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外星戦記  作者: 無名の凡夫


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第90話 仕組まれた裁き

「了解です。僕に任せてください!」(土井)


土井近太郎(どい ちかたろう)陸士長は、病室で申し渡されたGAST入隊の条件に、力強く答えた。彼は既に陸士長であり、レンジャー資格も持っている。あとは、3曹への昇進試験を合格するのみだ。


「了解しました。」(朱杏)


角南朱杏(すなみ しゅあん)陸士長も、同じく静かに、しかし決然とした声で答える。


「(まずは、三曹に合格。そして、来年にレンジャー合格…か。)」(朱杏)


「了解。必ず、グーリエ星人を殲滅します。」(諏訪)


諏訪明登(すわ めいと)一等陸士は、共に戦った上官や、渚を失った悔しさをにじませながらも、任務遂行への強い意志を表明した。


「了解!!」(万代)


万代佑大(ましろ ゆうだい)二等陸士の眼には、もはや迷いはなかった。己の醜態で救えなかった津曲や鍵島の無念、命を賭して守ってくれた大脇や戦う姿勢を示してくれた飛鳥、気を失った自分を助けてくれた同期の徳島…。皆の想い・無念を背負い、GASTへの入隊を目指す。


それぞれが新たな決意のもと、怪我が癒えていない者は治療に、既に原隊復帰している者は訓練に勤しみ始めた。彼らに課せられた条件は、GAST入隊の最低要件である「三等陸曹への最短昇任」と「レンジャー資格の取得」という、平時では到底不可能なスピードでの達成だった。



その頃、彼らの知らない場所では…


――防衛省 ※現テリムト参謀本部――


そこには、帝国軍参謀部ほか、先の戦闘に参戦した士官達が集結していた。誰もが、自分が裁かれる側になる可能性を理解していた。


「フフフ…遅くなって申し訳ない。宰相というのは忙しい立場でね。」(ヨ・アケ—ナル)


そこに現れたのは、アステリム帝国第5宰相であるヨ・アケ—ナルであった。


「なぜ、第5宰相殿が!?」(ミルキーウッド)


「何故? それはテリムト内で、ある派閥が私情を挟んでいると聞いてね。調査にきたのだよ。もちろん公平にね。」(アケーナル)


アケーナルは不敵に笑う。その笑みは政治家そのものだ。


「では早速始めよう。ヴァランクエ准将に何度か相談を受けてだね。このテリムト内の不満分子を排除して欲しいと頼まれたのだよ。」


ざわめきが広がる。


「不満分子、ですか。」(ミルキーウッド)


口を開いたのは、ミルキーウッドだった。その声音は落ち着いていたが、視線は鋭い。


「心当たりがありませんな。」(ミルキーウッド)


アケーナルは肩をすくめる。


「もちろん、そうだろうとも。」(アケーナル)


「だからこそ、こうして皆を集めたのだ。先の“大月の戦い”と”利根川の戦い“について、改めて確認させてもらう。」(アケーナル)


会議室の空気が一段と重くなる。


「報告では、大月の戦いでは、帝国軍は多数の損害を出し、作戦は失敗した。」(アケーナル)


「その原因は、どこにあるのかな?」(アケーナル)


沈黙。誰も口を開かない。視線だけが、ある一人の男に集まっていた。


ヴァランクエだった。そして、ヴァランクエが沈黙を破る。


「恐れながら、第5宰相殿。」(ヴァランクエ)


「今回の戦闘は、現場の判断ミスが重なった結果だと、私は分析しております。」(ヴァランクエ)


「判断ミス?」(ゴア)


ゴアの眉がわずかに動く。ヴァランクエは平然と続けた。


「はい。特に問題となったのは、敵の戦力を見誤った点です。」(ヴァランクエ)


「結果として、多くの兵が無駄死にした。」(ヴァランクエ)


会議室の空気が凍りつく。その言葉が、誰に向けられているのか。この場にいる全員が理解していた。


「ほう。」(アケーナル)


アケーナルは椅子に深く腰を下ろす。


「つまり、指揮官の責任だと?」(アケーナル)


「その通りです。」(ヴァランクエ)


「現場の士官の多くは、勇敢に戦いました。しかし、指揮系統に問題があった。にも拘わらず、その指揮官は自身の腹心だからと何の処分もしない。これは由々しき問題ではないでしょうか?」(ヴァランクエ)


その時だった。


「お待ちください」(アイソレイテ)


アイソレイテが静かに口を開く。


「大月の戦いについては、既に検証会議を行っております。今更蒸し返す必要があるのですか?」(アイソレイテ)


「戦犯に適切な処分を下していない!」(ヴァランクエ)


ヴァランクエの怒号がホールに響き渡る。


「敗戦の度に降格処分を下しては、指揮系統が乱れます。しかるべき兵士には降格処分を受理しました。再度申し上げますが、大月の戦いは既に検証も終わっています。今更糾弾するのは無意味です。」(アイソレイテ)


静かに手を挙げたのは、アストロだった。


「私からも発言を許していただけますか。」(アストロ)


「構わない。」(アケーナル)


アストロは立ち上がる。


「作戦参謀次長として、私は大月の戦いと利根川の戦いにおいて戦犯は同一人物だと考えます。」(アストロ)


「おい、利根川の戦いは勝利しただろう!」(ミルキーウッド)


「ミルキーウッド大佐、口を慎め。」(アケーナル)


「続けてよろしいでしょうか?」(アストロ)


「続けよ」(アケーナル)


「利根川の戦いは紙一重でした。第一空挺団が川を越えて指令室がある成田空港まで侵入されたのです。これは、作戦を立案したゴア准将の失態です。」(アストロ)


ゴアがアストロを睨みつける。


「それについて、意見をよろしいですか?」(ゴア)


「却下する。まずは、アストロ中佐の意見を聞く。」(アケーナル)


「侵入されたポイントを確認したところ、砲弾が古く、連射が出来ない状態まで傷んだ物のみが設置されていました。これを破壊されているところをドローンが捕えています。」(アストロ)


「そのドローンの情報は知らな…」(ゴア)


「ゴア准将! 静粛に!」(アケーナル)


「それを察知し、危険を感じたゼムファルト少佐が自身の腹心たちを成田へ援軍に行けるよう、配置転換したおかげで難を逃れました。」(アストロ)


「加えてアストロが空軍の予備隊を率いて奇襲に向かわせたことによって、成田に侵入した第一空挺団殲滅させたことも私からお伝えします。」(ヴァランクエ)


「(こいつら…参謀部を乗っ取るつもりか…)」(ミルキーウッド)


ミルキーウッドはヴァランクエやアストロが、テリムトの参謀部を乗っ取るつもりだと理解した。


「(宰相殿もグルですね…。)(アイソレイテ)


「アレン様を失ったのも、ゴアが原因のようなのものだ。」(ヴァランクエ)


「……」(アイホロジェ)


タイタス・アイホロジェはアレンの死について何か言いたそうにしていたが口を噤む。その様子を見たアイソレイテは、彼も根回しされていると悟る。


「大月の戦いでも、我々も損耗が激しかったとはいえ、それは敵も同じこと。すぐに派兵すれば勝てたのでは?」(アストロ)


「…っ」(ゴア)


「これは、ゴア准将には重い処分が必要ですね。」 (アケーナル)


アケーナルは、ゆっくりとホールを見渡した。誰も異議を唱えない。いや、言えないのだ。第3者(アケーナル)の介入する会議では、最終決定権はアケーナルにある。


それを確認してから、彼は口を開いた。


「ゾーリー・ゴアを――」


「大佐に降格、作戦参謀長の任を解く! そしてグーリエ星に強制送還とする!」(アケーナル)


ゴアが連行される。その背中を、誰も見送らなかった。


ヴァランクエは小さく笑う。アストロは資料を閉じる。


そしてアケーナルは、ただ一言だけ言った。


「では次の議題に移ろう。」

登場人物紹介

ヨ・アケ—ナル

種族・性別:ハイエルフの男性

所属:アステリム帝国第5宰相

備考:アステリム帝国には宰相が5人いる。発言権は宰相の中では5番目だが、実務能力はNo.1。第5宰相なのは高齢のため。


苫米地とまべち 杏南あんな……本作のヒロイン。GAST入隊と隼人と共に歩みたい狭間で揺れ動く乙女。

土井どい 近太郎ちかたろう……13普連所属の天才肌

角南すなみ 朱杏しゅあん……35普連4中隊のエース

諏訪すわ 明登めいと……隼人と対立する

万代ましろ 佑大ゆうだい……31普連1中隊の新人隊員

コーディー・ヴァランクエ……プレヤディッチ派の失脚を狙うテリムト人事参謀長

ステフェン・アストロ……同じくプレヤディッチ派の失脚を狙うテリムト作戦参謀次長

アンネ・ミルキーウッド……テリムト参謀次長。プレヤディッチ派

サッサ・アイソレイテ……テリムト参謀長でプレヤディッチ派

ゾーリー・ゴア……仕組まれた裁きによって失脚となる

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