第9話 斥候との駆け引き
その頃、同じ湯河原町内では、別の動きがあった。
「園山中隊長! 地頭曹長の班で小規模戦闘があった模様!」
※烏丸 豪二等陸曹
「詳細は?」
「敵は3体。うち1体は死亡、残り2体を捕縛したとの事、班に被害なし。」
「そうか…。」
園山は一考し、班員に伝える。
「ここにも敵兵が潜んでいる可能性が高い。周囲の警戒を一層厳にしろ!」
「了解!」
その時だった。
『こちら二瓶。敵3体を確認。座標を送る。そこから、地図上、8時の方向へ向かっている。』
※二瓶 清宗三等陸曹、第35普通科連隊情報小隊所属
二瓶は、一番近くにいた園山へ報告を行う。彼が捕えた敵は、先の河童族とは別の部隊である可能性が高い。
「了解。こちらも向かうが距離がある。追尾しろ。逃がすな。ドローンで位置を固定しておけ。我々が到着次第、挟撃する。必要なら威嚇射撃をしても構わん。」
『了解』
「第1分隊は私に続け。第2分隊は現位置警戒。指揮は廣嶋が行え。」
「了解。お気をつけて」
※廣嶋 史龍一等陸曹
二瓶の操縦するドローンが、敵兵のいる方向へと向かっていく。園山は、即座に戦闘態勢に移行する。
私の名前は、エルノミア・メッテ。帝国陸軍に所属しています。階級は兵士長で、ヒト族とエルフ族のハーフエルフです。私は今、斥候として2人の部下と湯河原なる街へ潜入しています。
この作戦は、敵兵を、本隊が罠を仕掛けている場所へ誘導するための作戦で、私達は斥候として自衛隊の進軍ルートを調査するものです。
「連絡が途絶えた?」
「はい、支隊長。先ほどから、ルマパ海軍伍長殿との連絡が途絶えました。アマハマ上等兵、バノアキ一等兵も同様にです。最後に通信が記録された座標へ向かいますか?」
※フィアン・ヴィシャラ一等兵
「戻る必要はないよ。」
「斥候が通信途絶になるのは珍しくないから。任務を続行しよう。私達の仕事は戦うことではなく、敵を見つけることだからね。」
(私達は、作戦の全容を把握しているわけではない。仮に捕縛され、尋問されても重大情報を吐きようがない。ルマパ伍長が捕えられても大きな問題にはならない。)
ルマパ伍長率いる水中偵察支隊は、大方、敵に討たれたのでしょう。支隊長のルマパ伍長とは、ブリーフィング室でお会いしましたが、自信家というか、どこか過信していましたから、ヘマしても驚きはしません。
「支隊長」
レオンの耳がぴくりと動いた。
「……上空で風を切る音がします。」
「鳥じゃない。回転翼です」
「伏せろ。動くな。」
私は空を見上げます。小さな黒い影が、雲の隙間を横切っている。
「……ドローンだね」
レオン・アルフット一等兵は、犬型の獣人族です。それだけに、嗅覚に優れています。私達は、"上空から近づいて来る何か"を把握できていませんでしたが、彼の嗅覚が、いち早く気付いたのです。ちなみに、もう一人の部下、フィアン・ヴィシャラ一等兵は、私と同じハーフエルフです。
私は、ドローンを目で追い続けます。私達、帝国軍は、ドローンを使った攻撃は当たり前の戦術になっていますが、自衛隊もここ何年かのうちに、ドローンを使った攻撃を用いるようになりました。性能もだいぶ良くなっており、我々帝国軍も痛い目に遭ったこともあるのです。
「近くに敵はいる?」(メッテ)
「今のところ、敵の臭いはしません。」(アルフット)
「空偵支隊に、援軍を頼みますか?」(ヴィシャラ)
「そうだね、彼らにドローンを迎撃してもらえば助かる。私が、連絡を――」(メッテ)
その瞬間、レオンの叫び声が聞こえます。
「支隊長、後ろ!」
振り向いた。そこには――建物の陰から低空で接近するもう一機の攻撃型ドローン。
「しまっ――」
乾いた射撃音が街に響き、レオンの体が弾き飛ばされました。
「散開!!」
ドローンからの威嚇射撃を逃れていると、今度は上空を哨戒していた偵察型ドローンの後ろから現れた攻撃型ドローンが、私達の背後を取り――不覚………。
『こちら二瓶、敵3体負傷確認。位置固定した。』
「敵は手負いだ。」
園山は無線に向かって短く言った。
「全班、交戦許可。近接戦闘用意!」
「逃げる前に仕留める!」
「了解!」
「地頭班には負けてられないな!」(下葛)
アサルトライフルの安全装置を外す。
静かな廃墟の街に、「カチッ」という音が響いた。
登場人物紹介
廣嶋 史龍……1990年1月24日生まれ / 東京都 / 一等陸曹 / 35普連2中隊所属
エルノミア・メッテ……帝国陸軍兵士長で、ハーフエルフの女性。斥候として湯河原に潜入していた。
フィアン・ヴィシャラ……帝国陸軍一等兵。ハーフエルフの女性。メッテの部下。
レオン・アルフット……帝国陸軍一等兵。犬型獣人族の男性。メッテの部下で、嗅覚に優れる。
グーリエ星に存在する種族
ヒト族……所謂、グーリエ星内における"普通の人間"で、特徴も地球人と似ている。グーリエ星のヒト族の平均寿命は110歳、健康寿命は88歳で、60~70代でも高い運動能力や集中力を有する。ヒト族の亜種として、天狗族やスノー族という人種が存在する。
エルフ……ファンタジー物でお馴染みの長い耳と長寿が特徴の種族。他種族との親和性も高く、ハーフエルフも多い。上位種に「ハイエルフ」、亜種として「ダークエルフ」が存在する。
ハーフエルフ……他種族と混血のエルフ。ヒト族とのハーフエルフが最も多い。エルフの血が流れていても、外見や特性にエルフの特徴が出ないと、長寿にはならない。
獣人族……哺乳類の特徴が、外見や強みに出ている種族。犬型・猫型・獅子型等、多岐にわたる獣人が存在している。それぞれの動物の特性を兼ね備えている。
※支隊……アステリム帝国軍における、部隊の1つ。3~6人と小規模で動く部隊のこと。支隊長は、兵士長以上の階級の者が勤める。
※2)水中偵察隊……水中の中を自在に動ける種族で構成されている斥候部隊に名付けられる。前話・今話では、「支隊」だったが、支隊以上の規模で動くこともある。メッテの部隊は、陸上偵察支隊と呼ばれる。




