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外星戦記  作者: 無名の凡夫
第2章 成長と挫折

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第91話 選ばれる者

苫米地(とまべち) 杏南(あんな)です。


富士病院の廊下を歩きながら、私は落ち着かない気持ちを抑え込んでいた。


先ほど病室を訪れた隊員に「応接室まで来い」とだけ告げられ、ここまで案内されたものの、理由は一切教えられていない。


案内役を務める2人の隊員は終始無言でした。その沈黙が、かえって胸の鼓動を速めます。


やがて応接室の扉の前で足が止まり、深呼吸を一つしてから、私は静かにノックしました。


「失礼します。」


室内へ入った瞬間、空気が変わりました。部屋の奥に腰掛けていた男の鋭い視線が、私を真正面から射抜きます。


特殊作戦群・群長、浅原(あさはら) (さとる)一等陸佐。


実戦経験では自衛隊でも指折りといわれる、生きる伝説でした。


その隣には、顔に大きな古傷を刻んだ女性隊員。そして私をここまで案内してきた2人のGAST隊員も壁際に控えています。どの人物からも、歴戦の兵士だけが放つ独特の威圧感が漂っていました。


「苫米地 杏南二等陸士。本題へ入る前に、いくつか質問に答えろ。」


「質問ですか?」


「そうだ、質問だ。言っておくが、貴様に拒否権はない。」


淡々とした口調でした。


この人は本気だ。曖昧な返答も、言い逃れも許さない。そう本能が告げていました。


(この人が……あの伝説の特殊作戦群のトップ……。尋常じゃない圧迫感だ。)


「りょ、了解です……。」


浅原一佐は資料に視線を落とし、すぐに最初の質問を投げかけます。


「ここに案内した隊員の階級は?」


(階級? 確か……。)


私は案内役だった眼鏡の隊員を思い浮かべます。


「三等陸尉。」


軍長は反応を示しません。


「院長が読んでいた新聞は?」


一瞬だけ意味が分かりませんでした。しかしすぐに気付きます。観察力を試しているのだ。


(あ、そういう事か。)


「尾張毎日新報。」


浅原一佐は無言のまま、さらに問いを重ねます。


「グラップル・ワイヤーの開発者の名は?」


「吉田秀一郎一等陸尉。」(杏南)


座学で習った内容でした。当時は「こんな知識が本当に必要なのだろうか」と思ってました。けれど、今になってようやく理解しました。


この試験は記憶力だけではなく、日頃から情報管理を意識しているかどうかまで見ている。そう感じました。


「初めて生け捕りにしたグーリエ星人の種族は?」


(これは座学で習った。この情報、必要性を感じなかったけど、これもそういう事なのね。)


「人魚族。」(杏南)


数秒の沈黙。やがて浅原は初めて小さく頷いた。


「合格だ。では、要件を言う。シルビア。」


「はっ。」


顔に大きな傷を持つ女性が、一歩前へ出ます。鋭い眼光は浅原一佐にも引けを取らない。まるで獲物を見定める猛獣のような雰囲気でした。


「私は、GASTの中隊長だ。自己紹介は程々にして、単刀直入に言う。苫米地 杏南、貴様をGASTへ推薦したい。」


「え?」


思わず声が漏れました。


GAST――北海道奪還戦でも、今回のオペレーション・ギデオンでも、その圧倒的な戦闘能力を目の当たりにした特殊部隊。その名を、自分が呼ばれる理由と結びつけることができませんでした。


「とは言っても、GASTは特戦群第5中隊扱いだ。二等陸士の貴様は、今すぐ入隊できるものではない。」


「はあ。」


推薦する。だが、すぐには入れない。意味を理解できず、私はただ曖昧に頷くことしかできませんでした。


「特戦群の試験を受ける要件は知っているな?」(シルビア)


「レンジャー資格を有する三等陸曹以上の階級で、年齢は36歳以下の者、あと、職種に応じた特技がある者でしょうか。」


「その通りだ。苫米地杏南、貴様はまず、その要件を満たせ。そして、GASTの一員として我々に力を貸せ。猶予は与えない。これは命令だ。」


命令。その一言で、私の逃げ道は完全に閉ざされました。


本当は「少し考えさせてください」と言いたかった。自分の将来を左右する話なのだから、時間をもらって悩むことくらい許されてもいいはずです。


けれど、ここへ呼ばれてからのやり取りを思い返せば、それが許される空気ではないことくらいは分かります。


私は、ただ一人の自衛官として選ばれたのではない。特殊部隊の候補者として選別されているのです。そう理解した瞬間、胸の奥に別の感情が湧き上がります。


――隼人。


オペレーション・ギデオンで再会した時、自分でも驚くほど嬉しかった。無事でいてくれた。その姿を見ただけで涙が止まらなかった。


あの瞬間、私はようやく気付いたのです。隼人は、自分が思っていた以上に、大切な存在になっていたことに。もしGASTへ進めば、同じ部隊で任務に就くことはなくなるでしょう。


特殊作戦群と普通科では、活動領域そのものが違う。頭では理解している。それでも、胸の奥が締め付けられるように痛みました。


「了解しました。」


私の返事を聞いたシルビア中隊長は、小さく頷きます。


「では、昇進試験及び、レンジャー試験に時期がきたら応募し、必ず1回で受かれ。36まで待てん。今は1人でも多くの戦力が欲しいからな。」


(ひぃ~、凄いプレッシャー……。失敗できない……。)


レンジャー教育は、自衛隊でも屈指の過酷さを誇る。しかも、「1回で受かれ」。その言葉は、命令というより最後通告でした。


「りょ、了解しました……。」


返事はしたものの、不安は消えません。試験に落ちる未来など想像したくありません。それでも、国を守るために必要だと言われた以上、私は前へ進むしかありませんでした。


「あと4人か。4人とも、この病院にいるんだな?」


「いえ、万代 佑大二等陸士は、退院し、原隊(板妻駐屯地)へ戻っています。」


「そうか。ならば明日は板妻へ行くか。」


「しかし群長、その5人の若手、本当に戦力になるのでしょうか? 今回、偶然生き残っただけとも考えられます。特に、この万代二等陸士は……。」


言い終える前だった。


「黙れ!」


怒声が応接室を震わせた。さきほどまで冷静だった浅原とは別人のような迫力に、部屋の空気が一変する。


「っ……。」


「そもそも、ブエンテロ、貴様の班がしくじったから、隊員の補充が必要なのだろうが。」


「も、申し訳ありません……。」


反論はなかった。いや、できなかった。浅原の言葉には、部隊を率いる者としての絶対的な重みがあった。


「ふん、どうせすぐに入隊というわけではない。それまでに貴様も気を引き締めなおせ。」


「……承知しました……。」


応接室には再び静寂が戻る。


「それまでの間は、エース格の5人に託すしかないが、まあ、奴等なら、しぶとく生き残るだろう。」


「……。」


 シルビアは何も答えなかった。


だが、その沈黙は否定ではなく同意に思えた。


「おい、教授、次は土井 近太郎陸士長を呼んで来い。」

登場人物紹介

浅原あさはら さとる……特戦群の群長。2000年にグーリエ星人が襲来して以降、戦い続けていた生き字引。

シルビア……GASTの中隊長

ブエンテロ……GAST隊員。話の内容からして、班長の1人と思われる。

教授……GASTの隊員。BJと共に杏南を応接室へ連れて行った隊員。三等陸尉らしい。

苫米地とまべち 杏南あんな……本作のヒロイン。GASTへ推薦される


※グラップル・ワイヤーは、浅原が考案し、「東野グループ」という大手企業が開発しました。「吉田秀一郎一等陸尉」は、実在しない人物です。

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ミリタリー SF ファンタジー 自衛隊 戦争
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