、昨日と変わらず重苦しい空気に満ちていた。隼人は、以前のキレどころか、最低限の動作すら、2度に1度は崩していた。


「段場!貴様は昨日から何をやってる!集中力がないとしか思えないぞ!腕立て伏せの姿勢が崩れている!」(豆小玉)


班長の怒声が、訓練場の活気ある喧騒を打ち破って響く。


「(ちくしょう……くそっ!分かっている!)」(隼人)


隼人の頭の中には、山下や諏訪の怒り、そして渚の死に際の光景が、まるで呪縛のように絡みついていた。体の動きは、心の迷いに比例して鈍る一方だ。ふと、隼人は杏南のいる訓練エリアに目をやった。


「(あの速さ、あの迫力……。杏南とは、どんどん離されていく…)」(隼人)


彼女の動きは、自分が知る杏南の能力を遥かに超え、一段上のレベルに達しているように見えた。訓練の密度と、その目から放たれる闘志が、明らかに違っていた。


「(それなのに、僕は……昨日と同じ場所で、同じ失敗をしている。)」(隼人)


隼人の唇から、乾いた自嘲の笑みが漏れた。自分は過去の失敗という鎖に囚われ、その場で足踏みどころか、後退すらしている。


杏南が自らの意志で新たな試練へと踏み出し、加速していくのに対し、隼人は「許されない」という罪悪感に苛まれ、号令がかかっても、隼人だけが半拍遅れていた。


登場人物紹介

空間そらま 瑠衣るい

生年月日:1974年11月12日 / 出身:徳島県

階級:一等陸佐 / 役職:35普連の連隊長

備考:殉職した片桐の後任


豆小玉まめこだま 芙琉ぶりゅう

生年月日:1996年11月22日 / 出身:神奈川県

階級:三等陸曹 / 所属:35普連2中隊

備考:オペレーション・ギデオン後、隼人直属の上官となる


曽我そが 郁人ふみと

生年月日:1999年6月2日 / 出身:三重県

階級:陸士長 / 所属:35普連2中隊


二河にかわ れん

生年月日:1997年8月3日 / 出身:山口県

階級:陸士長 / 所属:35普連2中隊


飯田いいだ 源紀げんき

生年月日:1997年3月25日 / 出身:東京都

階級:三等陸曹 / 所属:35普連2中隊


富貴ふき 彪雅ひょうが

生年月日:1994年7月10日 / 出身:愛知県

階級:三等陸曹 / 所属:35普連2中隊


段場だんば 隼人はやと……自責の念が晴れない主人公

苫米地とまべち 杏南あんな……隼人の同期で恋人

幸目さちめ 勇仁ゆうじ……第10師団師団長兼守山駐屯地司令

運天うんてん かなめ……隼人や杏南の同期

坂下さかした ジュリア……杏南に憧れる新人隊員

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