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外星戦記  作者: 無名の凡夫


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第86話 突きつけられる現実

――2020年9月30日 16:50 月白展望台――


「さあ、着いたわよ。手当してもらいなさい。」(フロリアン)


拠点の月白展望台に着いた僕らは、医官に診てもらう事となった。僕はともかく、杏南や諏訪一士は至急、治療が必要だった。それに、急性ストレス障害になった木山も。


ピットブル班の皆さんは、僕たちを送り届けると、再び戦地へ向かった。GASTは、北海道の奪還をした後、短い休暇を経て駆けつけてくれた。北海道、首都圏と長期間の戦闘をしていて頭が下がる思いだ。


「あんたも来なさい。」(内田希依(うちだ きい)陸准尉)


「いや、僕は大丈夫です。」(隼人)


そう言った瞬間だった。足の力が、急に抜けた。さっきまで走り回っていたはずの身体が、嘘みたいに重い。それどころか、肩や脇腹、脚のあちこちから鈍い痛みが一斉に湧き上がってきた。


「うっ…!」(隼人)


「緊張の糸が切れたんだろう。」(和戸)


「和戸一尉!」(隼人)


僕は思わず叫び、和戸一尉に近寄ろうとした。


「いて…。」(隼人)


「無理するな、お前も早く治療を受けろ。俺も無傷じゃないから、早く治療を受けたい。」(和戸)


「すみません…。」(隼人)


和戸一尉は、智川三曹と共に動いていたそうだが、智川三曹は戦死したと聞く。


「そうですか…。智川三曹が…。」(隼人)


和戸一尉は、部下を守れず、自身のみが生き残った現状を悔いていた。


しばらくすると、益子一士が、重傷を負った矢戸一士と共にやって来た。益子一士は、足を怪我しているが、意識ははっきりしている。しかし、矢戸一士は、瀕死の重傷のようだ。


「はい、どいてどいて!」(内田)


「こっちは一刻を争う! 急ぎ富士病院へ搬送を!」(原田舞洲(はらだ まいす)三等陸曹)


月白展望台では、怪我人の応急処置や搬送、死傷者の情報共有まで、慌ただしく動いていた。駐車場には、臨時の医療テントがいくつも張られていた。担架を運ぶ隊員、止血をしている衛生員、無線で搬送先を確認する隊員。あちこちで怒鳴り声と指示が飛び交っている。ここはもう展望台なんかじゃない。完全に、戦場の野戦病院だった。


「小城や要は無事だろうか…。」(隼人)


「そうだ、瑛松二曹や、亜久二曹はいませんか?」(隼人)


和戸一尉は首を横に振った。まだここにはいないようだ。ただ、僕らの近くで戦っていた。きっとGASTが援軍に来ている。僕は、彼女たちは生きていると信じていた。


「コラ! 怪我人はおとなしく中で休んでなさい!」(片倉玲子(かたくら れいこ)三等陸佐)


「申し訳ありません。でも、一緒に戦った仲間を迎えたいんです…。」(杏南)


杏南はそう言って出ていく。諏訪一士も同じ気持ちだったようだ。外へ行くと、回収された遺体が送られてきた。特戦群やGASTにも死傷者が出ている。第1空挺団の第1普通科大隊が壊滅したと、治療中に知った。


「あの空挺団が…。」(隼人)


トラックの荷台には、白いシートが並べられていた。整然と。まるで荷物でも運ぶみたいに。でも、そこにある形は、どう見ても人間だった。誰も、すぐには近づこうとしなかった。


瑛松二曹をはじめ、殿となって僕らを守ってくれた先輩方の姿は、そこにはないと信じたかった。しかし、現実はそう甘くない。


僕は、全身の痛みを忘れ、1番手前のシートに近づいた。


「……瑛松……二曹……?」(隼人)


自分でも驚くほど小さな声だった。指先でシートの端をつまむ。めくるのが怖かった。それでも、僕はゆっくりと布を持ち上げた。


杏南は、シートに駆け寄ろうとして、その場に崩れ落ちた。彼女は、涙すら出ない様子で、両手で口元を覆う。瑛松二曹は、戦場で最も頼りになった上官だったのだ。諏訪一士は、須田二曹の遺体を見つけ、無言で拳を握りしめ、地面を強く殴りつけた。


「クソが!!」(諏訪)


諏訪一士は地面を殴った。


「クソが! クソが!」(諏訪)


乾いた音が、何度も地面に響く。


「なんでだよ……!」(諏訪)


「なんで先輩が死んで、俺が生きてんだよ!」(諏訪)


「クソが!! クソが! クソがー!」(諏訪)


彼は、戦場での無力さと、先輩たちを見殺しにしてしまったという自責の念に打ちのめされていた。坂下と山下陸士長は、目を逸らすこともできず、青白い顔で立ちすくんでいた。特に、山下陸士長は、直前まで殿を務めていた先輩たちの顔を思い出したのか、恐怖と悲しみで声が出ない。


僕は、一番近くのシート、瑛松二曹の遺体に近付いた。


「あ……」(内田)


内田准尉が静かに言った。


「顔は……見るな。もう……痛くない。」(内田)


しかし、僕はその忠告を無視し、シートの端を少しだけめくった。そこに横たわっていたのは、変わり果てた瑛松二曹の姿と共に、横に並べられた4枚のシート。


「……亜久二曹も、だ…?」(隼人)


「須田二曹、新山三曹、中西三曹まで…。」(隼人)


5人の遺体には、激闘の跡が残っていた。僕達を守るべく、命を賭して守ろうとした先輩方の矜持。それと同時に、己の無力さも込み上げてくる。


僕の声は、まるで冷たい空気のように、月白展望台の喧騒に吸い込まれていった。シートの中には、魚見陸士長の遺体もあった。杏南が魚見陸士長の遺体を見つけると、その場に膝をつき、涙を流す。


「まひる先輩、帰ってこれて…良かった…。」(杏南)


「えっ? まっぴー!?」(朱杏)


治療へ向かうはずだった角南陸士長が、魚見士長の遺体のもとへ駆けつける。彼女は、魚見士長の死が信じられないようだった。


「まっぴー…噓でしょ? ねえ、まっぴー…。目を開けて、目を開けてよ!」(朱杏)


「こら、遺体に触れるな!」(内田)


「まっぴー!!」(朱杏)


「う…う…うわあああああああああああああああああああああああああ」(朱杏)


その悲鳴は、張り詰めていた月白展望台の空気を切り裂き、周囲の自衛官たちの胸に、「生き残った者」としての重い鉄槌を打ち下ろした。何人かの隊員は、耐えきれず顔を覆った。


「う、ううう…ぐすっ、うう…。」(隼人)


僕も、釣られて涙が溢れてきた。


次々と運ばれてくる白いシート。泣き崩れる者。声も出せず立ち尽くす者。誰もが理解していた。この作戦は、成功なんかじゃない。これは――敗北だ。


オペレーション・ギデオン(第七次首都奪還作戦)は、失敗したのだ。その失敗の代償として、大切な仲間を永遠に失ったのだと、重い現実を突きつけられた。


第一部 完

登場人物紹介

内田うちだ 希依きい

生年月日:1989年6月8日 / 出身:東京都

階級:陸准尉 / 所属:富士病院に勤務している看護師


原田はらだ 舞洲まいす

生年月日:1997年1月5日 / 出身:岐阜県

階級:三等陸曹 / 所属:富士病院に勤務している看護師


片倉かたくら 玲子れいこ

生年月日:1978年11月13日 / 出身:静岡県

階級:三等陸佐 / 所属:富士病院に勤務する医師。


段場だんば 隼人はやと……本編の主人公。35普連2中隊所属の二等陸士

苫米地とまべち 杏南あんな……隼人の同期で恋人。多大な戦果を挙げるが負傷してしまう

木山きやま 拓哉たくや……隼人、杏南の同期。味方を誤射し、急性ストレス障害を発症

山下やました 裕介ゆうすけ……渚の同期

坂下さかした ジュリア……35普連3中隊の新人

諏訪すわ 明登めいと……謎の力に覚醒した若手

フロリアン……GAST「ピットブル班」のゴリラ型オネエ

和戸わこ 一暁かずあき……35普連2中隊の経験豊富なベテラン

益子ますこ 武朗たけろう……35普連2中隊の女癖の悪い隊員

矢戸やと 聡士そうし……瀕死の重傷を負う

角南すなみ 朱杏しゅあん……まひるとは同期で元バディ

亜久あく 弘夏こうか……理央の同期、享年28歳

瑛松えいまつ 理央りお……気が付けば本編の準ヒロインみたいな立ち位置だった。享年29歳

須田すだ 寿一じゅいち……諏訪を導いた上官。享年26歳

新山しんやま がく……35普連2中隊の三等陸曹

中西なかにし ほたる……35普連2中隊の若き三等陸曹。享年22歳


※魚見まひると、角南朱杏の関係

朱杏は、地元北海道が帝国軍に侵略された際、父と弟を失いました。その悲しみから暗い影を落とし、感情を表に出さなくなりました。


朱杏は、元々の夢だった保育士になるべく、保育士資格が取れる短大へ進学しましたが、父や弟を殺した帝国軍への怒りがシコリとして残っていました。短大卒業後、父・弟の敵討ちをすべく、自衛官になることを決意。そこで出会ったのが魚見まひるでした。


まひるは、明るい性格で人懐っこく、厳しい訓練の中でも弱音を吐かず、同期を励まし、勇気づけました。そんなまひるとバディを組んだ朱杏は、彼女の明るい性格に惹かれ、徐々に明るさを取り戻していきます。そんな2人は、ただの同期ではなく、親友と呼べる関係にまでなりました。まひるは小田原市出身で、故郷へ向かう直前に戦死してしまいました。

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