第88話 卑怯な嘘
守山駐屯地では、オペレーション・ギデオン(第7次首都圏奪還作戦)の作戦検証会議が行われていた。
会議室の空気は重かった。モニターには、オペレーション・ギデオンの戦況図が映し出されている。
「以上が、当部隊の戦闘経過です。」
報告を終えた隊員の声が、どこか硬い。その時だった。
「1つだけいいですか?」(天津種)
「天津種二佐か。どうした?」
「この戦闘では、敵の大がかりな奇襲により、当初の作戦が破綻していたことを前提で申し上げます。」(天津種)
「私は、作戦の下方修正として、海沿いで持久戦をするよう部下に命じました。しかし、部下達は命令を無視し、作戦の実行に大きな支障が出ました。」(天津種)
「部下達は、箱根へ向かって逃亡したのです!」(天津種)
会議室がざわつく。
「逃亡、だと?」
「はい。」(天津種)
天津種は淡々と続けた。
「本来、我々の任務は、上陸してくる水棲種を迎撃することでした。」(天津種)
「海岸線を維持し、持久戦に持ち込む。それが、当初からの作戦方針です。」
天津種はモニターの戦況図を指した。
「しかし現場部隊は、この防衛線を放棄した。」(天津種)
「結果として、敵の侵入を許し、作戦全体に影響を及ぼしました。」
会議室の空気が重くなる。
天津種は一度言葉を切った。
「なお、当該部隊の生存者は」(天津種)
天津種は資料をめくった。
「3名のみです。」(天津種)
モニターに名前が表示される。
山下 裕介元陸士長
諏訪 明登一等陸士
苫米地 杏南二等陸士
「彼らは命令を受けていたはずだ。」(天津種)
天津種は静かに言った。
「それにも関わらず、防衛線を放棄し、箱根方面へ撤退した。」(天津種)
「……」(天津種)
「私は命令しました。海岸線を維持せよ、と。」(天津種)
天津種は資料を閉じる。
「この命令違反については、正式に調査する必要があります。」(天津種)
その声は冷静だった。だが、その場の誰もが感じていた。これは単なる作戦検証ではない。責任の所在を決める場になりつつあることを。
「この3人は今どこに?」
「諏訪一等陸士と苫米地二等陸士は、富士病院に入院しています。山下は退官しました。」(天津種)
「そうか、ならば退院後に話を聞こう。今は会議を続ける。」
天津種はゆっくりと資料を閉じた。そして、誰にも気付かれないように――ほくそ笑んだ。これで2人は処分され、自身のプライドが守られると。
登場人物紹介
天津種 麗……35普連2中隊の中隊長




