第89話 選ばれる者
「失礼します。」(杏南)
苫米地杏南です。今、GAST隊員に連れられ、富士病院の応接室に呼ばれています。要件は中で話すと言われ、どうして呼び出されたのか分からないままです。
「苫米地杏南二等陸士。本題へ入る前に、いくつか質問に答えろ。」(浅原)
「質問ですか?」(杏南)
目の前にいたのは、特戦群の浅原充群長でした。浅原群長の眼光は鋭く、私の全身を射抜くようでした。
「そうだ、質問だ。言っておくが、貴様に拒否権はない。」(浅原)
「(この人が…あの伝説の特殊作戦群のトップ…。尋常じゃない圧迫感だ。)」(杏南)
「りょ、了解です…。」(杏南)
「ここに案内した隊員の階級は?」(浅原)
「(階級? 確か…)」(杏南)
「三等陸尉。」(杏南)
「院長が読んでいた新聞は?」(浅原)
「(あ、そういう事か。)」(杏南)
「尾張毎日新報。」(杏南)
「グラップル・ワイヤーの開発者の名は?」(浅原)
「吉田秀一郎一等陸尉。」(杏南)
「初めて生け捕りにしたグーリエ星人の種族は?」(浅原)
「(これは、座学で習った。この情報、必要性を感じなかったけど、これもそういう事なのね。)」(杏南)
「人魚族。」(杏南)
「合格だ。では、要件を言う。シルビア。」(浅原)
「はっ」(シルビア)
シルビアと呼ばれた女性は、顔に大きな傷のある異様な雰囲気を醸し出す女性でした。鋭い眼光は、群長にも引けを取りません。
「私は、GASTの隊長だ。自己紹介は程々にして、単刀直入に言う。苫米地杏南、貴様をGASTへ推薦したい。」(シルビア)
「え?」(杏南)
「とは言っても、GASTは特戦群第5中隊扱いだ。二等陸士の貴様は、今すぐ入隊できるものではない。」(シルビア)
「はあ。」(杏南)
推薦したいけど、すぐに入れない? 何が言いたいのでしょうか…。
「特戦群の試験を受ける要件は知っているな?」(シルビア)
「レンジャー資格を有する三等陸曹以上の階級で、年齢は36歳以下の者、あと、職種に応じた特技がある者でしょうか。」(杏南)
「その通りだ。苫米地杏南、貴様はまず、その要件を満たせ。そして、GASTの一員として我々に力を貸せ。猶予は与えない。これは命令だ。」(シルビア)
「(あ、あの…しばらく考えさせてください。)」(杏南)
と言いたいけど、言えませんでした。これまでのやり取りで、私に拒否権はなさそうです。でも…、私は隼人と同じ隊にいたい。オペレーション・ギデオンで隼人に再開した時、感情が抑えきれませんでした。自分が思っていた以上に、隼人が大切な存在になっていたと気付いたのです。
「了解しました。」(杏南)
私はそう返事しましたが、心中穏やかではありません。そう遠くない将来、隼人と別れて任務をこなすことが決まったからです。グーリエ星人から、この国を守るため、我儘は言ってられませんが…。
「では、昇進試験及び、レンジャー試験に時期がきたら応募し、必ず1回で受かれ。36まで待てん。今は1人でも多くの戦力が欲しいからな。」(シルビア)
「(ひぃ~、凄いプレッシャー…。失敗できない…。)」(杏南)
「りょ、了解しました…。」(杏南)
「1回で受かれ」ですか…。失敗したらどうなるか、想像するだけで恐ろしいです…。命令だから従うけど、やっぱり、隼人と離れるのは辛いなぁ…。
「あと4人か。4人とも、この病院にいるんだな?」(浅原)
「いえ、万代佑大二等陸士は、退院し、原隊(板妻駐屯地)へ戻っています。」(シルビア)
「そうか。ならば明日は板妻へ行くか。」(浅原)
「しかし群長、その5人の若手、本当に戦力になるのでしょうか? 今回、偶然生き残っただけとも考えられます。特に、この万代二等陸士は…。」(ブエンテロ)
「黙れ!」(浅原)
「っ…。」(ブエンテロ)
「そもそも、貴様の班がしくじったから、隊員の補充が必要なのだろうが。」(浅原)
「も、申し訳ありません…。」(ブエンテロ)
「ふん、どうせすぐに入隊というわけではない。それまでに貴様も気を引き締めなおせ。」(浅原)
「…承知しました…。」(ブエンテロ)
「それまでの間は、エース格の5人に託すしかないが、まあ、奴等なら、しぶとく生き残るだろう。」(浅原)
「…。」(シルビア)
「おい、教授、次は土井近太郎陸士長を呼んで来い。」(浅原)
登場人物紹介
浅原 充
生年月日:1968年10月9日 / 出身:熊本県
階級:一等陸佐 / 役職:特戦群群長
備考:2000年にグーリエ星人が襲来して以降、戦い続けていた生き字引。
シルビア……GASTの中隊長
ブエンテロ……GAST隊員。話の内容からして、班長の1人と思われる。
教授……GASTの隊員。BJと共に杏南を応接室へ連れて行った隊員。三等陸尉らしい。
苫米地 杏南……本作のヒロイン。GASTへ推薦される
※グラップル・ワイヤーは、浅原が考案し、「東野グループ」という大手企業が開発しました。「吉田秀一郎一等陸尉」は、実在しない人物です。




